第4回「新中学入試セミナー」in 和洋九段ー自己変容型マインドセットが育つPBL

2月16日(日)和洋九段女子「フューチャールーム」で、21世紀型教育機構(21st CEO)主催の「新中学入試セミナー」が開催されました。 

by 鈴木裕之:海外帰国生教育研究家

セミナーの幕開けは、首都圏模試センター取締役教育研究所所長の北一成氏による最新の中学入試情報です。千葉・埼玉・茨城・東京・神奈川の私立・国公立中高一貫の動向を広く分析、首都圏の中学受験生の数が6年連続で増加していること、なかでも思考力入試やプログラミング入試、PBL入試といった「新タイプ入試」を実施している学校が増加している背景について講演していただきました。6年先、あるいは10年先の社会の変化を見越した保護者が、偏差値に依存しない学校選択をしている傾向を伺い知ることができました。

和洋九段女子中学校・高等学校校長の中込先生からは、和洋九段のPBL授業についての説明をいただきました。和洋九段では、全科目全教員が同じ構造のPBLを実践しているということです。その徹底ぶりがあるからこそ、「PBL入試」と銘打った入試が実施されることになったわけです。

「トリガークエスチョン」→「個人ブレスト」→「グループブレスト」→「プレゼンテーション」→「共有」という全教科共通構造のPBLを通して、生徒は自分を表現することに目覚めていきます。その変容を生徒自らが創り上げているところにPBLの神髄があると中込校長先生は語ります。

休憩後、オーディエンスの保護者や教育機関関係者は、2つの会場に分かれて和洋九段中学の中学3年生たちがナビゲーター役を務めるPBL型のワークショップに参加しました。

最初はとまどっていた「大人たち」も、生徒たちの指示にしたがって「SDGsすごろく」をしていくうちに、すっかりSDGsの目指す世界に入り込み、「森林火災で〇番のカードを失う」とか「環境保全に協力してコインをゲット」などといったマス目に書かれた文言に一喜一憂します。

人生ゲームが個人の成功を目指しているゲームだとすれば、「SDGsすごろく」は地球全体の幸福を目指しているゲームです。そのような大きな問題を扱っていながら、和洋九段の生徒は押し付けがましい態度がまったくなく、それでいて大人たちをしっかりファシリテートしている様子が素敵でした。

PBLは「教える⇔教えられる」という関係から「気づき合い」の関係へと参加者を変容させるのです。「持続可能な開発目標」が子どもたちにとってより切実であることは、21世紀を生きる彼らにとっては当然のことです。ゲーム終了後に参加者から「17のゴールのうちどのゴールに最も関心があるか」という質問があった際には、それぞれの生徒がしっかりと自分の意見を述べていて、その姿は頼もしくさえ感じられました。

続いて行われたのは、PBLを実践している学校の先生と生徒たちとのパネルディスカッション。新タイプ入試とPBL型の授業の関係や、生徒の未来にどうつながっているかというトークセッションです。

和洋九段教頭の新井誠司先生からは、この2月に実施されたPBL入試の動画の紹介がありました。受験生同士あるいは受験生と在校生が入試というイベントで交流できることが、「日本で一番入試らしくない入試」というキャッチフレーズ通り、楽しい雰囲気につながっているということです。そして、そういった楽しい雰囲気の中で「共創」することの意義をお話されます。論理性や創造性に加えて、他者を受容するコミュニケーション力などが重視されて選考が行われているといった解説がありました。

聖学院21教育企画部長の児浦良裕先生と工学院教務主任の田中歩先生からは、思考力入試で問われている力と入学してくる生徒についての紹介がありました。

児浦先生は、レゴを使った表現が生徒の潜在力を引き出すことを、実際の生徒の作文を使いながら説明します。思考力入試で合格してくる生徒は2科4科という評価尺度では必ずしも良い成績でないこともあるが、入学してから成績や才能をぐんぐん伸ばしていくことが過去の事例から「分かっている」ので、自信を持って特待生を出しているということでした。

田中先生は、工学院でも、和洋九段のPBL型授業と同様、ステップ型のプロセスを経た思考力入試を実施していて、受験生が何かに気付き変容する瞬間があるということを指摘します。そのような生徒は、学校に入ってからも自分のやりたいことを見つけ、それを探究していこうという自己変容型のマインドセットを持つようになるということでした。

首都圏模試センターの北一成所長は、新タイプ入試の受験生の受験率や入学率の高さに触れ、学校のカリキュラムがよく分かったうえでそういった入試を受験している層が増えていること、そして4年ほど前にはそういった入試に批判的だった学習塾の態度もだいぶ変わってきたことを指摘します。

パネラーの先生方が一通りお話をされた後、和洋九段の生徒たちとの対話が始まりました。PBL型授業が自分をどのように変容させたかという質問については、多くの生徒が、プレゼンテーションなど自己表現の場を経験することをきっかけとして、自分が変わったと話してくれました。クラスメートに積極的に質問したり、自分の意見を述べることに自信を持てたりしたことが成長を実感する経験として共有されました。

先生方からは、思考コードのC軸、つまり創造性を開いていく授業は、正解・不正解の中に生徒を押し込めないことが、生徒の自己表現を促進する効果につながっているという説明がありました。そのことを証明するかのように、「PBLのPは皆さんにとって何を意味しているでしょうか」という田中先生からの突然の質問に対しても、生徒は「Program」だったり「Problem」だったり、あるいは「Practice」だったりと、それぞれ自分なりの回答と説得力ある理由を述べていました。これには質問を投げかけた田中先生自身も驚いていました。

会場にいた受験生の保護者からは、家庭でどのようなことを意識したらよいかという熱心な質問もありました。「否定ではなく、違う角度からの質問を出して子どもと対話をしていく」といった回答や、「学校イベントに参加し、実際に思考力講座を体験してみてはどうか」といった回答に、頷いている保護者や塾関係者たちの姿が数多く見られました。

最後は、21世紀型教育機構のアクレディテーションチームから、21CEOの加盟校のアクレディテーションスコアの3年間推移などが紹介されました。特に、授業に関連する3つの評価項目について、PBL型授業を推進することは、生徒の高次思考を促進し、ICTの積極活用にもつながるため、全体のスコアを引きあげていることがデータ的にも検証できると、株式会社FlipSilverlining代表の福原将之氏から説明がありました。

さらに、株式会社カンザキメソッド代表神崎史彦氏からは、PBL型授業は、生徒の自己変容型マインドセットを育成するということ、そのことが、知識の出し入れをするだけの授業よりも、結果的に大学入試に関しても非常に有効であるというお話がありました。

総合司会を務めた児浦先生と田中先生は、全体のタイムキーピングをしながら、生徒たちやオーディエンスをうまく盛り上げ、セミナーの参加者の一体感のようなものを創り上げていました。最後には、参加した生徒たちや会場を提供してくださった和洋九段の先生方、そして受験生保護者や教育機関関係者の皆様に感謝の言葉を述べて散会となりました。

 

 

 

 

 

 

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