三田国際学園 学びの質へさらなる進化

三田国際は、偉大な教育改革を断行して2年目を迎えます。インターナショナルクラスのイマージョン教育は、日本の教育界に大きなインパクトを与えました。そして今も与えています。英語をオールイングリッシュで行うばかりではなく、理科、社会、数学までもオールイングリッシュで行うクラスができたからです。言い換えると、いわば一条校としてのインタナショナルスクールの糸口がそこに生まれたからです。

また、昨今トレンドになっているアクティブラーニングも、相互通行型授業あるいはPBL(=Problem based Learning)として、当然展開しています。ただ、このPBLは、驚くべきことに、インタクラスのみならず本科クラスすべての授業で行われているのですから、驚愕の振動が日本全国に走りました。

そして、さらに驚くべきことは、改革2年目を迎える中2のPBL授業がDeep Active Learning(深いアクティブラーニング:以降「深いAL」)に進化したのです。世の中がやっと、Surfacce Active Learning(浅いアクティブラーニング:以降「浅いAL」)に到達しかけている時に、先鋭的な深いALに突入したのです。(本間勇人:私立学校研究家)

(生徒がプレゼンした後、ポール先生はリアリスティックアプローチの問いかけをします。これが生徒の才能に火をつけます。)

見学したインタークラスは、ポール先生の理科の授業でした。中2は、インタークラスが3クラスありますが、ホームルームクラスは、CEFR基準の英語のレベルでいうと、B1レベルの生徒もC1レベルの生徒も混合ですが、各教科の授業の時には、全教科イマージョンで授業ができるクラスは、B2レベル以上の生徒が集まります。

ですからインタークラス3クラスとも、同一時間に理科の授業が行われますが、英語と日本語の違いはありま。もちろん、理科の授業はすべて深いALであるPBL授業です。

2時間続きの授業なのですが、ポール先生の授業は、一般の日本の授業とは違います。2時間続きというと、普通は同じテーマを1時間では終了しないから2時間続けて行うという連続型授業を思い浮かべるでしょう。

ところが、ポール先生の授業は、2つのプロジェクトを2時間の授業に割り当てています。実はこれが深いALの極意です。1時間目の授業は、ゴルフボールやバレーボール、サッカーボールなど複数のボールをその特徴によってカテゴライズするプロジェクトです。いろいろな分け方があるじゃないかと思うでしょう。そうです。それでよいのです。

生徒によっては、道具を活用するしない、ソフトかハードかなど、基準は様々です。日本のこの手の教育は、正しいカテゴライズの方法があって、全員にプレゼンさせながら、正解を絞っていきます。いくつかの生物のカテゴライズなど、正解が決まっているものを、全員がプレゼンしたとしたら、何人も正解を語りますから、聴いている方はつまらなくなります。

ところが、素材が多様なボールです。教科書にあるわけでもないですから、いろいろな切り口、すなわち基準の立て方で、解答は何通りも出てきます。ポール先生にこのプロジェクトの目的を尋ねると、「カテゴライズの方法を自分の基準でつくる試行錯誤こそ科学的な思考ですからね」と。

科学は知識を憶えることではなく、それはインターネットというグローバルブレインで調べればよいわけで、最も重要なのは基準を自分でつくり、公開し、協働して、議論して検証していく過程であるというのです。

全員がプレゼンしても、みな解答が違うので、聴いてる方も興味津々。自分とどう違うのか、思考は回転しっぱなしです。そして、何より重要なのは、プレゼン直後、ポール先生は、生徒がたてた基準と分け方の齟齬があれば、そこを問いかけます。パーフェクトでも、他のボールを提示して、どう分けられるのか、応用が効くかどうか問いかけます。論理的思考、クリティカルシンキングが創造的思考を思い付きではなく、確かなものにしていきます。

これが深いALとしてのPBLの奥義です。このソクラティックメソッドは、なかなか日本の教育では導入しにくい難しい教授法なのです。

2時間目のプロジェクトは「ヘルシーダイエット」です。体重を減らすためのプロジェクトではありません。健康を持続可能にする食事のメニューを考えるプロジェクトです。米国のマクドナルドのメニュー(日本のメニューには細かいカロリーの記載がありませんが、米国では一覧票になって公開されています。そういう法律に従っているわけです)をつかって、朝昼晩、1週間のヘルシーダイエットメニューをチームでデザインするPBL授業です。

このプロジェクトは、1時間目のボールのプロジェクトとは違い、かなり綿密なリサーチ、複雑な条件の整理、どのメニューは最適なのか検証していく議論が必要です。ボールにしても、マクドナルドのメニューしても、すべて身近な事象や現象をいかに科学的思考に変換するのかというのは、プラグマティックな欧米のサイエンス教育の特徴です。

IBのディプロマにしろAレベルの学びにしろ、それは共通しています。最近日本の科学教育も形態だけは似てきていますが、そこにはソクラティックメソッドがありません。科学的思考を複合的に組み立てていくプログラムが存在しません。

これはアクティブラーニングの場合も同じです。京都大学の溝上慎一教授は、ノエル・エントウィルス(エジンバラ大学名誉教授)の成果に拠って、そのような形態だけのアクティブラーニングを浅いALと呼びます。これに対し、コンペア・コントラスト、コーズ・エフェクト、カテゴライズ、反証可能性などの思考の質を生徒が協働しながら自分の物にしていくポール先生のようなアクティブラーニングを深いALと呼んでいます。

中1のときに学問の三要素、好奇心、開放的精神、なぜだろうという問いかけを徹底的に体験してきた三田国際学園の中2生は、いよいよ学問的探究世界に突き進む質の高い学校生活を送ることになったのです。

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