工学院 メディアリテラシーは自分と世界と未来を創る(2)

工学院の図書委員たちは、本の貸出返却情報、入館率などのデータベースを編集しながら、どうしたら本好きの生徒が増えるのか、図書館のアピールのために、図書館の環境を整備したり、空気をデザインする。学校図書館という空間がプレイフルになるようにプロデュースする。都留文科大学の学生の皆さんもその空間デザインの幾つかを体験。

棚の配置は憧れの最近接発達空間デザイン

本を一般的な分類法で棚に整理していくと、機能的で効率は良いが、空間の統一性がなくなる。しかし、この統一性にこだわると、見た目だけの表面的配置になり、機能性が失われる。さて、どうするかここで「問い」が生まれる。そして創意工夫が生まれる。

「学校図書館」が、日々いろいろな考え方をしているのを学生も納得。私は、文庫本の配置がおもしろかった。生徒の目線にすぐに合うところには、ヤングアダルト(YA)関係の文庫本を置く。有山先生は、YAコードと呼んでいるが、これは生徒の好奇心を触発するストーリー基準だそうだ。YAコードに合わせて、本を購入することもしているというわけだから、ここでもデータベース編集が功を奏している。

このコードによって、たとえば、「文学少女」を読んだ生徒が、宮沢賢治や夏目漱石の世界にジャンプするというこがあるそうだ。どんなに名著でも、古典の領域は、時代が違いすぎる。しかし、YAコードによって、好奇心を抱いた生徒が、実は古典にも同じように時代を超えるおもしろいものがあるということに気づけるのである。

そのようなYAコードの本との出会いを棚の空間デザインによって働きかけているというのである。その生徒にとっては、その出会いの場が、ヴィゴツキーの言う「発達の最近接領域」なのだと有山先生は語る。「私にとっては、学校図書館は、生徒にそのような出会いの場をつくる≪憧れの最近接発達領域≫なのです」と。

本のフィールムコートは情熱の空間デザイン

夏休みでも、さすがは本好きの図書委員。本を紹介するPOPづくりのために来ていた。最近はキンドルのような端末で電子書籍として読むことができるが、その傾向について聞いてみた。するとすぐに

「許せませんね。本というのは、装丁、イラスト、活字の大きさ、発行年からの時間経過の感覚などリアルな情報もあります。触覚やページを繰る音の感覚、本によっては重量感など視覚以上のたくさんの感覚が集まっています。それを取りこぼさないように、有山先生やわたしたち図書委員が、一冊一冊フィルムコートをして守っているのです。そしてだんだん借りた仲間の息吹が重なっていきます。ただ古くなっているのではないのです。そういう大切なものを完璧に捨てるというのは私は許せません」と。

すぐに自分の浅薄な読書理論を猛反省。これぞ「学校図書館」の醍醐味だったのか。それを奪うことは、たしかにいけない。そんなことを思っていると、フィルムコートに没頭している学生に、日向先生がこの作業の労力と効率性、そして豊かさとコストの関係のジレンマの問いかけをしているところだった。

ジレンマを乗り越える情熱空間が、一見すると二次元のようなフィルムコートに埋め込まれていたのだ。

 

 

 

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