戸板中学校・戸板女子高等学校(以降「戸板」)は来春からシラバス及びカリキュラムを変えていく。高校からスーパーイングリッシュコースとスーパーサイエンスコースを開設。しかし、根本的には授業のパラダイムを20世紀型から21世紀型にシフトするところから徹底する。
グローバル教育、イノベーション教育のベースはリベラルアーツ。リベラルアーツの拠点は、対話やディスカッションという他者と言葉を交わす授業。課題解決のコラボレーションをしながら理解を深め、学ぶ意欲を高めて勇ましい高尚なる精神を育成していく。まずは歴史を通して世界を考察する社会科が21世紀型授業に着手した。市川先生(日本史)の挑戦を紹介したい。(by 本間勇人:私立学校研究家)
反転授業
東大の山内准教授が推奨している「反転授業」。21世紀型授業のモデルの1つとして米国で広がっているという。今まで授業で講義していた内容は、自宅で生徒がやってくる。予習とは違い、学校の授業では、もはやその解説はしない。いきなり応用問題や発展問題に取り組んだり、ディスカッションをして探求していく。
今回市川先生は、反転授業の流儀も取り入れた。既習事項であるということもあるが、生徒はNHKのテストの花道で紹介された「リポーター法」を活用して、与えられたキーワードについて調べてレポートを編集してくる。そしてペアになって、互いに自分の編集したレポートを解説し、互いに質問や改善点について議論するところから授業が始まるのだ。
もっとも、まずはいつもの授業とは違うので、スイッチの切りかえと集中の雰囲気をつくるため、10分間は、もう一度自分のレポートを完成させる時間として設定したようだ。
PIL(ピアインストラクションレクチャー)
生徒たちは机と椅子の配置を変えて、互いに教え合えるように空間デザインを整えた。レポートを説明する側が立ち上がって、解説する。それを交互に行う。それが終わったら、今度は質問や改善点について話し合う。
レポートを教える方が立ち上がるのは、クラスの雰囲気が思考と議論へ前のめりになるようにメリハリを生み出すため。市川先生は、たしかにコンテンツについては教えないが、アクティブティな流れが自然と生まれてくるように、進行が目に見えるように立ったり、話し合ったりする行為は促していた。まさにファシリテーターに徹していたのである。
最初はポツポツという感じで、教え合いが始まった。しかし、しばらくすると、教え合いや議論が巻き起こった。市川先生は、次第に教室の周りを歩きながら見守る姿勢になっていった。
改善点などについて、話し合っているチームに耳を傾けてみると、テーマと内容が合っていないのではないか。理由が足りないのではないか。私には気づかなかった点だとか、喧々諤々。テキストや資料やその他の情報を編集する過程が生成されている。編集とは何かをレクチャーするのではなく、互いに知恵を出し合うことによって、編集過程を体験し、編集の方法を学んでいく新しいプログラムが展開していた。しかし、市川先生は、やっと準備が整いました。これからが本番ですと次の展開を仕掛けた。
ジグソー法
それは、ペアを組み変える仕掛け。自分とは違うテーマをレポートした仲間を探し、もう一度教え合うところから始めるのである。今度は一斉に始まったし、一度行っているから、市川先生はただ見守っているだけ。知の合奏を聴きながら目を細めていた。
あとで生徒たちから感想をきいてわかったのだが、この組み変えてからの教え合いは、とても盛り上がったという。一度説明のリハーサルは終わっているから、スムーズにいくし、自分が調べていないテーマについて再編集されたものを聴くわけだから、内容も濃かったという。改めて取材をしているという実感も抱ける余裕も持てたようだ。
プログラム終了後、市川先生は、生徒たちに今回のような新しい学びについて、感想を聞いた。すると、調べてレポートを編集し、さらに教え合うことによって知識がいろいろつながっていることに気づいた。リンクするから知識が定着しやすいなどという声がでた。
そこで、市川先生は学習のピラミッドの話をした。ただ教えられているだけでは、学力や知識の定着率は5%だと言われている。しかし、話し合ったり、教え合ったりすると定着率はグッと上がるのだよと。生徒の実感と学びの論理がカチッと音を立ててシンクロした瞬間だった。