国際協力プロジェクトは、他国の情報を分析し、問題を発見、解決方法を提案・実行する力を育むことを目標に、聖徳学園の高校2年生全員が1年間かけて行う活動です。主に総合科の授業で行っていましたが、2017年度は、ICT活用という側面も考慮し、情報科の授業とも連結させたということです。昨年先輩たちの報告会に参加し、発表を聞いていた生徒たちですから、昨年度以上にパワーアップしていることが期待されます。3月13日に行われた最終報告会を取材させていただきました。 by 鈴木裕之: 海外帰国生教育研究家
プロジェクトを推進するグローバル教育センター長の山名和樹先生は、国際協力プロジェクトが総合科だけでなく情報科と連動した意義について、STEAM*をキーワードにして説明を行いました。「想い」を形にするために、「創造力」「技術力」「展開力」を掛け合わせることが必要だと強調します。このプロジェクトを通して、生徒たちが3Dプリンターを駆使して贈り物を作成したり、あるいは、ランゲージアーツやビジュアルアーツの集積によってポスターや動画を作ってきたりした成果に触れ、最終報告に至るまでの道のりを振り返りました。
*STEAM…Science、Technology、Engineering、Art、Math
1組から6組までが担当する国はそれぞれ、ルワンダ共和国、ミクロネシア連邦、タイ王国、スーダン共和国、モザンビーク共和国、インドネシア共和国です。3人から6人くらいのグループが壇上で自分達の成果発表を行います。
各国の問題を発見するとは言っても、先進国のようにニュースが頻繁に報道されるわけではありません。インターネットという「利器」をもってしても、現地で暮らしている庶民の生活情報というのはなかなか入手できません。そもそも英語で入手できる現地情報は限られているのです。
そこで、実際に現地を体験したJICAの青年海外協力隊の力を借りることになります。聖徳学園では、ずっと以前から、JICAとの交流を続けていて、JICAの協力を仰ぐだけではなく、学校から職員をJICAに派遣するなど様々な相互協力を続けてきたそうです。そのようなネットワークがこのプロジェクトを支えています。
生徒たちは、協力隊の人たちの体験やインターネットで入手したニュース、さらに各国の基本統計データなどを総合して問題点を炙り出していきます。当然、同じクラスでもグループによって問題点の特定や解決策には違いが出てきます。
発表を行うクラスの代表グループは、そういった他のグループの活動にも配慮していました。つまり、他のグループの活動を通して、問題に対する複眼的な見方ができるようになっているわけです。他のグループの活動を排他的に捉えるのではなく、相互に組み合わさることでより多くの人々を助けることにつながるという考えが前提になっていました。
第1部のプレゼンテーションが終わると、体育館のあちこちで各グループのポスターセッションならぬ、iPadセッションが行われ、壇上に上がらなかったグループも自分たちの成果を高1生や来賓者に説明し始めました。成果とは、うまくいったものばかりではなく、反省すべき点もまた成果と言えます。なぜなら、その経験は後輩に受け継がれていくからです。「輸送費が意外と高いから、物品を送るのなら軽い物を選んだ方がいい」など、非常に具体的で実践的なアドバイスも聞かれました。
生徒のプレゼンテーションが終わって、来賓の方から講評がありました。ミクロネシア連邦大使館の末永氏は、ミクロネシア連邦は日系人が一番多い国で、自分も国籍はミクロネシアですと自己紹介した後、次のように語りました。
「この中で自分が国際貢献できたと思う人はどれくらいいますか。・・・私は皆さん全員が国際貢献をしたと思います。他国のことを少しでも理解したということがすでに国際貢献なのです」
非常に力強い言葉でした。国際協力とは、相手を知ることを通して自分の存在をリフレクションすることに他ならないのだと揺さぶられました。
伊藤校長先生は、学外からの様々なネットワークをつなげ、いくつものプロジェクトを大きな学びに展開していく手腕を発揮しています。
JICAと共同プロジェクトを始めたばかりの頃、勉強熱心な留学生に、そのエネルギーがどこから来るのか尋ねたところ、自分は祖国の人のために諦めるわけにはいかないという言葉が返ってきて衝撃を受けたとお話されました。
自分のための勉強なら、自分が諦めればそこで終わり。しかし、人のために勉強する立場になると、簡単に諦めるわけにはいかない使命が発生する。勉強は、どこかで人のためにつながっていることに気づくことが尊いと会を締めくくりました。
聖徳学園の国際協力プロジェクトには、グローバル市民社会を前提とした「グローバル教育3.0」の理念が息づいているのです。