順天では、英語は系統学習というカテゴリーに配置されている。グラマー、リーディング、スピーキング、ライティングなど思い付きや創造的なイメージで学ぶ領域は少ない。ルールや知識の系統的なつながりが重要であるのは言うまでもない。しかし、だからといって、順天の英語科は、一方向的に講義形式で教え込むような20世紀型の授業は行わない。やはり双方向的に表現し合う21世紀型授業が展開されている。
イングリッシュクラスの先進性
イングリッシュクラスの英語の授業シーンは、学びの空間デザインが全面に広がっていた。電子ボードを使いながら、ネイティブスピーカーが速度を自在に変えながら説明していく。「時間」と「速度」が変幻自在であるというところに、脳科学的なデザインが仕組まれている。
また、ペアで座っているから、問題について、双方向に話し合いながら、あるいは教え合いながら理解していく機会を設けている。PIL(ピアインストラクション型レクチャー)というハーバード大学や京都大学で、最近話題になっている授業方法である。
そして、それがゆえに教師は教えすぎることがない。片倉副校長は、頻繁に「ファシリテーター」というキーワードを使われるが、なるほど教師はファシリテーターであると実感できた。
さらにおもしろいのは、EクラスもSクラスも、教室の作り方は同じで、写真のようにラウンジ付きの空間になっているのである。順天は、相手の話に耳を傾け、思いやる寛容な行動特性(NP)や創造的でストレスレスな言動(FC)を受け入れている。
それが前回ご紹介したエゴグラムで特徴的にあらわれている。そして、この2つの特性を大切にすることが躍動感を生み出していると片倉副校長は説明されるわけだが、それは生徒にNPやFCを高めなさいと説くのではなく、空間デザインを創意工夫するという教師のファシリテーターとしての役割が生み出しているものなのである。コンテンポラリアートの世界や認知心理学では、アフォーダンスという手法である。
浸透している双方向的な学習
Eクラスのみならず、他のクラスの英語の授業も、双方向的な手法が繰り広げられている。しかし、さらに細かい仕掛けが織り込まれている。日本の英語教育では、アメリカのメソッドや大学の話題に偏っているが、順天では、イギリスの英語教育や大学についても視野を広げている。写真のネイティブスピーカーの講師は、実はギャップイヤーを順天で過ごしている。
日本でも秋入学が話題になり、イギリスのギャップイヤーに倣って、ギャップタームという言葉が話題になったのは記憶に新しいが、順天ではギャップイヤーを英語の講師として過ごすイギリス人を20年前から歓迎している。イギリスの大学は3年制で、高校卒業して大学で学ぶまでの1年間を社会で自分が何ができるかチャレンジする旅の時間としてギャップイヤーが定められている。
このようなキャリアデザインがなされているという広い視野を順天の生徒は昔から理解していたのである。グローバル教育とは、こういう一見小さいけれど世界規模の交流をしかける教師の腕の見せ所でもある。
MITメディアラボを中心に対話の空間をいかにプレイフルにデザインするか研究されているが、順天ではそのような空間デザインの創意工夫が、教師1人ひとりのアイデアですでに行われてきたのである。しかし、それは前回ご紹介した順天の学びの基礎構造を教師1人ひとりが共有しているからこそ、そこから逆に多様な展開ができるということなのである。