21会校コラボ始まる 工学院×聖学院 PIL型授業そして思考力テスト

第1回21会カンファレンスが終わるや、参加していた21会校の先生方があちらこちらに結集して、学習組織化し始めた。ピーター・センゲとデビッド・ボームの「対話について」が目の前に立ち上がったのは驚愕だった。その学びのチームの一つが、工学院大学附属中学・高等学校と聖学院中学高等学校(以降工学院、聖学院)の先生方によって形成され、昨日6月3日(月)にはすぐに活動開始。カンファレンスは5月31日(金)の夕刻行われたばかりなのに、なんという俊敏力。スタートの様子をご紹介しよう。(by 本間勇人:私立学校研究家)

 

島田浩行高等学校教頭(写真)に、こんなに速く21会校コラボレーションができるのはなぜか尋ねてみた

「今春、平方校長が就任して、わたしたちの大切にしている『挑戦・創造・貢献』の教育が、さらなる発展をするという直感が学内に広まりました。最初校長が語る、PIL(ピアインストラクションレクチャー)型授業だとかPBL(プロジェクトベースドラーニング)型学びというのは、それぞれに教師が創意工夫はしていましたが、そのようなキーワードで統一してはいませんでした。ですから、授業の方法までメンタルモデルとして共有していませんでした。

それが、今の教育のままでは日本はダメになってしまうだろう、この一年、とくにこの半年で国も教育再生実行会議の方も21世紀型教育の方に大きくシフトしている。私学が取り組むべき内容とはかなり違うが、時代を創るビジョンであることに間違いはないと、私たち教師から保護者、生徒にまでこんこんと語られるので、自分たちのやってきた教育の重要性・先見性・責任性を強く感じました。

そして21会カンファレンスに参加して帰ってきた教師が、21会の各校も、まだ21世紀型教育を完全に仕上げているわけではなく、これから発展させようと正直にプレゼンしていたのを受けて、自分たちもできると気づいたし、共に生きるという平方校長の理念がスコンとはいりこんできて、すぐに共鳴した聖学院の先生方とコラボレーションを始めることになったのです。」

工学院と聖学院の英語科主任が互いの授業を見学し合った

第二言語習得論を研究し、その資格も有している工学院の英語科主任道家幸子先生は、高1の英語の授業を公開。デジタル教材を活用しながら、聴覚・視覚を使ってスラッシュリーディングなど、記憶と認知のストラテジーを披露。

このストラテジーをさらに生徒と生徒のピアインストラクション(対話あるいは教え合い)に適用し、理解を深め、わからないところは生徒が質問をするというシークエンスで授業は展開した。従来の訳読中心で構文暗記の英語の授業とはかなり違う。

大学入試には構文暗記が欠かせないからという考え方も広く高校英語界では支配されているが、ピアインストラクションを導入することによって、構文を直接教え込むのではなく、メタ認知という間接ストラテジーで、生徒自身に構文の認識が生まれるというSLA(第二言語習得論)タイプの学習戦略をとっている。

一方、聖学院の高橋一也先生は、自らの研修日とあって、工学院を訪れ、中1の英語の授業を行った。工学院の多くの先生方も見学しにやってきて、研修授業さながらになっていたが、いつもの高橋先生の授業そのものであったのは、さすがである。

高橋先生は、生徒も驚くほど美しい英語を話す。アメリカの大学院で研究していたということもあるのだろう。そして電子ボードを巧みに活用されるのもいかに使い慣れているかということの証明であるが、高橋先生は鉛筆と消しゴムと同じ感覚で活用しなければむしろ生徒の学習を阻害するという持論を持っている。そして、だからこそ電子ボードがツール以上に意味はないのであると。授業は内発的モチベーションをいかに燃やすかにすべてがかかっていると。

そこで、道家先生とシンクロしているかのように、ピアインストラクションを行った。生徒間の対話はやはりモチベーションを燃やすようだ。そして何組かにデモンストレーションをみんなの前で行ってもらった。一番目は、高橋先生と生徒で、そして握手。生徒にとって高橋先生は初対面の先生だったが、この瞬間に高橋ワールドに引き込まれてしまっていた。

クラスを学習の組織にするには、チームワークとビジョンの共有となんといってもシステム思考。そのためにマスター制度という高橋先生独自の学びの手法がある。速く問題が解けた生徒は、マスターの腕章を付加され、マスターになって他の生徒に教えるである。ここにシステム思考の種が撒かれる。そして、マスターの役割こそ自己マスタリーのトリガーになるのであると。

相互見学のあとにリフレクション コラボの醍醐味

コラボレーションのだいご味は、振り返り。高橋先生の授業を工学院の先生方も参入して対話を行った。互いに奥義が公開されたわけである。

 

中1と高1では、学びの構造も複雑になるし、学び方も異なるので、CEFR(セファール)のような学びの成長基準などを活用するのがよいのではとか、構造は大事だが、それはあくまで構造化する構造というメタ構造への気づきが重要であり、構文を暗記させるという意味ではないとか、生徒のモチベーションを持続させるには、外発的動機付けから内発的動機付けにいかにシフトさせるかであるとか・・・。様々な議論が噴出。今度は道家先生方が聖学院を訪れるとのこと。未来への希望が交換されて散会となった。

思考力テストの協働研究

その後、聖学院の数学科主任の本橋真紀子先生もかけつけ、今度は工学院の司書教諭の有山裕美子先生と「思考力テスト」の研究がスタートした。この思考力テストは入学試験の一つとして今春聖学院で行われた。このテストは、従来型の試験とはあまりに違うので、聖学院では説明会のたびに「思考力セミナー」を開催してきた。

ここで言う思考とは、対話のことである。ここで言う対話とは言語を通して考えることである。デビット・ボームはdialogueをdia=through logue=Logosと解説している。二人で話すのではなく、ロゴスという論理であり言葉であり思考であるものを通すという関係のことを対話というのだとしている。したがって、「思考力セミナー」もこの意味での対話を導入してプログラムを開発しているという。それゆえ、平方校長は、PIL型授業やPBL型授業が思考集団を形成したり、創造チームを形成するのに重要なのだと語るのである。

それにしても有山先生のこのミーティングのために準備した「聖学院の思考力テストの分析レポート」15,000字。レポートが展げられたときのミーティング参加者の感動の声はお聞かせしたかった。パッションが共有されるときの雰囲気とはこういうものなのである。

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