佼成学園女子 江川教頭語る 21世紀型教育の根本(3)

スーパーグローバルハイスクール(SGH)申請の意味

――今年2月に全国246校の高校がSGHに申請をしたということで大きな話題になりました。今まさに審査の真っ最中です。佼成学園女子もSGHを申請していますね。

江川先生:すでに文科省のホームページで、246校のリストが公開されていますが、たしかに本校も申請中です。申請している学校を拝見して、大いに勇気をもらったのは、このような学校と肩を並べるような教育を積み重ねてきたのだということです。

といいますのも、すでに同省ホームページでも公開されていますが、膨大な申請書類を作成するに当たり、これまでの実績や成果がないと書くことが難しい内容になっているからです。たとえば、SEFRでB1B2レベルを要求されるわけですが、先ほども申し上げたように、本校の生徒の中には、すでにこのレベルをパスしている生徒がたくさんいるわけです。

また、3か月や1年間の留学の実績も必要ですが、もう7年前から始めて卒業生もでているぐらいです。これから中学3年生での留学も開始します。ですから、SGHの資格を得たら留学に取り組みますというわけではないのです。

そして、今回のSGHの大きな目的は、グローバルリーダーを育成することですが、これについても、すでに卒業生の中に、将来英語の教員となって、佼成学園女子で経験した留学制度やリーダーシップ育成の教育を次代に伝えたいと教育系の大学で頑張っているOGがいます。

江川先生:今年1月に、OGの成人式を祝う会を催しましたが、そのときにそんな話を語ってくれたところです。他にも国際教養系の学部で、将来国際政治経済関係の仕事をするために、ちょうどそのときは、イギリスに勉強しに行っていて、成人式に参加できなくて残念だというメールももらっていました。

私たちにとって、SGHの申請は、自分たちの積み上げてきた教育実践の振り返りができたという意味でまず大きな意味があったし、宗教や民族、国境を越えて平和を1人ひとりの生徒が生活の中で考えて行動できるように育成していく教育理念は、本校だけではなく、グローバルリーダーを育成しようという学校全体に広まっていくのだという確信を改めて感じることができました。

――その壮大な夢は、しかし日々の教育活動から生まれているわけですね。

江川先生:おっしゃる通りです。教育は日々の実践・経験の中からその原理は帰納的に抽出されるものです。実践が積み上げられていないのに、学問的に演繹的な原理をやりなさいと言われても、いまここにいる生徒の状況や生徒と教師の関係に合わせる作業が必要で、それが意外と難しい。

いやむしろ、調整しないでそのまま導入して、適合しなくて失敗してしまうケースの方が多いでしょう。学問的な原理が役に立たないと言っているわけではないのです。いやむしろ学問的であるならば、具体的な実践を通して帰納的に抽出された原理をモデル化し、それを演繹的に実践にフィードバックしていく、そしてまた帰納的に原理を抽出し再構成していくという、いわば、実践と理論の継続的な改善の循環こそが大切だと思っております。

――それは先生方だけではなく生徒のみなさんも同じなのですか?

江川先生:いよいよ核心に迫ってきましたね。私たちは、英語の佼成学園女子と呼ばれているように、言語学習の多様な理論の中で、わたしたちの教育実践は、学習の転移の経験をしています。この理論は、個人差が大きいと、他者のモデルを適用することが難しいので、逆に負の転移が起こるとも言われていますが、本校では正の学習転移が生まれています。

それは、日々生徒1人ひとりとコミュニケーションをしながら、小さなハードルを飛び越えるところから言語学習をしていきます。ですから、まずは自分のその成功体験が学習のモデルになります。

それからいつも行事が成長を育てると言っているわけですが、とにかくリーダーシップ、フォロワーシップ、まさにグローバルリーダーの資質の土台だと思うのですが、ともかく、そういう経験をなんらかの形で体験できます。いわばプロジェクト活動ですから、学習モデルは互いに切磋琢磨できます。

(高校1年では、YA:ヤングアメリカンズのアウトリーチ・プログラムも体験。チームワーク、オープンマインド、アート体験など得る物はあまりに大きい。)

そして留学。これはマイノリティ体験です。学園では絆をつくってきた土台があるし、かなり支えられてきた。しかし、留学先ではゼロから作り直さなければならない。結果的には、ホストファミリーや地域の人々、留学先の学校の先生方に思いきり支えられるのですが、オープンマインドとはこういうことなのかという学習体験をして帰ってきます。

このような経験の中から帰納的に抽出した自分なりの学習のモデル、しかもそれはすでに仲間や出逢った人々によって独りよがりでないモデルに磨き上げられています。そのモデルが、成長の原理、学力伸長の原理になります。

語学学習のみならず、他の教科の学びや協調学習に正の転移を生み出さないはずがないのですが、論より証拠、生徒はそのように成長して巣立っています。

昨年6月、本校はロンドン大学SOAS校と提携しました。グローバルな進路のきっかけになるシステムです。もちろん、たんに海外大学にという進路先の問題ではなく、国際教養をもって、未来の国際社会に貢献できる準備としてのシステムです。実際、ロンドン大学SOAS校は、アジア・アフリカ研究の拠点です。今後世界が注目しているエリアですね。

英検1級やiBT90点以上を取得している生徒の中には、米国のコミュニティカレッジから米国の4大に進学するコースを選択する生徒もいます。大学合格実績の集計の時期もグローバル時代になると3月で終了というわけにはいかなくなります。

今でもそうですから、まったく違和感がないのですが、卒業後OGの人生を見守る大きな役目と意味が、本校にはあるわけです。

――佼成学園女子の学びの転移は、同窓力でも発揮され続け、学園全体を支える大きなエンジンであるということを改めて実感いたしました。そしてそれが21世紀型教育の根源的な泉であるということですね。貴重なお話ありがとうございました。

江川先生:その根源的な泉が21会校のそれぞれの泉とつながり、大きな川の流れになるようがんばりましょう。ありがとうございました。

 

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