IT機器やアプリの利用の仕方が先生によって異なるということは、生徒の学びがそれだけ多面的・多元的になるということである。桜丘では、iPad活用のためのインフラを整え、基本的なルールを定めたら、後は使う人の主体性に任せるといったスタンスが明快である。だからこそiPadの活用が進み、生徒と先生の経験値も上がるという好循環が起こるのであろう。
高2生の英語のクラスを覗くと、Paul先生が、YoutubeやKahootといったインターネット上で利用できるアプリを使って授業を行っていた。英語のビデオをリスニングして情報収集を行い、隣り同士がペアになって協力しながらクイズに答えるというゲーム感覚あふれる授業である。
全員が同じペースでビデオを視聴するのではなく、各自のiPadでビデオを見るので、聞き取れなかったところを巻き戻すなど、自分のペースでビデオを見ることができる。
また、調べた内容に関するクイズがあることで、それぞれのペア同士がお互いの持っている情報をシェアするという状況が自然に出来上がっていた。
生徒たちはさながらクイズ番組の解答者で先生は司会者のようである。事前に調べる時間が加わっているところが通常のクイズとは違うところ。単に知識の多寡を競うというよりも、チームワークとリサーチの質が問われる。成績発表のたびに高得点者の名前がスコアボードに表示され、クラスが盛り上がっていた。
部活動の実践報告では生徒が主体的にiPadを利用している様子が紹介された。
バトン部ではiPadで撮影した映像をYouTubeにアップし、各自が自分の演技をチェックしているという。昨年全国大会に出場するという快挙を成し遂げたのはまさにYouTubeの成果なのだそうだ。
振り付けを覚えるといった個人練習は、YouTubeにアップされた模範演技を見て各自が家でやっておくべきこととなり、合同練習の場は全体の演技がどのように見えているかという点にフォーカスされるようになったのだという。なんとこれは反転授業の発想そのものである。
生徒たちは、道具があればそれを活用していく。「必要は発明の母」とよく言われるが、一方で、発明品がそれまで見えなかった需要を生み出す側面もある。iPadが学校に入ったことで、なぜこれまで気づかなかったのだろうという潜在的ニーズがどんどん引き出されている。そのようなイノベーションによって演技や学びの質が高められているのだ。
3時限が終了した後、体育館で行われた質疑応答では、これからiPadを導入しようと考えている学校の先生方から、導入に際して想定される問題に関して多くの質問があった。
導入を推進してきた品田副校長先生は、できるだけ多くの質問に対して、実際に現場で使っている先生に答えてもらうというスタイルをとっていた。心配な点やトラブルも含め、オープンに質疑応答ができる場を作ることに徹していたのだ。
さらに、そこには先生だけではなく、生徒も参加していた。IT学習環境は先生だけのものではない。生徒も主体的に関わっているのだ。実際、教室でiPadや通信にトラブルがあったときに、先生よりも設定を見るのが上手い生徒もいて、そんなときには生徒が先生を助けることもあるのだという。
質疑応答を聞いていて、ふと桜丘の先生方と生徒たちが新しい関係を築きつつあるのではないかと感じた。IT技術の進歩によって、多くの企業で働き方に変化が起こったように、学校の中での先生と生徒の関係も新しいあり方を探っていく時代なのかもしれない。ICT先進校である桜丘はひょっとすると、その潮流の最先端に位置しているのではないだろうか。そんな思いを抱かせてくれるオープンスクールであった。