工学院は、「挑戦・創造・貢献」を理念としています。この根本には「自由」があります。自由が前提だからこそ「挑戦・創造・貢献」が可能なのです。エントランスホールには「真理は自由にす」というグローバル精神が刻印されているぐらいです。
「自由」。もちろん、「自律」と表裏一体ですから、個人主義とは違います。「貢献」という理念がそれを支えています。さて、この意味での「自由」が、授業の中にも反映されているために、正解が1つでない問いが中心となる創造型PBL授業ができるわけです。つまり、「真理が自由にす」という自由が文化遺伝子としてあったからこそ21世紀型教育にも踏み出せたのでしょう。
工学院のPBLは、「自由」が基調としてあるので、「好奇心」「開放的精神」「探究心」が生まれてきます。まずは「好奇心」。興味と関心のあるところから出発します。しかし、授業は単元という決められた学習項目があらかじめ設定されています。
この制約された枠組みの中で、しかし、生徒1人1人が、はじめは興味はなかったけれど、あれあれっと好奇心が湧いてきたとなるように授業をデザインするのがPBLやPILなのです。なぜ興味や関心が、後から生まれてくるのか?それは多様な環境、多様な学習道具、そして、なんといっても「対話」があるからなのです。
多様な環境に関しては、世界中いろいろな場所でフィールドワークする機会があります。これについては、いずれまたインタビューしたいと思います。多様な道具とは、同校の図書館を訪れれば、ラインナップがずらりとあることに驚かされます。
レゴや3Dプリンターがずらり並ぶFab Labスペース。どちらも、ICTが背景にあるのは言うまでもありません。
もちろん、教養にとって大切な図書も。しかし、ちょっと少ないのではと思う方もいるでしょう。しかし、大丈夫。
電子図書として、クラウド上に書籍は無限に存在します。生徒は、パソコンやタブレットとIDカードで教養の世界を広げます。
英語の多読スペースでは、英語の文献がずらり。
もちろん、進路関連図書のスペースもあります。
これらすべてが、工学院の学習道具で、授業、探究論文、海外留学、国内外のフィールドワーク、プログラミングなど多様な学びで大活躍するわけです。
そして、多様な道具を活用するということは、自ずと授業の対話のスタイルも多様になります。
わかりやすいのは、グループワーク型の対話です。サークルという空間は、対話に適しているからでしょう。
生徒―パソコン―電子黒板ーwebーアプリ―教師というスタイルは、リアルには、普通のスクール形式ですが、脳内では複眼思考が飛び交う対話になっています。
ドラマトゥルギーな学びの空間が対話を生み出す時間にもなります。
英語のエッセイライティングの授業は、生徒と生徒の対話と生徒と教師の対話が交差して、思考に没入する空間が出現しています。
教科としての「数学」と「数学的思考」が交差するには、対話の機会を授業に取り入れます。いろいろな解法があることに気づくには、対話が最適です。しかし、なぜそのような違いがあるのかメタ的な教師による問いかけは、数学的思考を召喚します。
工学院のPBLは、目の前の問題の多角的な解法への気づきとなぜそのような多角的な解法が可能なのかというメタ的な気づきの複眼思考があるからシリアスで楽しいのです。多角的な解法を教え合うだけではなく、その思考を通して、他の問いの考えにつないでいくという世界の扉を次々と開いていく躍動感。それは、生徒1人ひとりの進路を切り拓くエネルギーに転換していくでしょう。
かくして、多様な学びの空間、多様な学びの道具、多様な対話のスタイルという複雑系が、シンプルに創造的思考のリズムとなって学内を満たしているのは、創造的な緊張感が背景にあるからなのです。