グローバル教育とは
江川先生:続いて、「21会のグローバル教育」が目指す方向性についてお話を伺おうと思います。例えば文科省の「グローバル人材育成推進事業」では、次のような文言でグローバル人材の説明をしています。
国際的な産業競争力の向上や国と国の絆の強化の基盤として、グローバルな舞台に積極的に挑戦し活躍できる人材の育成を図る
こういう表現を目にすると、どうしても「国家のため」の人材というニュアンスを感じてしまうのですが、皆さんが21会でイメージするグローバル教育はどのようなものでしょうか。そのあたりを確認しておきたいと思うんです。
伊藤先生:たまたまある方の発言を読む機会がありまして、どこの国でも全人口の5%程度が優秀な人間だと言うのですが、中国の人口の5%は日本の就業人口とほぼ同じだそうです。そういう若い国と競争していくタフな人材が求められているというのも確かにグローバル人材に必要な資質なんだと思います。日本の若者の80%が企業に勤めて人生のある時期を過ごすのですから、企業が直面している現実を無視することはできないですね。ただ、そういった競争的な面だけではなく、一方で高い倫理観を持つことも求められています。先ほどのIBの学習者像もそういった方向を示しているのではないでしょうか。日本の場合、これまで大学受験教育に比重が置かれ過ぎていて、本来私学が掲げていた、人間の内面的価値を育成するという教育の側面が軽視されてきたかもしれません。企業が必要としているビジネススキルの基盤として、21会で議論されているような21世紀型の学びというのは有効ですし、また私学が本来持っている人間の内面的価値を重視する理念も重要なものだと思います。
江川先生:大学受験などの短期的な目標のために、倫理観の育成といった、人生の長いスパンでのゴールを見失ってはいけないと感じますね。
辰巳先生:例えば会社に入っても、どれだけ売り上げなければいけないなどという、周囲で決められた目標をこなすのではなく、自分はこういう生き方をしたい、こういう仕事をしていきたいというように、主体的に目標設定することが大切ですよね。そういう意味では今は女子の方が自分のやりたいことをやるということがはっきりとしている。だから、ただ大手企業に就職するというのではなく、自分の価値観にマッチする職場に就職していく傾向が強いと思います。
伊藤先生:最近は、女子の方が新しいものにチャレンジしていこうとする精神が強いですね。まさに学習者像における「挑戦する人」です。
辰巳先生:これまでの日本社会では、自分のやりたいことを我慢せざるを得ない状況があったけど、今は工夫次第で、活路が見いだせる時代だと思うんです。同窓会などに参加して思うのは、クリエイティブな生活を送っている人と愚痴をこぼして生きている人の違いは、やはり自分の価値観にどれだけ忠実に生きているか、どれだけ主導的に生きるかということなんです。そういう価値を大切にする教育というのはやはり私学の良さなのかなと思いますね。
江川先生:今、日本の若者が「内向き」志向だとか言われているけれど、女子の場合は外に出て行こうとする人も結構多いですね。留学に限らず、海外で仕事を見つけようとすることを含めて、自分の足場を日本以外の場所に置こうとしているわけです。ある意味、日本社会が女性を活かしきれていないという面があるとすれば問題ですね。奇しくもここに集まっている皆さんはすべて女子校の先生ですから。どうやらグローバル教育というのは、多様な価値を許容するということにも大いに関係がありそうですね。