桜丘 タブレット導入授業の準備着々(2)

2018年以降の大学入試改革が話題になっている。いかに「思考力」と「英語」と「ICT」の世界標準レベルを目指すべきか、政財官学はアテンションをあげている。しかし、これは世界的なグローバル教育の動きに影響を受けているのであって、政財官学の動きは、まだビジネスチャンスに直結する狭い部分に限定されているという認識が明らかになってきている。ビジネスチャンスも含みつつ、力点は新しい時代の「生き方」に焦点をあてた桜丘のICTイノベーションは、当然英語の授業の方法論にも大きな影響を与えている。

体験→タブレット分析→トレーニングの循環が可能

桜丘の中2の英語の授業は、英文を読んで、それに相当する写真を、カルタのように取り合うゲーム体験から始まっていた。英文を音声を出して読む、それに適合するイメージを探す。この体験は、英文を読むのも生徒だから、音声情報、文字情報、画像情報を結合する。

しかし、この結合は、五感すべてを活用する感覚連合。まだ英文の理屈は分析されていない。いったん分析されないと、実際には応用・適用が広がらない。

そこで、ゲームが終わった後、チームごとの席は、スクール形式に変わり、生徒の手にあった写真をプロジェクターで映し出す。そして今度は、画像を見て英文を再現する。その上で分析していく。

分析したら、今度は練習問題をやって、トレーニング。このサイクルが50分ですべて行われる。もしタブレットを活用しなかったら、多様な情報は直線的に順番に行っていくから、倍以上の時間がかかる。

多様な情報の「同期」が可能なのである。しかし、考えてみれば、私たち人間の生活における情報収集は、五感すべてが同期して働いている。つまり、タブレット導入授業は、ライブ感を再現できる。学びの定着は、体験、ライブ感にかなわないというのは、最新の教育学では証明されている。MITメディアラボでは、24時間の生活すべての脳波を計測し、そのデータを公開している

一方的に講義を聴いている生徒の脳波は、夢を見ているときよりも反応していないというショッキングなデータが公表されているのである。タブレット導入授業の有効性を、科学的に証明しようという動きはますます強まるだろう。

 

高校2年生の英語の授業では、大学入試を見据えた演習問題を行っていた。入試は「わかる」だけではなく、「できる」という得点力が重要になるから、より効率の良い効果的なドリル演習は重要だ。

自分の解いた問題の解説を理解して終わるだけではなく、必ず関連個所に戻り、他の例文も参照するというサイクルは、全員ができるとは限らない。逆に言えば、そういう部分と全体を往復できる勉強方法を体得した生徒が成功する。タブレットがない時代は、それができることが優秀な成績を収めることを意味した。

しかし、タブレットが導入されれば、すべての生徒がその部分と全体を往復する方法を体得できる。従来型の入試制度では、やがて桜丘の生徒が圧倒するのは、論理的必然だろう。

生徒1人ひとりの学びのログ(記録)をデータ化する

中1の英語の授業を英語で行う授業では、興味深い光景が見られた。それは、ホームワークの状況や英単語の記憶の状況をネイティブスピーカーがタブレット持ちながら生徒と英語で話しながら、インプットしていくシーン。

データはポイントとして成績に影響する。定期テストだけではなく、学びの一挙手一投足がログによってポイントとして加算される。ミニテストよりも細かいデータの集積が可能だ。これはタブレットが導入されないと難しいシステムである。

もちろん、現段階では完全ではない。来年以降、生徒が全員iPadを持てるようになったとき、それは完成するだろう。

21世紀型教育のICT教育のカバーする領域の広さ

それにしても、ICTと言うと「電子教科書」という話がすぐに出るが、タブレットの場合、pdfで取り込め、ズームアップやズームバックがスムーズだから、電子教科書はあまり使っていないようだ。それよりも、多くの情報を結び付けたり、ネット上の情報を結びつけたりする方が生徒のモチベーションをアップさせていくと先生方は判断しているようだ。

「電子教科書」が人気がないのは、実は根本的なところに問題がある。電子教科書を作成する側のICTリテラシーのカテゴリーが、桜丘をはじめとする21世紀型教育を行っている学校のカテゴリーとズレているのである。

小柳和喜雄先生(奈良教育大学大学院(教職開発専攻))の論文「国際調査に見るICTLiteracy、21世紀型スキルに関する基礎研究」(奈良教育大学 教育実践開発研究センター研究紀要 第22号 抜刷 2013年3 月)によると、21世紀型スキル(ATC21s)が目標にしているメタ認知の養成、グローバルシチズンの養成、自己決定の養成などは、日本のICTリテラシーのカテゴリーには収められていない。

それゆえ、ICTを活用する「電子教科書」も、21世紀型教育を促進している学校の教育の範疇を満たしていない。

自然とあまり使われなくなる理由がそこにある。桜丘のような、現場の積み上げをリサーチしていけば、教科書会社も、やがてそこを解決していくのではないだろうか。

しかし、その解決を待っている余裕はない。目の前の生徒の未来はダイナミックに変化している。それに対応できる英語力、ICTリテラシー、思考力を、「いまここで」サポートするのが桜丘の教師の役割だからであると、品田副校長は語る。

来年、SLC(桜丘ラーニングコモンズ)の新設と中1高1全員がiPadを活用できる環境を整える。そして2016年春には、それらを活用した「思考力テスト」を入試に導入する構想があるという。桜丘の教育イノベーションに期待を持つ受験生の父親が増えているということだ。時代を動かす桜丘ということだろう。

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