富士見丘×GiFT ロールモデルカフェ(1)

富士見丘学園は、スーパーグローバル教育を推進している。スーパーグローバル教育の肝は「ネットワーク」。知識ともの、知識と知識、知識と人、人と人・・・。生徒が、多次元で多様なネットワークを、自らつなぎ、うみだし、駆使する教育はいかにして可能なのか。大島規男教頭と今回同校との協働プロジェクトとして『ロールモデルカフェ』を開催するGiFTの辰野まどかさん、鈴木大樹さん、三代祐子さんに聞いた。by 本間勇人:私立学校研究家

※GiFT(一般社団法人 グローバル教育推進プロジェクト):首都圏を中心に地球市民を育成するワークショップの開催や、大学や企業との協働プロジェクトなどを通してグローバル教育の普及を通じた地球市民の育成を目指し活動。また、グローバル教育に関するプラットフォームの役割を担い、次世代育成事業にも取り組んでいる法人。

大島先生:グローバル人材を育成する話が喧しい。たしかに重要だと思うけれど、まだまだ英語の話題が多いですね。もちろん、英語は重要ですから、本校でもかなり強力に取り組んでいます。

しかし、グローバル教育では、英語を使って、実際に多次元の場面で多様な人々とコミュニケーションをして、自分を見つめ他者を理解し、未来に飛べる勇気を持てるところまで学びの見通しが広いのが特徴です。

(中1の英語の授業。イマージョン率が高い。コミュニケーション×電子黒板×プレゼンテーションも活発。)

この多次元の場面と多様な人々とのコミュニケーションと言ったとき、高い英語のスキルがあれば可能かというと、それがどうもそうではない。多次元の場面、多様な人々との出会いをセットしても、それだけでは、子どもたちはアクションを起こさない。

辰野さん(GiFT専務理事/事務局長):GiFTでは『人と人をつなぐ』ネットワークを育てることを大切にしています。多くの場合、出会いからが、そのまま対話がはじまり、人と人はつながっていくものですが、たしかに、なかなか話し合うことが難しいときもあります。『人と人をつなぐ』ネットワークには、どんな出会いを生み出せるか、どんな対話を通じて人と人が心の通った交流をすることができるかなど木目細かい大切なポイントがあると感じています。

大島先生:その「ネットワーク」がたしかに大切ですね。放っておいてもしぜんにネットワークを広げ深められる生徒もいますが、できない生徒もいます。ネットワークを広げられる生徒の特徴は、人と人との関係だけではなく、知識の捉え方も違います。話してみると、知識の背景を広げ掘り下げていることに気づきます。

ですから、わたしたちは、授業における「知識のネットワーク」づくりについて、学内で大いに議論してきたし、そのためにプロジェクト型学習(PBL)の要素を授業にも埋め込もうとしています。

もちろん、授業は講義が中心になるので、PBLのエッセンスということになります。PBLは実は「5×2」という自主探究のプログラムでがっちりやっています。「5」というのは、月曜日から金曜日で、「2」というのは土曜日と日曜日を指していますが、前者における学びの関係は、教師と生徒です。しかし後者では、ファシリテーターと探究者という関係になると言うとわかりやすいかもしれません。

先日の学校説明会で、高校生が「5×2」で探究した「国際看護」についてプレゼンしました。毎年テーマを決めて、リサーチ・対話・編集していてく探究活動を起こっていますが、その生徒は中1から中3までは、心の底から興味と関心をもった「テーマ」をなかなか選択できなかったが、イギリスのホームステイのファミリーの母親が看護師で、自分ももともと看護師を目指していたので、衝撃的な出会いになったと。

(リサーチした内容のレポート、新聞の切り抜き、資料が一冊のノートにあふれるほど蓄積されている)

それ以降、高1、高2のテーマは「看護師」について調べることになったと。そして、大学のセミナーにも積極的に参加したし、関係者にインタビューもした。そこで「国際看護」という分野があり、英語と仕事が結びついて、自分の探究活動が広まったし深まった。進路も「国際看護」の学問を選択したとプレゼンしました。その話を聞いていた受験生や保護者はたいへん感動していました。

辰野さん:すばらしいお話ですね。そのような学びを深めるプロセスは、わたくしたちGiFTが行っているロールモデルカフェというワークショップにもつながると思います。カフェでは、毎回ゲストを招くのですが、そのゲストの役割とホームステイ先の看護師の母親の役割は重なる部分も多いですね。それにこのワークショップの私たちの役割はファシリテーターですから、富士見丘の自主学習のときにかかわる先生方の役割のお話にも重なります。

大島先生:それは嬉しいですね。実は、私たちの教育活動は、必ずしもみなさんのようにプログラムをデザインする作業ではないんです。体験を生徒とともにすることに力点が置かれます。授業は、良くも悪くも、ある程度教師主導で組み立てられます。

しかし、自主学習「5×2」は、これも良くも悪くも、生徒次第なのです。先ほどお話した事例では、高1・高2で自分の人生のテーマをつかみましたが、なかなかつかめない生徒もいます。

三代さん(GiFT Education Producer/Diversity Facilitator):つまり、「5×2」の授業では、先生方は、ファシリテーターとして見守る役割に徹する形なのですね。

大島先生:たしかにその通りなんです。ただ、教員というのは、できるだけ多くの子どもに自分の人生に影響を与える「テーマ」に気づいて欲しいと思ってしまうのです。おせっかいかもしれないけれど、生徒1人ひとりによって興味や関心が違うのだから、できるだけ多角的で多次元の体験ができるように環境を用意したいと動いてしまうものなのです。

三代さん:おせっかいではないと思います。かりにおせっかいだとしても、興味と関心を隔てている殻を子どもが自ら破る働きかけをする先生は、すてきなロールモデルだと思います。私たちもダイバーシティ・トレーニングという国内で多様性に触れ、学ぶことのできるプログラムもつくっています。

留学など海外に行けば、自分の殻を破ったり、価値観が変わるような体験もできるのでしょうが、今大島先生がおっしゃったように、できるだけ多くの子どもたちがそのような体験ができるように、国内にいて体験ができる機会を増やすことも大切だと考えています。

辰野さん:しかもそのトレーニングのチャンスは、何も外国人と日本人の交流をセッティングするだけではなく、実は日本人どうしでもできるのです。

三代さん:自分を素直にありのまま語りだす、開示するマインドセットをすることでと、ダイバーシティは日常の中にあることに気づきます。その小さな気づきが、1人ひとりにとっては、大きなインパクトとなり、自分自身で一歩を踏み出す勇気につながっていくと感じています。

 

 

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