八雲学園 3ヶ月留学生 アクティブ・ブレイン習得

八雲学園の3ヶ月留学は、事前プログラム3ヶ月、事後プログラム3ヶ月となっていて、実際には9ヶ月留学プログラム。もちろん、すべて英語で行われる。しかし、いわゆる語学研修でも、異文化体験プログラムでもない。

最終的にサンデル教授の授業でハーバード大学の学生が英語でディスカッションしているぐらいのレベルになるようにするのが目標。TOK型スタイルとはまた違う徹底した思考のオーガナイゼーションのシミュレーションをするプログラムである。おそらく日本初のチャレンジではないだろうか。by 本間勇人 私立学校研究家(開智国際大学客員教授)

今年3ヶ月留学の生徒は12人。全員UCSB(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)の寮で生活し、大学の教員に朝から晩まで授業を受ける。12人であるから、当然一方通行ではなく、すべてディスカッション形式。したがって、事前3ヶ月プログラムは、UCSBの授業がスタートするやすぐにディスカッションできるマインドセットをすることが目標。

とはいえ、この事前プログラムの最終授業を見学したとき、はじめとまどった。ショッピングモールやハンバーガショップ、ホームステイなどを想定したシチュエーショナルライティングが行われていたからだ。

英語科主任の榑松先生は、八雲の生徒は、ふだんからコミュニカティブな体験は積んでいるから、会話ができる準備をしてUCSBに送り出す必要はないのであると語る。

「ディスカッションするには、問いと回答がセットになった思考ができなければならない。話すことはもちろん大事だが、それは現地に行けばせざるを得ない言語行為だから、いまここでは、そのときに思考回路が動き出すかどうかなのである。

それには、なんとなくラフに会話ができる状態ではなく、きちんとわかりやすい文で議論ができる状態にしなければならない。そこでシチュエーショナルライティングを徹底している」

もちろん、書くだけではなく、最後は英語でロールプレイして実感できるシミュレーションはするが、1時間の授業うち80%は、ひたすらライティング。ペアで話し合いながら、問いと回答のストーリーを構築していく。

それにしても、来週送り出すための最後の授業として、ショッピングモールやハンバーガーショップなどでのロールプレイの物語を構築するというのは、少し易しすぎるのではないだろうか、むしろ最初のころで十分ではないかと思った。しかし、それはとんでもない表層的で浅薄な考え方だった。

授業終了後、アレン先生に話を聞くことができた。すると、

「最初は、高1の彼女たちはすでに中学の時に2週間サンタバーバラで米国体験をしているから、そのときのことを思い出してもらい、徹底して何を見たか、聞いたか、感じたかを英語で書いてもらいました。そして次に日本人の典型的なアメリカ人像やアメリカ文化のイメージなどを描いてもらい、自分たちが体験したアメリカとどう違うのか書いてもらいました。クリティカル・チェックの準備です。

そのうえで、今度はノーマン・ロックウェルの米国の日常生活を描いた絵を見せて、同じように、何を見ているのか、気づいたことはなにか、背景には何があるか、考え書いてもらいました。ロックウェルは、アメリカの人気のアーティストですから、日常的な生活の中に横たわる様々な問題を描き出していて、アメリカ文化を考えるにはちょうどよい素材です。それに米国の日常生活のシチュエーションがよくわかりますから」と語ってくれた。

この発想は、日本ではちょっと経験できないシミュレーションメソッド。新しい土地に舞い降りる時、シチュエーションや文化、ものの見方考え方が違う。それをどうやって瞬時に観察して、耳を澄まし、できるだけ情報を収集し、すでに持ち得ている知識と照らし合わせて、新しい状況をいかに理解するか。それをしないとサバイブできない体験をアメリカ人はするから、そのシミュレーションが言語習得方法に包括されている。ルーズ・ベネディクトが、マッカーサーに日本文化を理解するために情報収集し分析したレポート(のち「菊と刀」としてアレンジされる)を提出したように、未知なる文化をシミュレーションして構築しておくアイデアが重要だということらしい。

そして、このプログラムのパートナーである榑松先生や近藤隆平先生とディスカッションが始まった。大事なことは、その場に降り立つや、5つの感覚でできるだけ情報を収集し、そこの状況やそこにいる人々の文化を、オーガナイズするセンシティブでアクティブなブレインをどう育成するかだという議論をしていた。もちろん英語で(これからはインタビューも英語ができなければ話にならんなあと思いつつ必死に耳を傾けていたが)。そして、これこそ八雲学園の感性教育の真骨頂だと榑松先生は語られた。

その議論の中で、明らかになったことは、昨今トレンドのアクティブラーニングは、フィールドワークだ、リサーチだ、議論だ、プレゼンテーションだというように目に見えるアクティブな行動にばかり目が向いている。それらは、もちろん重要だが、あくまでそれらは情報収集をして状況やその背景の文化やものの見方をオーガナイズし、その妥当性や信頼性をクリティカルチェックできるアクティブ・ブレインンによるものであるかどうかであると。

ショッピングモールやハンバーガーショップに足を踏み入れるや、ボーっとしていはいけない。瞬時に状況を分析し、いついかなるときも自分で判断して動けるように脳をアクティブにし、思考を回転させるようにしておくことなのだと。そのシミュレーションの完成型が、事前学習の最終プログラムだったのである。

そういえば、かつてロバート・フリン神父がプログレスという教科書を作成し、一世を風靡したが。そのときもミシガン・メソッドというサバイバル・スキル方略法だった。やはり、米国のメソッドは究極のサバイバルスキルの習得という伝統があるようだ。

アレン先生から世界の覇権を握るアクティブ・ブレインを伝授された12人の留学生。帰国後の成長が楽しみである。

 

 

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