八雲学園 進化する“Have fun” (了)

今回の取材の過程で、エール大の学生が八雲学園でパフォーマンスと講演をするという情報を入手した。それで、もう一度その様子を取材させていただくことにした。エール大学の4年生古賀健太さんと仲間のJulian Reidさんが登場した。古賀さんはメディアでも登場してくる有名な才能者。灘高卒業後、ハーバード大学、エール大学に合格し、後者を選択。現在4年生。

学校プロジェクトをハーバードやブラウンなどの米国トップクラスの大学生とコラボして、世界の高校生に未来の才能の翼を広げてもらうことを目標にしている。日本では8月に小豆島でサマーキャンプを行うという。

楽しい“仕掛け”

最初は手品から始まった。これは重要な順番。講演からではなく、パフォーマンスからということ。しかもJazz and Closed-Up Magicというセッション。音楽と手品の技術、物語のアートパフォーマンス。古賀さんの前評判は、灘高校出身で、ハーバード大学も受かった天才となっていたから、いきなり講演からはいるシナリオを構成することはなかった。そのプログラムデザインは大成功で、音楽と手品が始まると、そんなことは吹っ飛び、楽しい雰囲気がパッと広がった。さすがは古賀さん、八雲学園の肝をついた。

そして、会場の生徒も巻き込んで参加型の手品に移っていった。ワクワクドキドキ、笑いの連続で大いに盛り上がった。その過程は実はサプライズの連続と言い換えてもよいかもしれない。手品の目的を言ってから、行って、一瞬失敗したかのように見せかけて、実は大成功という、失望と喜びの差異を増幅させる仕掛けの連続で、それは八雲学園の教育の在り方と同期するものだった。

存在理由は出会いの中で自分でつくる

パフォーマンスは、楽しんでもらい、余計な先入観を払しょくしてもらい、古賀さんの言動に惹きつける役割をもっていたが、実は講演内容全体のメタファでもあった。つまり、講演の前に、コンセプトをすでに伝えていたのである。これがグローバルなプレゼンテーションである。アインシュタインなどの科学コミュニケーションも、やはり同じ手法。実はシリコンバレーなどで成功を収めている企業のプレゼンも同じ。

何が同じかというと、サンプルやデモンストレーションから始まる。そしてその段階で目的は達成されているのである。海外のアート系の大学や大学院でも、進学する際の面談では、ポートフォリオが大切。自分の存在の可能性を訴求するのが目的である。存在の可能性こそ、信頼に値するものである。

だから、古賀さんの講演は、学校プロジェクトのスライドショーと音楽を背景に穏やかに進行。雄弁に語る必要はない。ショータイムの収束に向け、アルルカンのように舞台の端にちょこんと座って話をした。もはや口角泡を飛ばして主張する必要はない。そこには、青春時代の可能性の世界がいまここで広がり、すっかりその中に生徒たちは引き込まれているのだから。「楽しい」をデザインすることの大切さに大いに感動したに違いない。

八雲学園はすでに学校プロジェクトを実践してきた

2日間にわたる取材は、結局古賀さんのプレゼンと同じだった。1日目は、八雲学園の実際の様子。しかし、それは取材する側にとっては、古賀さんのセッションさながらパフォーマンスであり、シリコンバレーのプレゼンさながらデモンストレーションである。この段階で八雲学園がこれほど楽しい教育をやっているということ、21世紀型のプレイフルラーンイグ(社会構成主義的学習と生徒1人ひとりの最近接発達領域を大切にしている21世紀型学び)で満ちていることがわかった。

しかし、もう一度2日目で、古賀さんの講演を通して、八雲学園の存在の可能性の振り返りをさせて頂いたのだ。近藤先生は、最後にやってきて、「八雲学園の生徒はのびしろがあるということ、わかっていただけましたか」と静かに語った。つまり、1人ひとりの才能の可能性をみんなで支えていく大きな関係態であるということ。古賀さんも、「灘高校で、高校1年生のときに1番になり、大学受験準備のためだけに時間を費やし、自分の多様な才能開花のために時間を使わない日本の教育は変えたほうがよい。そのために学校プロジェクトを米国のアイビーリーグの仲間たちとやっているのだ」と。

八雲学園は先進的で先見性がある。20年以上前から、生徒にかき氷のもてなしをしながら、このグローバルスタンダードな学校プロジェクトを積み上げてきたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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