八雲学園 進化する“Have fun” (2)

「かき氷」のおもてなしは、突然行われる。「サプライズ!」もまた「楽しい」学園生活を生み出すアクセント。しかし、むやみに行われるわけではない。ここのところ続く猛暑の中、生徒が駒沢体育館を往復し、9月の体育祭でパフォーマンスをくりひろげるダンスの練習をしてきたからである。さて、八雲学園のダンス・パフォーマンスこそ学習指導要領では行き届かない21世紀型教育のクオリティの発露である。

コラボレーション

この日は、一堂に会して練習をする初日。ダンスの動きよりも、ポジショニングの調整がメイン。にもかかわらず、ふだんの練習の成果も表現していた。本番はさぞインパクトがあるだろう。取材をしたのは高2。テーマは「キャッツ」。それで、猫の特徴を表現しているのである。

このパフォーマンスのどこに21世紀型教育の条件があるのか?それは21世紀型スキルの1つであるコラボレーションの形成にある。2015年のOECD/PISAでは、コラボレーションと学びの関係や評価についてリサーチする計画がすでに発表されている。20世紀は、全体主義の反省から、個人主義に大きく舵をきった。そのために、公共に対する意識が世界規模で薄れてしまった。そこでユネスコや新しい学びの理論では、共に生きかつ個性を大切にするコラボレーションを重視するようになった。

踊っているとき以外の1人ひとりの猫の姿は、みなそれぞれの動きをする。ダンスを指導していた先生は、「猫は群れないよ!自分の個性を思い切り表現して!」と幾度も伝えていた。放課後生徒会室に訪れたとき、高2の役員が多かったので、先生が説いている意味をきいてみた。エール大学の学生との交流をしたときのアンケート集計をしている忙しい最中だったが、作業をしながらも質問に丁寧に応じてくれた。

八雲学園の教育の4本柱に「芸術鑑賞」がある。これがまた楽しく学ぶ教育環境の1つなのだと語ってくれた。どうしてかというと、いろいろな芸術鑑賞の中で、ミュージカルがあるが、見ていると自分たちも演じてみたくなる。ダンスをしてみたくなる。「キャッツ」がテーマになったのは、そこに大きなきっかけがあるというのである。楽しいと思った瞬間、頭が働き出し、身体が動き始めるのですよと説明してくれた。

そもそもアンケート集計をするきっかけになったのも、エール大学の学生との交流が、楽しかったし感動したからだという。八雲学園は英語に力を入れているし、メディアでもその評判は高い。しかし、エール大学の学生と交流して、まだまだ自分は英会話ができるレベルで、もっと自分の考えたことや感じたことを表現できるように頑張らなくてはという生徒もいた。

いろいろなことを溢れんばかりに話してくれたが、さて群れない猫の話の意味について聞いてみると、

「八雲は、月に1回ペースで大きな行事があります。1人でできるものは1つもありません。イベントごとに実行委員会ができます。そこを中心に八雲みんなが協力します。とても楽しいのですが、それは自分たちでやらしてもらえるからです。もちろん先生方はサポートしてくれます。でも基本は私たち自身です。そしてこれが大事な点ですが、誰かの考えについていくとか、誰かに考えを押しつけられて行うという感じではないのです。話し合いながら、まとまっていくのです。だからキャッツのダンスも、160匹の個性的な猫がだんだん集まってきて、パッと一丸となって踊るのです。しかし、また優れたダンサーは選抜されて、中央で踊ります。それをみんなで見守ることもするのですよ」

新入生を迎える会から卒業生を送る会まで、さまざまな生徒会活動を組織的に運営している生徒会に感服。

さて、サプライズの話に戻ろう。

さらなる2つのサプライズ

掃除も終わり終礼が近いづいてきたころ、多くの生徒が調理室にむかった。あまりの猛暑に、自動販売機のドリンクが完売。これでは、放課後の活動の時に熱中症になるおそれがある。自動販売機の準備ができるまでと、ドリンクが配給された。

そうして終礼がはじまった。菅原先生のクラスを覗いてみて、またしてもサプライズ。

菅原先生は、前日の合唱祭で優勝できなかったが、このクラスの響きに癒されたから、そのお礼にとかわいらしいムースを1人ひとりにプレゼント。盛り上がったのは言うまでもない。

もちろん、ここには破格の教育ビジョンがある。かけがえのない価値とは何かということである。競争して勝つこと以上に価値があるものは何か。このようなサプライズのたびに、生徒はそれに気づくのである。それにしても放課後静かに心落ち着けて家路への準備となるのかと思ったが、さらにテンションあげるとは!それもそのはずである。ここから八雲学園の教育の第Ⅱ部が始まるのだから。生徒たちは夜の8時ころまで、部活や勉強をするのだ。

Twitter icon
Facebook icon