桜丘 桜華祭が映し出す「学習する組織」(2)

キャンナビからビジョンの継承始まる

中1は、夏休みの河口湖宿泊研修で学んだことをプレゼンテーションした。しかし、河口湖体験の学びではない。学びのビジョンの探求だった。問いが生徒にとって、常にダブルクエスチョンになっているのが、桜丘の特色。Aとは何か?同時にAを通して何を学ぶか?

高1の進路のプレゼンもそうだった。進路先を学び、進路先を学ぶことを通して何を学ぶのかをプレゼンするという具合に。

さて、中1の話に戻ると、今回の「桜華祭」のテーマは“Try Our Wings”であるが、これについてチームごとにビジョンの意味について探求したのである。

先生や先輩が、今回のテーマの意味はこういうことと定義を教え込むのではなく、ビジョンの意味をそれぞれが深めていくという探求学習の最も大事なところから中1はスタートした。

もちろん、この“Wings”は、桜丘の教育ビジョン「コンパスと翼」の「翼」のことである。ビジョンを共有するには、定義を覚えるのではなく、自分たちで意味を込めるのである。もちろん、ボトムアップはどこかでトップダウンとつながるのだが、それは高1のプレゼンを見ればわかるように、多様な意味の捉え方が、やがて大きな枠組みとして同質になっていく。

そのようなことがどうして上手くいくのかというと、それはすでに学校説明会のときから始まっている。桜丘ではキャンパスナビゲーションの役割を担う生徒のことをキャンナビと呼んでいるが、受験生は入学前に、キャンナビによって学校の案内に誘われる。

このとき、教育ビジョンが響きとして伝わるのである。そして、夏の研修の事前準備の段階で、その時の様子を思い出しながら、再び中1生はチームごとに校内を探索する。そのときは、“Try Our Wings”に相当するものを探すというフィールドワークのシミュレーションをしたという。プレゼンのプロトタイプのプロトタイプづくり。

ところで、このチームで活動するというのは、大変難しい。たんなる集団やグループではない。チームワークという個々の力が合わさってシナジーを生み出すパワーを創出する仲間になることを、桜丘の先生方は期待している。

そこで、4月、5月にプロジェクトアドベンチャー(PA)というアクティビティを行っている。たとえば、畳2畳くらいの板をシーソーにしたゲーム。板の上にメンバー全員が乗って、協力しないと、水平バランスがとれないことを、身体で実感する。

そのようなゲームを通して、チームビルディングが大切であることを徐々に体感していくプログラムを実施。メタファを通して気づくという知性も同時に養われていく。これは中2のプレゼンの時に発揮するが、今回は中1の話に集中しよう。

ともあれ、木目細かい多様なチームビルディングのプログラムが一年通じて仕掛けられている。

こうした長期にわたる研修の事前プログラムが前提となって、河口湖という地球が直接姿を現しているフィールドで、“Try Our Wings”の意味を探求するのである。「体験→気づき→リサーチ→課題発見→議論→編集→プレゼン」という学びのサイクルが大きく回転しだすのである。

チームごとのプレゼンのプロトタイプができたら、学校に還ってきてから、さらにブラッシュアップ。プレゼンの仕方も再トレーニング。そして「桜華祭」本番に立ち臨むのである。

この一連のビジョンの共有、チームビルディング、思考トレーニング、コミュニケーション、自己陶冶というシステムこそMITのピーター・センゲが「学習する組織」と呼んでいる思考システムと一致するのではないだろうか。

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