八雲学園の英語教育も総合力を目指してることについてインタビューした折、その実践イベント「English Fun Fair」を催すことを聞いた。そこで、10年間オーストラリアの現地校に通っていた松本実沙音さん(21会リサーチャー:東大文Ⅱ)といっしょに見学。松本さんの長い外国生活の経験と堪能な英語力の目で見たレポート。
「English Fun Fair」 あり得ない楽しいイベント
11月9日、八雲学園中学校で「English Fun Fair」イベントが行われた。これは、60名余りの外国人のゲストを招き、中学一年生から三年生といっしょに英語のゲームや会話を楽しむという、特別なイベントである。朝、駅から学校へ向かう道では、八雲学園の生徒たちに混じって八雲学園へ向かう外国人が多く見られた。「English Fun Fair」とは一体どのようなイベントなのだろうか、と思わせるようなシーンであった。
イベントでは、「English Fun Fair」というその名の通り、楽しいアクティビティが多く用意されていた。教室内でのアクティビティは、5、6人のグループに対し一人のゲスト。時間を忘れ、対話でいっぱいになる。
例えば、「Opposite Challenge」という、読まれた英単語に対する対義語を一番速く言えた人が勝ちというゲームや、「Hobby charades」という、趣味をジェスチャーで表して他の生徒がそれを英語で言い当てるゲームなどがあった。
教室をいくつかまわって思ったのは、外国人ゲスト達が多国籍であることだ。日本で習う英語は、基本的にはアメリカ英語だ。耳にする教材の音声もアメリカ訛りのみのものが多い。
しかし、「English Fun Fair」の参加ゲストたちは英語圏のみにとどまらず、あらゆる国から来ている。よって、英語の訛りも多種多様だ。
このように、一度に多くの違った英語を耳にできる機会は多くない。これは、学生たちが、世界のどこでも通用する「生きた英語」を身につける機会であると言える。
体育館では、一学年の生徒たちと20数名のゲストが一緒になってゲームを楽しんだ。ゲームが終わった後、生徒たちは体育館内を走り回り、なるべく多くの外国人ゲストに話しかけ、「なぜ日本に来たのですか?」「家族は何人いますか?」などのインタビューを行う。
その結果を用紙に書き込み、「ゲストの中で○○な人は何人いましたか?それは誰ですか?」など、あらかじめ用意されているクイズに答える。元気良く駆け回る生徒たちの質問に答える外国人ゲストたちも、楽しそうに笑顔を浮かべていた。
横山先生によると、八雲学園では、中学三年生は春に全員、アメリカのUCSBへ一週間の間通う。そこで、大学の教授の授業を受け、休み時間にはUCSBの大学生にインタビューを行うそうだ。
その時、中学三年生の彼らは「English Fun Fair」を三回経験している。おそらく、体育館でのインタビュー体験などが、UCSBでのコミュニケーションに活かされるのであろう。
英語のスキル以上の「ことば」の総合力がベース
休み時間に、ゲストの一人に話を伺う機会があった。オーストラリアから日本の文化に興味を持ったことをきっかけに移住してきたという女性ゲストは、もう何度も「English Fun Fair」に参加しているという。「ここの生徒たちは皆とても“Enthusiastic”(熱心)だからこちらも大変楽しい」とのことであった。
八雲の先生方曰く、ゲストの方々の多くは自ら何度も「English Fun Fair」に参加したがってくれるとのことだ。教えられる側だけでなく、教える側も楽しんでできる教育ほど効果的なものはないだろう。
八雲学園では毎年「English Fun Fair」を開催しているが、更に、毎年イベント終了後に、参加者の外国人ゲスト師の方々に振り返りを書いてもらい、少しずつプログラムの改良を行っているらしい。
実は、イベント開始前、参加者の外国人英語教師を全員集めた上でミーティングが行われていた。そこでは、参加者一人一人にイベント進行のマニュアルが配られ、「”It”と”Has”の区別がはっきりするように話してください」「単語ではなく文章による会話を心がけてください」など細かい指示が出されていた。
確かにどの教室を見学していても、ゲストの方々はゆっくり、はっきりと英語をしゃべり、また単語でしゃべる生徒の言葉を文章にして言い直したりしていた。
自然に会話しているようにみえて、的確に生徒たちを正しい英語へと誘導していたのだ。ここに、何年もこのイベントを開催し続けてきた八雲の先生方の創意工夫と、それを確実かつ自然に実践している外国人ゲストの方々のチームワークを強烈に感じることができた。
「English Fun Fair」の意味
私が「English Fun Fair」を通して感じたのは、これは、たんに「語学を身につけるためのイベント」ではなく、「英語以上の相手と意思疎通するスキルを身につけるためのイベント」であるということだ。
難しい単語や文法を使いこなすことが目的ではなく、何か新しい英語のコツを学ぶためでもない。使う英語はシンプル。しかし、イベントが進行していくにつれて生徒たちとゲストたちの間でのやりとりが活発になってきたのか、笑い声が頻繁に聞こえてくるようになる。
ゲストがとばす冗談に生徒が反応できるようになり、インタビューがスムーズに行えるようになってくる。相手が自分の母国語を話さなくても、表情や仕草、そして互いに理解しようという意志のほとんどは世界共通だ。
一緒にゲームを楽しんでいく中で、「私は外国人の人とでも一緒に何かをして楽しむことができるんだ」という実感を得ることができるのだろう。こうして、ことばの知識や論理だけではなく、ことばの感性も発揮して、相手と意思疎通をするスキルを、八雲の生徒は確実に習得していくのである。