Created on March 25, 2018
2018年2月18日、工学院大学新宿キャンパス「アーバンテックホール」で、21世紀型教育機構主催の「新中学入試セミナー」を開催いたしました。オープニングで、総合司会である21世紀型教育機構副理事長であり、工学院大学附属中学校・高等学校の平方邦行先生より「グローバル社会を生き抜く若者を育てられるか」という問題提起がなされました。
例えば、2014年開校のミネルヴァ大学はキャンパスを持たず、世界中を渡り歩きながら学ぶという新時代のリベラルアーツのあり方を提案しています。こうした新しい学校の在り方が示される中で、いま教育がどう変わるべきか、一緒に考えていこうと訴えかけます。そのキーワードとして「グローバル教育3.0」が挙げられるだろうと述べています。
AIの進化やグローバル競争と対立が大きな問題として予測される中、我々はどういう教育を通して地球市民を創り上げるのか、ということを真剣に考える時期にあることを参加者とまずは共有をしたのです。(株式会社カンザキメソッド代表であり、21世紀型教育機構リサーチフェローでもある神崎史彦氏に取材記事として寄稿して頂きました。)
そして、第Ⅰ部では<真実の21世紀型教育とは何か?>をテーマに基調講演がありました。「新たな日本の教育の行方~グローバル高大接続教育」をテーマに、21世紀型教育機構理事長・富士見丘学園理事長校長の吉田晋先生よりお話がありました。
吉田先生は、日本を支える次世代をどう育むべきかを本気で考えようと、我々に熱く訴えていました。日本では教育改革が行われようとしていますが、なかなかうまくいかない現状を指摘しつつ、思考力・表現力・英語4技能育成を積極的に行ってきた21世紀型教育機構をはじめとした私学中高が先導し、大学も入試を変えてきたという現状があります。
しかしながら、大学側は英語4技能の育成を担うこと、英語4技能・記述式・面接試験などを大学入試に導入する難しさに直面しています。吉田先生はそうした障害を乗り越え「人間にしかできないこととは何か」「日本人として堂々と生きる若者をつくることが我々の使命だ」と決意を述べます。21世紀型教育機構はグローバル教育3.0を掲げ、夢や希望に向かって何が必要かを考え、寄り添い、どう導くかを考えていきたいと締めくくりました。
首都圏模試センター取締役・教育情報部長である北一成先生は「中学入試の新しいウネリ」を論題に、今年の中学入試の現状を報告しました。
北先生は首都圏の中学入試受験生の増加に違和感を覚えていると指摘。その背景には中学入試の構造の変化があるといいます。従来型の塾に通う子どもが減る一方、思考力入試や英語入試、得意科目を選べる入試、習い事・プレゼンテーション型といった新しい入試にチャレンジし、4科受験の減少を埋めている現状があります。それは小学4年生になったとき、塾通いを選ばずに習い事を続けるケースがあるからではないかと分析しています。
一方、私立中の適性検査型入試、英語入試実施校がともに100校を超え、今後も増える可能性があります。大学入試改革やグローバル社会への対応を意識している様子が伺えます。帰国生入試も増加しています。帰国生の絶対数はそれほど増えていないものの、ダイバシティー化が進み、国内と英語学習者を混ぜる私立中高の動きもあります。
多様な入試を取り入れて、多様な受験生を受け入れる学校が伸びています。偏差値と進学実績を重視した学歴・塾歴社会では、一人一人が持つ才能を考慮しない入試が行われる傾向がありました。これまでの日本の教育が画一的だったとは、見識者によってよく語られてきたことでもあります。
しかし、若い保護者の価値観が変化しています。明らかに公立学校より早く進化できているのは私立中高一貫校です。そうした才能ある受験生を学歴・塾歴解放区へ引き入れ、伸ばそうと決意する21世紀型教育機構をはじめとした私学が認められる時代になったといえます。
21世紀型教育機構副理事長・三田国際学園学園長の大橋清貫先生は「高大接続のパラダイム転換」というテーマで私たちに語りかけました。
21世紀型教育機構の加盟校の大前提は、テクノロジーの進歩や世界のフラット化、AIの進歩、第4次産業革命など、起こり得る未来を前提とした教育活動を行うことだといいます。そして、これからコンピテンシー(成果を出す人に共通する行動特性)が求められ、知識・応用力を前提とした発想力・コミュニケーション力・問題解決力が欠かせないと言及し、「社会に出るまでに身に付けるべき力とは?」と問題提起します。
大橋先生は現状を批判的に捉えて創造的に破壊する力が今後は求められるのではないかといいます。そして、そのためには「学習習慣の置き換え」が必要だと指摘します。今までの学習者の習慣はPassive Learning、つまり理解して解答できることが求められてきました。しかし、今後は分析し、仮説を立て、実証し、説得するという時代に変わるといえます。
特に、最近ではすでに21世紀型スキルを持つ受験生が増えている現状を鑑みるに、学校教育も21世紀型教育もVer3.0を目指す必要があるとのこと。それは、中学入試が変化したからだと大橋先生は指摘します。C1英語(英語入試Essay Writing)×思考力(思考力問題、21世紀型入試)の実施によって新入生が変化し、知的好奇心が高く、成長速度が全く違う受験生が入学してくるようになったとのことです。
そして、こうした21世紀型教育機構の取り組みにより育まれた子どもたちが、6年後どんな大学に進学したらよいのかを考えるべきだと述べています。「大学選択=偏差値」という一般論を批判的に捉え、「コンピテンシーの高低」「トラディショナルかイノベーティブか」といった新たな指標を持ち込むことが欠かせません。そして、コンピテンシー型教育でありイノベーティブな大学が、21世紀型教育によって育まれた子どもにはよいのではないかと述べ、大学の変化に期待しているとのことでした。
4名の先生方が共通して論じていることは、学校教育のパラダイム(枠組み)の転換にほかなりません。従前の偏差値による学校選択や大学受験を頂点とした教育を批判的に捉え、何のための教育なのか、私立学校はどのような教育を展開すべきかを考え、実践し、その姿を世に発信しようという試みなのだと理解しました。
これからを生きる子どもたちを従前の枠組みに閉じ込めるのではなく、才能を掬い上げ、コンピテンシーや英語運用能力を育成し、グローバル社会で未来を創造すること。それが21世紀型教育機構の使命であるという強い意志を、4名の先生方の主張から感じ取ることができました。
そして、そうした子どもたちを迎え入れるために、思考力入試や英語入試をはじめとした新たな入試を開発し、その動きがますます加速しそうだという様子も窺い知ることができました。未来を生きる子どもたちのための教育を創り上げようとする、まさにフロンティアが21世紀型教育機構に加盟する学校なのだといえるでしょう。
第Ⅱ部は<教育のコペルニクス的転回>「グローバルコミュニティと連携する」テーマに、パネルディスカッションが行われました。
コーディネーターのGLICC代表・鈴木裕之氏より、グローバルコミュニティの連携はとても重要な概念であると指摘しました。グローバル市民がインターネットを介して市民同士と繋がれる時代において、教育はどう変わるべきかと問題を提起しました。今回登壇したパネリストの学校は、すべてグローバルコミュニティとコラボレーションして教育に取り組んでいます。
八雲学園は、ラウンドスクエア。文化学園大学杉並は、カナダのブリッティッシュコロンビア州の教育省、工学院は、ケンブリッジ・イングリッシュ・スクール、聖学院は、タイのメーコック財団。一部の生徒が海外研修や留学をするというプログラムではなく、このようなコミュニティとコラボレーションして、共に教育活動を行っています。今までの国際理解教育では行われてこなかった全く新しい取り組みです。
八雲学園中学校高等学校の高校部長・菅原久平先生からは、ラウンドスクエアの取り組みのご紹介がありました。ラウンドスクエアは6つの教育の柱「IDEALS」(Internationalism, Democracy, Environment, Adventure, Leadership, Service)に基づいて活動する、国際的な私立学校連盟です。八雲学園の建学の精神である「生命主義」「健康主義」を進化させ、ラウンドスクエアとの理念と融合させ、新しいステージに突入したという報告がありました。
文化学園杉並中学・高等学校の国際部主任・窪田淳先生はダブルディプロマ(日本+カナダの高校のカリキュラムを実施)について説明がありました。カナダの高校のカリキュラムは他者理解を重視し、たとえば社会の授業ではLGBTの理解など、他者理解から社会貢献に向かうマインドの形成に成功しているといいます。
工学院大学附属中学校・高等学校の英語科主任・田中歩先生からはグローバル市民を育成するため、ケンブリッジ大のコンテンツの活用をもとにした取り組みを行っているという紹介がありました。教員はケンブリッジ大の無料オンライン講座で学び、生徒は英語4技能をどう身につけ、能力をケンブリッジ英検で確認し、スキルの数値目標をもとにして自己を振り返るといった試みを実践しているそうです。工学院は、日本初のケンブリッジ・イングリッシュ・スクールの認定校です。
聖学院中学校・高等学校の高等部長・伊藤豊先生からはタイ研修旅行におけるPBL(Project Baced Learning)の紹介がありました。山岳少数民族の子どもたちとの交流を通し、社会的ハンディキャップを肌で感じ取ることを通し、子どもたちのために何ができるかを考えるプログラムです。世界の問題を読み解きながら、異文化異言語でも協働し、高次の探究スキルを習得しながら、社会貢献できる人材を育成し、自己成長を促すといいます。
また、鈴木氏はCLIL(学習内容を題材にさまざまな言語活動を行うこと)など、コンテンツと言語が表裏一体となる学習活動に関心が集まっているといいます。そこで、英語学習とPBLなど、教科横断的な教育活動が各校でどう行われているのか、パネリストから紹介がありました。
菅原先生からは探究活動を通したプレゼンテーションスキルの育成について話がありました。推し量る文化の中にいて、話すのが苦手な中高生にとって、プレゼンテーションは高度な問題になりがちだといいます。そもそも、そういう状況では国際社会に出るには通用しないと指摘します。お互いの理念を共有し、どう発すればリスペクト出来るのか、というマインド形成が非常に大切だとのことでした。
窪田先生は、ダブルディプロマを通した活動について述べました。カナダの授業では、自分の表現活動のなかで「自分がどういう目的でその内容を伝えようとしているのか」「オーディエンスを意識する」ということを意識しているそうです。加えて「Who am I?(私は何者?)」を理解し育成するための非認知的スキルを取り入れるカリキュラムが組まれているといいます。
田中先生からは「どう英語が身についていくか」ということを、表現活動の中で見出すことができると指摘します。子どもたちの創造的な活動を通し、自分たちの考えを自分たちの力で言えることを楽しむ教育活動が欠かせないといいます。また、LEGOによるクリエイティブ活動、地域の家の特性調べなど、教科横断型の授業は実際の生活に役立てることができるとのこと。英語で取り組み、「できた、うれしい、だからやる」というサイクルが生まれることを期待しているそうです。
伊藤先生からはPBLについての実践報告がありました。宿泊行事のPBL化、SDGsワーク、情報整理ワーク、論証ワークなど、探究学習に必要なワークなど、教科横断的な活動が積極的に行われているそうです。また、ソーシャルデザインキャンプと称し、湯河原の漁業体験を通した探究スキルの習得が行われています。体験を通して様々なスキルを学び取るコンテンツを豊富に用意していることが特徴とのことです。
そして、21世紀型教育機構ではグローバル教育をVer3.0にアップデートする試みがなされていますが、その事例紹介もありました。
伊藤先生からはタイ研修旅行の経験がその後でも活かされているといえる一方、自己肯定感が上がるが、社会に貢献する意欲に繋げられるかを考える必要があるとのこと。窪田先生は、みんなに同じ教育を提供するのは実は格差を生みかねないことから学習の個別化が欠かせず、それぞれの認知能力に合った教育の提供のためにICT活用が不可欠だと指摘します。田中先生は子どもたちが英語をどう使って、問題や課題に対するアイデアを英語で生み出しながらどう解決し、未来に繋げていくのかが大事だといいます。菅原先生はラウンドスクエアの活動を通し生徒が主体的に行動し、高度な社会問題まで扱う活動を通し、言語以上に大事な事柄を中高で責任をもってやっていくべきだと述べました。
4名の先生方の実践報告を聴き、タイトルにある「コペルニクス的転回」とは「知識や技能がなければ、創造的思考は発動されない」という教育現場の一般的なとらえ方が大きく変わりはじめていることを指すのだと理解しました。グローバルコミュニティのアクセスや英語習得を教育活動に自然に組み込み、そうした試みによって子どもたちに学びへの好奇心を発動するという仕掛けを各校で施していることがわかります。
創造的思考を発動させたのちに知識や技術を習得したり、これらを体験の中で同時並行的に学んでいったりするわけです。日本の公教育では基礎的な知識・技能を鍛錬することに精一杯で、それが大学入試に直結するゆえに、創造的思考を育む教育が施されにくい状況にあります。
それを4校ではその壁を乗り越えようとしています。自己の成長を喜び、時には役割を変えながら、創造的思考で問題や課題を解決する。そうした子どもたちの理想的な姿を追い求め、各校では切磋琢磨しながら教育活動に取り組んでいることが伝わりました。