3月21日第1回21会思考力セミナーが開催された。新小学校6年生が参加する思考力セミナーと同時に、別会場では保護者対象の教育セミナーが行われ、多くの参加者の注目を集めた。その模様をダイジェストでお伝えする。 by 鈴木裕之:海外帰国生教育研究家
第1部 開会宣言 平方邦行 工学院大学附属中学高等学校校長「2015年から2018年までの教育メガトレンド」
時代を読む教育セミナーは平方先生の開会宣言でスタートした。2018年に起こる大学入試改革が与えるインパクトを含め、グローバル教育からサバイバル教育へと移行していくメガトレンドについてのお話であった。決まった答えを教えるだけの日本の教育が世界標準からズレてしまっていること、そして、これからは、共に生きることを学ぶために学校が変わらなければならない、そのためには、授業が変わる必要があるということ、知識を授けるだけではなく、PBL、PIL型に変わることが必要なのだという力強い宣言であった。
第2部 「新6年生が直面するグローバル教育と21世紀型学び」
1)基調対談 江川昭夫(佼成学園女子教頭) × 大島規男(富士見丘学園教頭)
富士見丘と佼成女子では、ロンドン大学の提携推薦入学制度を持つという共通点があるという話から対談がスタート。大島先生は多くを語らず、そのロンドン大学キングスカレッジでファウンデーションコースの責任者をしている方のメッセージをビデオで流した。
そのメッセージというのは、ノートをきちんと写すことが「良い生徒」であるという国ばかりではない、少なくとも英国で期待されている「良い生徒」のイメージではないというもの。それを受けて、大島先生と江川先生の対談が始まった。知識を習得しテスト前になるとノートを見返すという20世紀型の勉強が、授業で質問する力、あるいは対話する機会を生徒から奪ってきたかもしれないというやり取りがなされた。対談はさらにMOOCなどのオンライン学習が持つ可能性とインパクト、世界に伍していくだけの思考力や英語力を育む授業についても話が及んだ。
2)パネルディスカッション ① 「中高で必要なグローバル教育」
コーディネーター 辰巳順子(東京女子学園校長補佐)
パネリスト 小泉豊(戸板副校長) × 長塚篤夫(順天校長) × 青井静男(文化学園大学杉並校長) × 中川弘 (土浦日本大学中等教育学校校長)
基調対談に続き、グローバル教育についてのトークセッションが行われた。グローバル化する世の中で自分をきちんと主張できる生徒が求められる一方、そのようなグローバル化に対して教員自身が本当に世の中についていっているのかどうか、相当な努力をしないといけないという問題提起があった。
日本から海外に出ていくだけでなく、海外から優秀な留学生が日本にやってくる時代において、日本人としてのアイデンティティを大切にしながら多様性(diversity)への寛容さと、論理的・批判的な思考力を磨いていく必要があるということが、それぞれの学校の取り組みとともに語られた。
3)パネルディスカッション ② 「中高の学びはこう変わる」
コーディネーター 品田健(桜丘副校長)
パネリスト 伊藤正徳 (聖徳学園校長) × 島田浩平 (工学院大学附属教頭) × 渡辺眞人 (共立女子校長) × 大木理恵子 (かえつ有明サイエンス科主任)
グローバル化する社会の中で、「中高の学びはどのように変わっていくのか」というテーマが掲げられた二つ目のパネルディスカッション。コーディネーターの品田先生は、むしろ「中高の学びをこう変える」という主体的な問題意識を持ってトークセッションを開始した。
iPadの導入などによるICT教育の推進、また可動式の机・椅子を設置した教室での学びが授業のスタイルを変えることなどにも話が及ぶ。解なき社会で自ら解を見出そうとする生徒を育てるためには、根底にリベラルアーツが必要であるという話がなされた。
第3部 「思考力セミナー解題」
本橋真紀子(聖学院数学科主任・国際バカロレア研究家) × 有山裕美子(工学院大学附属司書教諭・都留文科大学非常勤講師)
第3部は、思考力セミナーを終えた子どもたちが教育セミナー会場に戻った後、思考力テスト会場の様子がパワーポイントを使って説明された。
子どもたちと保護者が、対話しながら思考力問題についての解説に耳を傾けている姿がまさに21世紀型の学びを予感させるものであった。
「子どもの未来のための夢と今」 菅原久平(八雲学園高等部部長)
セミナーは予定時間を少し超過したものの、終始熱心な保護者の拍手喝采に支えられ、最後までほどよい緊張感に包まれたムードで進行した。その進行を支えた菅原先生から、子どもの未来を拓くために大切な「今」についてお話があった。
そしてセミナー閉会の挨拶をされたのは、日本私立中学高等学校連合会会長で富士見丘学園理事長校長の吉田先生であった。
中教審メンバーでもある吉田先生が自ら思考力セミナーの閉会挨拶を務められたということが、いかにこのイベントがこれからの日本の教育の方向性に関して重大な意味を持っているかということを物語っている。参加人数やイベントの規模としてはまだ小さい一歩に過ぎないかもしれないが、この思考力セミナーに参加したご父母の方は、大きな転換点の貴重な目撃者となったのかもしれない。