工学院 13歳から世界跳躍へ

2017年3月1日、工学院大学附属中学高等学校は、公開セミナー「世界で活躍できる13歳からの学び」を開催。東京都私学財団助成金研究報告「iPadマイクロスコープを活用した生物実験による学習コミュニティの創出」の中間報告。しかも、この研究が可能となる前提の21世紀型教育改革の理念や実践授業も見学できる充実した内容だった。

ワークショップがあるため、参加者の人数が40名限定ということもあり、意識の高い参加者が集った。すなわち、自分たちも教育改革をやりたい、PBLのようなアクティブラーニングを実践したいから学びに来たという高感度で高い意識を抱いて、参加者は、大坂や静岡など遠方からもやってきていた。by 本間勇人 私立学校研究家

平方校長の「本校の教育改革」からスタートした。2020年大学入試改革が進もうが遅れようが、世界が大きく動いている時代である。子どもたちの未来に備える21世紀型教育を学校全体で取り組む覚悟で実践してきた4年間のロードマップを語った。そして、その改革のコアが、授業改革であり、改革を進めるに当たり世界標準のモノサシである「思考コード」を議論して創り、現在検証中であることを披露した。

シラバスは、「授業×テスト×評価」がセットになっていて、それが「思考コード」というモノサシに基づいて、デザインされている。この話に参加者は驚いていたが、セミナー終了時に、セミナーという活動全体のデザインそのものが、一貫して「思考コード」に基づいていたことに気づいて、感動した参加者もいた。

高橋一也教頭の講演「世界で活躍できる13歳からの学び」は、教科書、クラス、学校の枠をはみ出す新しい教育を語った。偏差値やブランド大学に縛られるのではなく、世界を見よう、そしてそのステージで何ができ、どのように貢献できるのか、そのための新しい学習スタイル、学習空間、多様なプログラムなどが必要であると。

実際に、中学棟で高橋先生は授業を実施したが、それを見学しに行った参加者は、たしかに掲示板や全面ホワイトボードの廊下の創意工夫が、なるほど学習空間とはこういうものかと感銘をうけていた。「授業外での学び」の重要性に心揺さぶられ、魅了され、しかし、自分の学校でやろうとしたとき、どうすべきなのか刺激をうけていた先生もいた。

しかし、何より、授業がすごかった。ある先生は、渋谷のスクランブル交差点でゲリラ豪雨が降ってきたときの混乱状況を、即興劇でしかも英語で演じることができるのだけでも驚いたが、そのとき、そこに居合わせた人々の性格特徴をつかまえながら感情を音声、表情、しぐさに表現していく授業の柔らかさに感動したと。

一見アドリブで行われているようだし、ロールプレイに到るまでの時間も短い。しかし、これは、もしここが世界というステージだったらとトランスフォームした時、周りの動きは自分を待ってくれない。まさに小さな世界のステージだったのだと思い知ったとき、「授業外の学び」の本当の意味が分かったような気がすると私にそっと語ってくれた。

有山先生の「デザイン思考」の授業も、SNSやタブレットを活用した授業がこんなにも有効であるのかと実感できたと語る先生もいた。しかし、実はこのデザイン思考は、授業前の仕込みがすごい。もし参加者が、バックヤードの話を聞いたら、21世紀型教育というのは、まさに舞台芸術さながらであることに気づいただろう。

福田先生の国語の授業は、小説の名言の自由なそれでいて哲学的な解釈の授業。画像と文章の中の言葉を結合することは一見自由だが、ただ自由では、カテゴリーミステイクを生み出してしまうので、そこをどのようにクリティカルシンキングで乗り越えるか、なかなかスリリングなプレゼンになる。

論理的な展開をたどっていくだけではなく、このカテゴリーミステイクを解決するという集合論的論理を考える学びは、実は創造性の翼を広げる跳躍台にいきつくことになる。

工学院の中学入試では、思考力入試を実施している。その対策講座として、説明会で「思考力セミナー」を行っているが、この体験ワークショップがファイナルアクティビティとなった。入試問題は学校の顔(アドミッションポリシー)であるから、この体験を通して、工学院の21世紀型教育改革のエッセンスを実感してもらう意図があったのだろう。

プログラムのテーマは「簡易顕微鏡NURUGOを使ったマイクロフォトグラファーになろう」。iPadにNURUGOを装着して、まずは写真を撮っていく。なかなかうまくいかない、どうしたらよいのか?そこでスタンフォード流儀のデザイン思考の創造力を刺激するインプロを挿入するなど、随所にリフレクションのループが仕掛けられている。

6つのステップをクリアしていく授業になっているが、各ステップでは、こまめにリフレクションされていて、全体を通してリニアではなく、ループ型のフローチャートになっている。ここにクリエイティビティが刺激される秘密がある。しかも、ワークショップ終了後にスーパーバイザーを務めた教務主任の太田先生によって、このステップがすべて「思考コード」に紐づいていることが明かされた。

今回公開された授業もすべて「思考コード」でシラバスが作成され公開されていた。ここにきて、参加者は、ようやく今回のセミナーがハウツーセミナーではなく、完全にビジョン型セミナーであることに気づいた。平方校長、高橋教頭の世界の変化という未来からバックキャスティングして、いまここで子どもたちが未来を手中にするための具体的な教育デザインがなされているのだ。「思考コード」という工学院軸が一気通貫している。ビジョンをシェアし、システマティックにそれでいて共感的なコミュニケーションがある学校。

アクティビティ進行中の合間に、すれ違う瞬間的な時間で対話がなされる学校。刹那の時間に、高校の改革のアイデアがブレストされるシーンもあった。

実に密なるコミュニティ、あるいは共同体的な絆が随所に感じられるシーンがいっぱいあった。

しかしながら、ただの仲良し集団ではない。今回のプログラムの一部始終を記録に残し、サイトや動画をつくって、発信しつつ、リフレクションができるように仕掛けるスーパーモニターである加藤先生の存在が大きい。学習する組織が進化するには、モニタリングシステムが極めて重要だ。このカリキュラムマネジメントシステムは、今回披露されなかった。もちろん、今のところ企業秘密なのだろう。

平方校長自身、生物の教師であり、美術の教師であり、技術の教師であり、彫刻家として群馬の名だたるアーティストである。そしてなんといっても、一般財団法人東京私立中学高等学校協会副会長、21世紀型教育機構副理事長として、日本の教育行政を動かす聡明な発言力・影響力を発揮している。

工学院が、ハウツー近視眼型改革ではなく、ビジョン実現型改革ができる「学習する組織」を形成できるのは、ミクロもマクロも統合できる聡明な校長のリーダーシップが極まりなくポイントであることが証明されたセミナーであった。

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