2017年12月17日に開智国際大学で「21世紀型教育機構千葉カンファレンス」が開催されました。9月に静岡聖光学院で開催された静岡シンポジウムに続き、千葉でカンファレンスが行われたことは、東京以外の学校にも21世紀型教育が確実に拡がりを見せていることを強く印象づけました。開智学園といえば、共学化した開智日本橋で国際バカロレアをカリキュラムに取り込むなど、改革の動きが速いことで知られています。21世紀型教育機構とのコラボレーションは、開智学園が改革をさらに加速させる予兆でもあるわけです。「千葉カンファレンス」は、そのようなトレンドをキャッチしようとするアンテナの高い教育関係者が集まるイベントとなりました。 by 鈴木裕之:海外帰国生教育研究家
第1部は、開智学園の青木徹理事長による基調講演から始まりました。開智学園の小学校から大学までの教育実践、特に探究型授業を軸にしながら、21世紀型の教育に求められる「社会貢献」についてお話されました。
開智学園では、小学校から大学まで、すべての学年において一貫して探究型の学びが展開されています。グローバル化が進む社会の中で必要となる学びはどのようなものなのか、開智学園の挑戦は、今後の高大接続や大学進学教育のあり方に一つのモデルを提供しています。青木先生の力強いお話から、21世紀型教育をミッションに掲げる開智学園の理念がひしひしと伝わってきました。
「真実の21世紀型教育~創造的破壊の時代」
続いて登場したのは、三田国際学園の大橋清貫理事長です。
共学化したときの1期生が現在中学3年生で、大学合格実績に反映されていない段階であるにもかかわらず、三田国際がなぜ今これほど人気を集めているのかという秘密に迫る話でした。その秘密を解くキーワードが「創造的破壊」です。時代の変化に対応して、社会で求められる資質も変わりつつあることに学校が気づけるかどうかが鍵だと語ります。従来のやり方をただ踏襲するのではなく、本当に必要なことに目を向け、そのような教育に変えていけるかどうか。大橋先生は、多くのデータを元にした分析によってこれからの社会に必要な資質・能力を提示しました。そのような社会においては大学選びのあり方も当然変わっていくはずで、21世紀型教育に期待している中高生や保護者に、自信を持って薦められる大学を発掘し、さらには自分達で作り育てていく必要があるのだというビジョンを共有しました。
「21世紀型教育のカリキュラムマネジメント」
第2部は、「21世紀型教育のカリキュラムマネジメント」と題したトークセッションで、三田国際学園の教頭田中潤先生と21世紀型教育機構理事の本間勇人先生による対話が行われました。
田中教頭先生は、三田国際で大橋理事長の教育ビジョンを現実化するブレーンの一人です。カリキュラムマネジメントに必要なツールは「地図」なのか、それとも「コンパス」なのかという問いからトークセッションはスタート。その問いは、カリキュラムおよび学校のコアである「バリュー」(Soul、目標…)をいかに教員や生徒保護者が共有するかという問題提起に置き換わります。21世紀に必要なコンピテンシーを見据えた上で、カリキュラムマネジメントの肝とも言える「メタ・ルーブリック」を策定し、そこから教科ルーブリック・単元ルーブリックへと落とし込むという三田国際の奥義を惜しげもなく披露します。三田国際ではすべての授業でルーブリックが生徒に提示され、どの領域の学びをしようとしているのかが了解されるようになっているわけです。
カリキュラムに息吹を与えるのは、学校組織の教員チームです。三田国際では、マネジメント理論を取り入れた研修を充実させ、英語ネイティブスピーカー教員(International Teachers)が多いことを鑑みて日英二言語での会議を実施するなど、 教員同士や教員と生徒間のコミュニケーションを円滑にするための工夫が図られています。
さらに、アクティブラーニングで陥りがちな、時間効率性や系統性の問題をどう克服するかというテーマにも積極的に取り組み、入試問題をブレイクダウンした素材を活用したり、朝学習で採り入れているICTを活用したアダプティブラーニングの試みも紹介。さすが、注目されている学校にはそれだけの理由があるということがはっきりと伝わってきました。
トークセッションの最初に提示された問いに対する田中先生の答えはこうです。
出来合いの地図を持って来て当てはめるだけではカリキュラムは機能しない。まずは「コンパス」で進むべき方向を探っていく。その指針を元に自分たちの手で「地図」を作っていくのだと。三田国際における「創造的破壊」の実践が明確に示されました。
「21世紀型教育を牽引する教師」
第3部は、『2020年の教師問題』の著者で、香里ヌヴェール学院の学院長である石川先生の登場です。
学院長として小学校から高校までの学校マネジメントを行う傍ら、21世紀型教育機構の理事としても日本全国を飛び回り、伝道師のように21世紀型教育を広めている石川先生は、開口一番、「21世紀に求められる大学像、こんな大学があったらよいな」という問いに答えてみてくださいと、隣に座っている人同士での対話を促します。アクティブラーニング型プレゼンテーションのアイスブレイクです。続いて香里ヌヴェールでの授業を紹介しながら、子どもたちの思考を誘発する「問い」を「思考コード」に当てはめてカテゴライズしていきました。B2の問いをB3に変換してみる、あるいはC2に変換してみるといった試みを通して、問いを構造的に捉え返すスキルを紹介します。
石川先生は、AI時代における先生の役割は「問いを立てる手法」にあるのではないかと問いかけます。思考力という側面から言語教育を考えると、CEFRでC1レベルと言われる英語もそれはすなわち「C1言語(=C1思考力)」を求められていることに他ならないと語ります。その際に、根源的なことを問いかける役割である「哲学」は、すべての教科に必要なエッセンスであり、とりわけSTEAM教育と哲学が結びつくことが、現代におけるリベラルアーツの姿なのではないかと問いかけます。そういった力は、例えば東大工学部の推薦入試の問題などに垣間見られるように、すでに現実の入試でも問われ始めている資質・能力なのです。
第4次産業革命やAI社会は、遠い未来の話ではなくすでに到来しつつある現実です。教師の役割は、来たるべき社会に対応できる力を子どもたちに授けることであり、学ぶ場である学校をそのように変革できるように主導する存在になることだという力強いエールを送りました。