八雲学園の文化祭(3) 「総合力」の集大成

リサーチ展示

中1欄組は、オリンピックについて調べて、それを展示した。中1、中2は全クラス、文化祭に向けて「テーマ」を選択して、調べて発表することになっている。リサーチしたことをクラスでまとめるピークは夏休みの間。2020年オリンピック開催都市決定の話題も頻繁に報じられるようになっていた時期である。そして9月8日、東京に決定。クラスは大いに盛り上がったという。

実はこのエピソードは、八雲学園の学びの特色を映し出している格好の話である。本物体験に基づいた血の通った息吹あふれる学びがモットー。だからリサーチの「テーマ」も生徒自身が「いまここで」関心を持てるものが選ばれるし、なんといっても本物体験には「サプライズ」という感動がつきものである。

今回のオリンピックの調べ学習は、その典型的なエピソードとなった。

中2百合組は、「テレビ局」についてリサーチ。実際に関係者に取材もしているということのようだ。ここでも「いま、ここで」、生徒が興味と関心を持っている内容についてリサーチペーパーが作成されていた。それは2つの番組を比較して、なぜ視聴率が高いかを考察したもの。

結論は、「倍返し」や「じぇじぇ」という決め台詞があることだと説明してくれた。八雲学園は人気が高いけれど、決め台詞は何?と尋ねると、間髪入れず「ウェルカムの精神!」と回答された。改めてビジョンの浸透に頭が下がった。

部活の展示に見る「世界観」の生成

英会話部は、英語圏アメリカ、イギリス、オーストラリアなどの料理のレシピを調べ、それを丁寧に翻訳して展示していた。その翻訳過程で、文化の違いを深いところまで探れるのではないかということだ。

それに展示のテーマ“aboard”と“abroad”のちょっとした違いも英会話部ならでは。

なるほど、部員自身が、英語の八雲学園で有名であると、データに基づいて説明してくれるほどの部であると感じ入った。そこで「部員も多いんだろうね?」とたずねてみた。

すると、20人いない少数派ですと。えっ!と思うや、英語の教育はふだんから行き届いているから、あえて部活で英語を選ばないんです。かなり水準高いですから、それ以上学びたいと思う生徒は少なくなるし、逆にその水準に達したいからもっとがんばるという根性のある生徒のいずれかが入部してきますと。

自己認識力が明快で、「世界観」を形成するには、ふだんの教育のハードルをあがておくことがポイントであると気づいた。

華道部も実におもしろい。小原流。日本文化の中で華道や茶道は海外に伝えやすい「道」であるが、池坊とは違うどちらかというと縦の線ではなく、横の線に広がる小原流を選択している。海外と日本の違いだけではなく、日本文化の多様性の差異についても語れる「世界観」が広がっていた。

そんなことを思いながら茶道部のパフォーマンスをみにいった。一目瞭然、海外の人も茶道を体験しやすいスタイルの流派だった。

華道や茶道が「静」であるとしたら、バスケットや空手は「動」。「世界観」を生み出すには、「静」と「動」の両極が必要であることも体験で来た。バスケットの招待試合を文化祭に盛り込むところが、意味深い。

空手道部のパフォーマンスは初日のみで2日目はなかったので、見ることができずに残念であったが、学園生活や歴史の展示がされている「作品展」の部屋で写真を見つけた。迫力がそのまま飛び出てきそうだった。その作品展室でさらに驚いたことは、夏休みの自由研究の優秀作品が展示されていたことだ。

髪の毛の特徴が遺伝するかどうか、家系図をつくって調べていく研究や食べ物としてのアサリで実験した結果、浄化作用があることを確認し、他の二枚貝についても同様の結論に至ったいう研究などがずらりとならんでいた。身近な具体的なものから一般化する思考トレーニングが、これもまた中学生全員に課されているのである。

そして興味深かったのは、吹奏楽部のメンバーが、音を形に変換しようという実験研究。一見異質のものをリンクするトレーニングも積み上げれれている。身近なものから一般法則への直感、異質なもののリンクをイメージする直感。そこから論理的なリサーチが始まっている。感性教育ありきの論理であるから「楽しさ」は何倍にもなる。そしてここに「世界観」が膨らむ仕掛けがあるのではないか。

こんなにも生徒全員に向かって高い水準の教育を行っている八雲学園。一部の生徒だけに特別な教育を行うのではない。しかし、その高いハードルを乗り越えて、生徒1人ひとりが自分だけの「世界観」を生成する。

そして、その「世界観」に憧れて、後輩が次々とチャンレンジしていく。漫画部の憧れの先輩の作品を後輩部員は囲んで、みな静かに頷く。その光景にたしかに「世界観」は宿っていると実感した。

同窓力と父親力

それにしても、凄い数のOGが訪れていた。私立学校を支える1つの大きな柱は同窓力であるとよく言われるが、それを実感した。

それと学校の中でも女子校を支えるのは父親力。オヤジ力である。娘のためならいざ鎌倉。しかし、娘が卒業してもなおオヤジの会に所属して、文化祭のたびに力を発揮している父親もたくさんいるという。女子校であるが父親の同窓力もパワー炸裂。八雲学園の縁の下の力持ちに感服。

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