工学院の図書館 新しい学びの拠点 (3)

■貸出・返却のカウンターのディスプレイは、図書委員と図書隊員が重なるという仕掛けですか。

 

有山先生:それはご想像にお任せします(笑)が、この「図書館戦争」が映画化されるということもありますし、「日本図書館協会」の「図書館の自由に関する宣言」をベースに描かれている作品でもあるという理由もあります。

戦後憲法及び教育基本法の理念を守る意志を学べる情報源ですから。図書委員をはじめ、生徒たちが、考えること、表現すること、知るということが、どれほど大切なのか、生徒にとって親しみやすい図書から気づいてほしいという想いがあります。

たしかに古典や教養も重要です。しかし、本学院の図書館にはライトノベルも置いているのです。ライトノベルが文学かどうかという議論は別にして、SFファンタジーありミステリーあり恋愛ありで、実はYA世代にはしっくりくるものがあるのです。

他の学校の司書及び司書教諭が集まって学校図書館の理念や実情などについて勉強会を定期的に開いていますが、やはり今の中高生の好奇心や興味関心を惹きつける図書は何かという話題になると議論は白熱します。

YA世代というのは、児童でも大人でもない、中高生をヤングアダルトと位置付けています。中高生を大人が児童に対するのと同じように上から目線でみて、推薦図書を選定したり、逆に児童から大人に背伸する時期だと勝手に設定して、難しい図書を押し付けても、それで読書が好きになるかどうかということですよね。

学びにおいて発達の最近接領域という考え方がありますが、読書も同じです。この領域を見出して、本を紹介しようという想いは強いですね。何せ、読書とは本を読む行為ということに間違いはないのですが、そこで考えたり、表現したり、新たなことを知ったりという反応がおこるわけです。その反応を停止させるようなことはしたくありません。

「図書館の自由に関する宣言」を尊重するならば、当然そうなります。工学院のエントランスホールに「真理がわれらを自由にする」という言葉が刻まれているのに気づきましたか。生徒が、ライトノベルやSFファンタジーなどを通して、この精神に気づけば、まずは図書館の役割の一つは果たせたことになります。

 

■自由とは何かという問題はとても難しいですが、それがないと挑戦とか創造という精神が立ち上がらないことは確かだと思います。

有山先生:哲学的な議論をするつもりはもちろんないのです。図書委員たちが、さまざまな活動を楽しんでいる姿にそれは反映していますから。ただ、そのとき彼らがどのような本に関心をもち、そこから何を汲み取っているかは見逃さないようにしています。

そして生徒が成長しているときに、どのような種類の図書を読んでいるのか観察することも私の役目だと思います。1人ひとりの成長を後押しする図書をいかにしてマッチングできるのか。それは図書委員の自発的な活動や言動、悩みや喜びに耳を澄ませば聞こえてきます。

それに彼らは、自らおススメ図書をPOPで表現したり読書感想文集としてのレビューをつくります。一冊一冊、協働作業を通して製本しています。

この協働作業が、とても大事ですね。読書という営みは、根底の部分では、個人的な興味や関心の自由の領域です。しかし、それが読書の幅を狭くし、結果的に自由の翼を広げられなくしてしまうこともあります。時には自分の苦手なジャンルや作家に挑戦することも大事です。

図書委員たちの読書をススメ合う営みは、君が言うなら読んでみようかなというオープンマインドを形成することにもなります。そこに思いがけない発見が生まれることがあるのです。やはり多くの人と協働することは何よりも可能性を広げることになります。工学院の図書館は可能性を広めるという意味で「新しい学びの拠点」だと認識しています。

 

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