かつて全寮制だった聖パウロ学園。その寄宿舎というリソースを活用して、新しいボーディングスクール(寮制学校)型のプログラムを開発した。もちろん通学制の学校であるが、時期に応じた合宿勉強を実施するのである。昨年から高2・3生のために6日間の夏期合宿を開始。
好評だったため、今年6月高1にも2泊3日のプログラムを実施してみた。これもたいへん好評で、2泊3日タイプの宿泊学習を数回体験して、高2になってから6日間の夏期合宿につなげる壮大なプロジェクトが立ち上がっている。
ボーディングスクールではないが、ボーディングスクールのエッセンスを凝縮させた、いわば、ポストボーディングスクールとして他に追随を許さない新しい学びの体験の場となっている。by 本間勇人:私立学校研究家
(女子生徒が宿泊する寄宿舎「パウロハウス」。イタリアから持ってきた山荘。パウロの森に小さなおしゃれな空間があった)
一般の通学制の学校は、宿泊合宿をするときは、別の場所を探さなくてはならない。しかし、聖パウロ学園の場合は、校舎5階には寮の施設があるし、さらに校舎の奥には、おとぎの国に出てきそうな美しい寄宿舎「パウロハウス」がある。5階は男子生徒が、「パウロハウス」は女子生徒が宿泊する。
今回4日目の午前の授業から取材をはじめ、次の日の午前中の授業が始まったところまで、取材した。一般に寮生活は、すでに多くの青春文学作品―たとえば、ヘルマン・ヘッセの作品やハリポタシリーズ―に取り上げられるほど、人間形成の究極の場所である。
しかし、順風満帆に成長する豊かな寮生活ということだと文学作品にはならない。やはり人間関係の葛藤を通じて、一方で自己沈潜する創造的な精神が展開するダイナミックな人間成長冒険物語の場である。
今回生徒のみなさんと合宿を体験して、まず感じたことは、ボーディングスクールの光と影のうち、光の側面を集中的に体験できるのが聖パウロ学園の夏期合宿の大きな特色だと感じ入った。
欧米ではボーディングスクールはノーブレス・オブリージュの精神を有した真のエリートを育てる伝統的な教育機関である。しかし、日本では、ともすれば大学受験勉強詰め込みの隔離された場として活用されることが多く、精神の豊かさを養うモチベーションがなかなか育たないのが現状である。
その状況がある意味閉鎖的な空間の中で詰め込み教育を課されるイメージを生み出し、日本の寮制学校が人気がない大きな理由になっている。しかし、もし短期間集中して豊かな精神を見つめながら、知力も養うチーム活動を行えたら、それは極めて有効である。年間通じてのモチベーションをマネジメントをするには、昼間の学校と夜の学校の2つ分のエネルギーがかかり、学費もはねあがる。
それゆえ、どこの学校も宿泊学習を行うのだが、夏休みとか冬休みなどを活用するしかなく、さあ明日から合宿勉強だという小回りはきかない。ところが聖パウロ学園は校舎の中に、キャンパスの中に寄宿舎があるのである。コスト面、モチベーションの側面、短期集中の持続、何より教師との凝縮された対話時間など、全寮制学校の経験があるからこそできる充実した合宿勉強プログラムがデザインされていた。