高3の日本史。大学受験勉強に突入した秋、どんな相互通行型授業をするのだろうか。大学受験勉強というと、どうしても演習中心の授業になるのが一般的ではないだろうか。そう思って授業を拝見したが、この時期に適った相互通行型授業というものがあった。
原田先生は、2時間続きの授業のおわりで、生徒にこうエールをおくった。
「初めのころは、グループワークはまだ慣れていなかったね。だから、このままこのスタイルを続けるかどうか、正直迷った。でも、今日のみんなの議論は、資料の読み取りの確認から始まり、理由を考えていく際、それぞれが知恵を出し合い、多様な関係をつなげて、レポートをまとめた。議論の様子を聞いていて、大学の授業のレベルだと驚かされたところもある。知識を活用する力がついてきたと自信をもとう」
今回の授業は、2時間のうち3分の1は、完全に座学。日本の美に注目した文化史を復習。
原田先生は、平安から近世、近代から現代へと美と文化の関係を論じていった。時代によって、日本の文化が中国や欧米の影響を受けるわけであるが、それによって日本のアイデンティティはどのようにできていったのかということを考えるのが大テーマだったと思う。
そして、それをいきなり考えさせるのではなく、トリガー問題として、「日本が世界に誇れるもの(こと)は何だと思いますか?各グループで3つにまとめ、その理由を考えて、発表してください」と問うた。3つを挙げるのは、それほど難しくない。問題は理由だなと思ったが、実はそうではなかった。
どれが正解ということはないのだから、3つをさっさと決めて、その理由を考えればよいと思ううのは浅薄というものだった。というのも、逆に3つ以でてきて、そこから3つ選択する時の、理由の正当性や説得性について議論が及んでいったのだった。だから、授業の3分の1は、白熱と言うより、生みの苦しみのような空気が支配した。
しかし、議論がされ尽くし、レポートを書きながら、舞い上がる1つの想いが広がるとき、空気は一変し、明朗活発な話し合いに進化していった。
姿勢も前のめりになり、思考が大回転しているのがよくわかった。
プレゼンも堂々たるものだった。たとえば、「食文化」が誇れるという理由は、長い歴史的な自然との関係とか、消費と生産の過程がオープンになっているなど安全を保障するシステムができているとか、水の豊かさの文化などについて多角的に論じた。また「長寿」を語るとき、「食文化」との関係も述べ、それぞれが関係していると指摘もしていた。
このように、どのチームも、ひとつのものやことについて、自然、歴史、経済、制度、文化、人の気持ちなど多様な事象をリンクさせて論を展開できるようになっていた。それに、仲間がプレゼンしている時に、引き込まれるように集中して耳を傾けている姿勢は、いかに内発的モチベーションが高いか物語っていた。
授業後、生徒に尋ねてみると、
「この授業は、AO入試や小論文のときに役に立つという実感があります。知識は使っているうちに実感がわきます。もちろん、記憶しなければならない知識が多いのが受験なんですが、考えて知識が身になるのは、大学でも求められますから、私は気に入っています」と。
三田国際学園の「相互通行型授業」は、学びの空間、プログラム、モチベーション、思考力などがダイナミックに統合されている。これによって、生徒は深く考え、議論し、本当の問題を見つけたとき、自分の解決思考を一気に駆け上っていく知の物語を体験できるのである。その物語こそ、自分のキャリアデザインを描く土台であろう。