Created on 10月 24, 2016
和洋九段女子中学校高等学校(以降「和洋九段女子」と表記)は、今年2016年の春から本物21世紀型教育を推進する学校としてある意味大胆な21世紀型教育改革を行っています。
この改革の1つの柱は、知識注入型の授業から高次思考≪higher order thinking≫を促進する授業に変わることです。和洋九段女子は「探究型アクティブラーニング」に挑戦しています。by 本間 勇人 私立学校研究家
<3つのScaffolding>
水野先生のPBL(探究)型アクティブラーニングでは、始まるや「30年後の社会はどうなっているのか」まずは1人ブレスト(個人ワーク)しようという問いが投げられます。いきなり壮大な問いに、見学している方は驚くのですが、生徒はすぐにフロー(没入)状態になります。
しかも、この問いはまだ伏線に過ぎず、順を追いながら「トリガークエスチョン」が投げられます。それは、「30年後の社会にはどんなルールが制定されるか?」という社会が変われば制度設計も変わるという創造的思考に高まっていきます。
つまり、IB(国際バカロレア)でいうところの高次思考≪higher order thinking≫を活用しながら、憲法12条における人権と公共の福祉の均衡点を探る授業だったのです。
それにしても、中3で、いきなり≪higher order thinking≫とは、やはり目を丸くしないわけにはいきません。しかし、見学していると、徐々にその秘密がわかってきました。
1) 考える足場づくり
それは、宿題のあり方に、まず工夫があったのです。2種類のプリントが提供されていました。1つは、丸山真男の「権利の上にねむる者」。もう1つは朝日新聞のAI(人工知能)についての記事。大事なことは、素材が違うにもかかわらず、問いは同じであるということです。①「テキストに出てくる難しい単語を調べなさい」②「テキストを要約しなさい」③「テキストに書かれている内容に対する意見を書きなさい」
これは、つまり、「知識」→「理解」→「応用」という≪higher order thinking≫の基礎になる思考力を宿題でトレーニングして、PBL型授業に臨む段取りになっているのです。この思考力こそ≪higher order thinking≫ができる「足場」なのです。
大事なことは、丸山真男の憲法12条にかかわる内容やAIの記事の内容のみならず、基礎的な思考のスキルをトレーニングする足場を造っているということです。つまり、従来の教育では、Whatが重要で、それをどれだけ記憶できるかが重要だったのですが、PBL型アクティブラーニングでは、思考のスキルとしてのHowも重視されるのですが、水野先生は、それを、「考える足場」として丁寧に組み立てているということでしょう。
大学入試でも、文章を読んで、要約して、自分の意見を書く論述問題が出題されています。2020年大学入試改革以降は、さらにこのタイプの問題は出題されるようになるでしょう。ですから、一般には、高校の国語の授業などで、このトレーニングはしっかり行われるはずです。それが、和洋九段女子では、中3の自宅学習でできてしまう段階であるとは、やはり驚愕です。
2) Growth Mindsetの足場づくり
宿題や1人ブレストでは、わからないことなどがあり不安になったり、限界を感じたりする場合もあるでしょう。そこで、グループブレストというワークが挿入されます。互いのものの見方を歓待するわけです。
そして、自分とは違うものの見方・感じ方があることに気づきます。大げさかもしれませんが、生徒にとっては、それは自分の見方が変わる瞬間です。宿題で自分の意見をまとめる作業が、実はここで大いに功を奏するのです。先入観の枠をいったんつくって、その枠を、ここで超えることになるからです。
枠を超えて発想の自由人になる挑戦こそ、Fixed Mindsetから解き放たれGrowth Mindsetに転換する体験です。挑戦する勇気と立ち臨める自信もまた≪higher order thinking≫の足場になります。
3) チームワークの足場づくり
このグループブレストは、やがて協働作業にシフトします。リサーチやディスカッション、プレゼンのためのストーリーの編集は、チームで協力し合わなければ成就しません。グループブレストというグループワークは、チームワークづくりに昇華していきます。挑戦、創造、そして貢献という活動のサイクルがPBL型アクティブラーニングの特色です。
授業の中で、知が豊かになり、リーダーシップも養われます。いわば、PBL型アクティブラーニングは、シリコンバレーに象徴される第4次産業革命時代が最重要であるとみなしているリベラルアーツ・ルネサンスなのではないでしょうか。