順天 教育の本質の実現 SGH活動5年目を迎えて

2018年2月16日、順天中学校・順天高等学校(以降「順天」と表記)は、「SGH活動報告会」を開催しました。SGH(スーパーグローバルハイスクール)として認定されてから、今年は、いよいよ5年目の教育活動を迎えます。

SGHの活動は、かなりハイレベルの「主体的・対話的で深い学び」が要求されていますが、順天は、そのハードルを、4年間でクリアし、さらに、「グローバル社会で主体的に活躍する人材育成」という高い志も実現。教育の本質も豊かに展開しています。

参加された方々が、その質の高さと豊かさに目を丸くしていましたが、同校の生徒にとっては、もはや日々の教育活動であり、当たり前の学びとして認識されています。つまり、本物の教育がそこに横たわっているのです。

今回、神崎史彦氏(株式会社カンザキメソッド代表:21世紀型教育機構リサーチフェロー)にその様子を取材記事として寄稿して頂きました。

順天は1834年(天保5年)に設立された順天堂塾が起源の伝統校であり、「順天求合(自然の摂理にしたがって真理を探究する)」という建学の精神のもと、英知をもって国際社会で活躍できる人間を育成することを教育目標として掲げて、教育活動を行っています。

当日は大学・高校・教育関係者が多数全国から訪れ、メディアの取材も入り、熱量の高い発表会となりました。

当日はコミュニケーション英語(2年生)、保健(1年生)の公開授業も同時に開催されました。

英語の授業では、和田玲先生とShieba Magno先生のファシリテーションのもと、高校生が堂々と、自然体で英語でのコミュニケーションを行う姿が垣間見えました。冗談を交えながら英語でプレゼンテーションを行う姿、先生方による不意の質問であっても素直に会話ができる様子、そして多数の見学者がいる中でも高校生が自然体で英語を活用している姿は、まさにGrowth Mindsetが行われている証だといえるでしょう。

対話と質問を繰り返すWarm Up、お祝いの席の食事を語り合うIntroductionaly Quizを経て、本時のテーマである「飢餓のある世界」の対話へと続きます。和田先生の問題提起により、会場の空気が引き締まります。高校生たちは世界の栄養不良にかかる問題を自分事として捉え、思考を重ねていきます。

英語をスキルとして捉えるのみならず、そうしたコミュニケーションツールを通して地球課題まで思考を広げる授業が展開されました。まさに21世紀型の学びです。

一方、保健の授業もテーマは食糧問題。地球上で生産される食糧と生存に必要な食糧との比較を尋ねるなど、小林光一先生から発せられる多数の質問に対し、高校生が格闘して自分なりの回答を導いていきます。

解答するなかで仮説を立て、Open Mindで回答する高校生。そして、その回答に対して、小林先生は同意し、ときにはクリティカルな質問を投げかけたりしながら授業が展開されます。そして、小林先生は食料を生産するだけでなく、足りないところへ流すという視点の切り替えを示します。

現状への批判的思考から創造的な思考を生む視点、イノベーティブな視座の必要性を高校生にインストールしていきます。

最後に小林先生はそうした食糧問題を自分ごとにする大切さを説き、自らフードドライブ(家庭で余っている食べ物を学校や職場などに持ち寄りそれらをまとめて地域の福祉団体や施設、フードバンクなどに寄付する活動)の実践を行っていることを述べます。

授業での伝達だけで完結せず、自らが主体者として課題と向き合う教師がいることは、高校生にとって大きな学びとなることでしょう。

当日は、SGH課題研究のポスターセッションも行われました。順天高校では海外研修の中で課題研究のフィールドワークが行われており、その研究成果を発表していました。なお、高校生は「アジア短期型(台湾)」「オセアニア短期型(オーストラリア・シドニー)」「短期留学型(ニュージーランド南島・カンタベリー州・クライストチャーチ近郊)」「語学研修型(カナダ・ブリティッシュコロンビア州・ビクトリア)」「社会探究型(タイ・北部およびバンコク)」「科学研修型(オーストラリア・ブリスベン)」の6コースを選択しています。

個人探究や調べ学習の成果は非常に個性的です。フィリピンの雇用環境改善や言語教育、留学における自己変容、台湾の映画事情、タイの海外支援の課題、デング熱対策、伝統舞踊といった研修地に根差した探究活動を行っていました。

一方で、科学研修型のコース選択者は、ピクロス、モーツァルトの音楽と身体、台風の進路など、個性豊かな発表が行われていました。海外研修を通して探究課題を自分事とし、調べ学習やリサーチの積み重ねによって、根本問題にたどり着こうとしている姿が、各々の発表から伝わりました。

また、こうした探究活動を昇華するためには外部者の支援も欠かせませんが、順天では「Global Week(国内外から話題提供者を呼び、正解のない問題を立場に関係なく語り合う1週間)」を設けて、探究内容について相談できる環境を整えています。

順天の高校生が根本問題を捉えて探究活動が行えるのは、学校の外の人を校内に引き入れることができるからにほかなりません。「英知をもって国際社会で活躍する人間を育成する」という教育目標を達成しようという学校としての決意が窺えます。

その後、場所を大会場へ移し、講演の部が始まりました。長塚篤夫校長先生は、日本の高大接続改革に対する思いを述べました。大学入試改革の本質は、高校生を多面的な視点でみつめるところにあり、それを高校側はどう出願書類などに反映させるのか、大学が高校教育の多面的評価をどう使うのかを考えるべきだといいます。

そして、そうしたコンピテンシーベースの学びに変わるのに、メディアはそうした視点で語らないと指摘します。

21世紀型教育機構加盟校は、知識や技術の習得に加え、それらを論理的な思考をもとに活用し、現状をクリティカルに見て創造的な解を導こうとする力を養っています。

そうした知的活動を行って成長した高校生を送り出し、地球社会を活性化しようを試みる順天のあり方を意思表示するとともに、そういう高校生が大学をはじめとした社会に認められる世界をつくり上げることが、大人の使命ではないかという問いかけが、長塚校長先生の言葉に込められています。

次に、高校生の発表がありました。中退者と雇用環境についてのプレゼンテーションを英語で行っていました。さまざまな調査をもとに、いかに社会課題を向き合い、解決策を見出すのか。高校生の立場で考えうる可能性を示唆した発表でした。

社会課題を捉えるさい、高校生は他人事になりがちですが、彼女の発表はそうではありません。主体者としてどう中退者と向き合い、社会との接続をすべきなのか、批判・創造的思考を繰り広げながら考え抜いた姿が印象的でした。

彼女はまさに順天高校が目指す「英知をもって国際社会で活躍する人間」の代表です。これからも創造的な学力、国際的な対話力、人間関係を構築する力を兼ね備えた人財を輩出していくことを期待しています。

関西学院大学の尾木義久先生からは、文部科学省の大学入学者選抜改革推進委託事業(主体性等分野)の実証事業と新しい出願システムであるJAPAN e-Portfolioの説明がありました。

尾木先生は事業の内容を解説するとともに、新しい学習指導要領が目指す姿にも言及しています。次世代はどのように社会や世界とかかわり、よりよい人生を送るかを考えることが大切であり、大学入試も一人一人を見つめるものに変化していくとのこと。

世界を自分で変えられると思う高校生が増えるには、入試が変わり、大学が変わり、高校が変わることが必要だというメッセージを伝えました。知識や技能を測る試験が中心だった日本の大学入試制度が変わろうとしているのは、大きく変動する世界を生き抜くための力が求められているからです。

知識や技術の再生産だけでは社会問題を解決することが難しいものです。国を挙げて21世紀型スキルやコンピテンシーを育もうとする様子が垣間見えた講演でした。

最後に、SGH委員長の中原晴彦先生から活動報告が行われました。フィールドワークを通した世界各国の高校生たちとの協働を実践し、共同研究しやすい環境を整えているとのこと。

また「Global week」を通し、高校生が研究者としての意識を高め、大人と対等に対話する機会を設け、探究部が学校の外に出て発表するなどといった、学校外へ目を向けた活動を行っているそうです。中原先生の言葉からは、SGHの目的である資質・能力の育成を行ってきたことへの手ごたえを感じているように感じました。

今大きな転換点にある学校。そこで知識を得ると志が生まれ、世界が開ける。意欲や考え方、志といった必要な力、ICT活用のための力は、学校では足りない。だから、壁を壊し、外部の方々からの英知を借り、それによって高校生、そして学校はおのずと力はついてくる。学校の未来はそこにある。

こうした言葉は中原先生が格闘しながらSGHの活動と向き合ったからこそ紡げるものだと痛み入りました。順天のようなハイクオリティな21世紀型教育を推進する学校が果たすべき使命は、まさに高校生たちの志とそれに向き合う力の育成に他ならないのです。

Twitter icon
Facebook icon