PBL

静岡聖光学院 未来を創るNew Power School(1)

昨年、静岡聖光学院は、21世紀型教育機構に加盟したばかりですが、2年目にはいった今年、一気呵成に、あらゆる側面、領域で21世紀型教育を開発実施しています。毎年実施しているアクレディテーションスコア(本機構で実施している21世紀型教育の品質保証調査)は、前年対比113.3%で、大きく進化しています。

その進化ぶりは、New Power School出現というウネリとなって、静岡を日本を世界を席巻しそうな勢いです。今年の静岡聖光学院の活動を簡単に振り返りながら、New Power Schoolの出現の潮流とは何か考えていきましょう。「簡単に」といわざるを得ないのは、世界を席巻するぐらいですから、あまりにも情報量が膨大だからです。by 本間勇人 私立学校研究家

 

<静岡聖光学院のNew Power誕生を象徴しているシーンです。写真は、同校サイトから。キャプションにはこうあります。「この写真は聖光祭準備時に、生徒達があまりの綺麗さに思わず撮った写真を譲ってもらいました(加工は一切してないとのこと)。景色が美しく感じるというのは、心が美しさ・癒しを求めているということ。彼らの成長に欠かせないものが学校教育にもこの景色にも静岡には確かにあると感じております。」>

今年、50周年記念事業の一環という歴史的存在理由も重なって、キャンパスの全面リフォームがなされました。しかも、21世紀型教育機構に加盟したということもあり、その空間づくりも急遽21世紀型の空間にベクトルが調整されました。設計も、米国のアーティスティックでイノベーティブなデザイナーに依頼しました。

世界中で新しい学校建築が行われています。20世紀型教育における建築は、従来ハコモノを建てればよいという感じででした。そのデザイナーが言うには、20世紀は学校や病院の建築様式は刑務所と同じ発想だったということです。

そんな反省部屋のような規則だらけの抑圧空間では、21世紀型教育の柱である「創造的思考力」が育つわけがありません。そこで、今まで見たこともない学校の空間のリフォームが行われたのです。そのコンセプトが表出しているシンボル的な空間は図書館です。カフェさながらの空間だと思ったところ、実際にここではコーヒーを飲みながら学べるのです。コーヒーは、その道で、世界デビューしているOBがコーディネートしています。読書への旅に一瞬して没入できるので、生徒にとっても人気スペースですが、議論の場としても教師も大いに活用しています。

このような発想が生まれた1つの理由に、PBL(Project based Learning)型授業を開発するために、まず思考力を育成するコンパスである「思考コード」を1年目にして作っことがあります。教師が一丸になって侃々諤々対話をして創り上げていく過程は、ピーターセンゲのいう「学習する組織」がすでにあったことの証ですが、そもそも初代校長ピエール・ロバート校長のころから、勉強ではなく学問を学ぶのですという強烈な理念を実行してきたということがあるでしょう。

その意志を学習空間にしたのが、このピエール・ロバート・ホールです。自然科学研究の発表など、あのTEDよろしくスーパープレゼンテーションを行おうというモチベーションが内燃する空間です。

やはり、1年目にまずは、ふだんの授業をどうしていくか、そして、そこで展開していくカリキュラムやシラバスにおいて、生徒がどこまで考えて感受性を豊かにしていけるのか未知の問題にぶつかったときに道を自ら切り拓いていくための知のコンパスとして「思考コード」を創り上げたのが、あらゆる領域で21世紀型教育が開花するエネルギーになったのでしょう。

もちろん、なんといっても不退転の覚悟で、今までの教育をすべて捨ててしまうほどの決断をして新しい教育へ一丸となって立ち臨んだ先生方の勇気と知恵と努力が最強のエンジンだったことは言うまでもありません。

この先生方の未来を生き抜くNew Powerを生み出す授業デザイン創発ワークショップの様子を、座長の副教頭田代正樹先生がめちゃくちゃ完成度の高い動画を手作りしたものがあります。臨場感が彷彿とする動画です。こちらをご覧ください。→「静岡聖光学院の挑戦 未来を生き抜くチカラを育むために」

 

八雲学園 ラウンドスクエアなグローバル教育(了)

§3 異文化で友だちを作ることの意味

国際会議も終盤に近づくにつれて、八雲生5人の目は全体を俯瞰できるようになってきたようだ。同じバラザのメンバーで、母国語が英語なのに、ほとんど主張しないメンバーもいるのに気づいた。自分たちは英語をこんなに学ばなくてはならない。もし英語が母国語だったら、言いたいことはいっぱいあるのにと思ったときもあると。
 
また、最初の2日間は、日本語ではなく英語が母国語だったらとどんなによかっただろうと何度も思ったけれど、内向的な生徒は、何も日本人に限らないということも見えてきた。"Bring Your Difference"というテーマは、文化としてのアイデンティティ以外にも、やはり個性としてのアイデンティティも外国の地でも感じられるようになってもきた。
 
 
個性という領域で、話し合える場面もだんだんでてきた。もちろん、だからといって、すぐに友達になれたわけではない。最初は話せても、長続きしない生徒もいた。個性の領域では、高校生っポイ話が多くなり、スラングも飛び交うから、はいれない時もあった。
 
一方で、アイルランドからやってきた生徒は、自分たちと同じくニューヨークに寄ってきた。共通の話題は親しくなる大きなきっかけだという。特に相手が日本の文化に興味がある場合は、それをきっかけに、互いの文化の話題に進んでいったという。渋谷は日本のタイムススクウェアなんだってと尋ねられた時には、そうではないけれどと驚いたが、そのおかげで渋谷とはどういうところなのか詳しく話すことができたのだという。
 
今回のホスト校Ashbury Collegeに留学しに来ていた南アフリカの生徒は、気温の較差に驚き、寒くてどうしようもないと話しかけてきた。日本の気候などの話もできたという。
 
しかし、何といっても、今回親しくなれたのはインド出身の生徒だったようだ。とにかく日本のアニメやタレントのことについてよく知っていた。当然話は盛り上がり、親しくなるのに時間はかからなかった。今でも、メールでやりとりが続いているという。
 
インドの生徒は、たんに親しくなっただけではなかった。最終日前日、異文化交流会があった。各学校が自分の国のアイデンティティを表現する歌や踊りを披露するパフォーマンスが繰り広げられた。
 
八雲学園は31校中26番目に登場し、手作りの衣装を着て素晴らしい歌と踊りを演じた。演技を終えるや否や、親しくなったインドの生徒が駆け寄ってきて、アメージング!と絶賛したという。
 
そんなこともあって、インドの生徒のことについての関心や興味が高まった。そして、インドから実は複数の学校が来ていることに気づいた。驚いたことに、同じインドでも全く違う文化アイデンティティを表現するパフォーマンスが披露されたのである。同じインドでも言語が違うと文化も違う。東南アジアの国々は多言語だからこそ、母国語を愛し、公用語を活用する。実際にはそうできない状況が歴史上あった。
 
 
それはともかく、日本は、今では、母国語は1つだから1つの国の文化アイデンティティは1つだと思い込んできた。それゆえ、言語と文化のつながりを当たり前だと思ってきたのだという。
 
それで、母国語が英語であればよいと願った自分たちは間違っていたことに気づいたというのだ。英語を第二外国語や公用語として話すのは一方で大事だが、母国語を大事にしなければ、文化も軽んじられる。
 
母国語がみな英語だったら、文化も一つになる可能性がある。それはあまりにつまらないし危険だ。
 
何より、友達がいかに大事なのか、それを意識することができなくなる。おそらく、今回のテーマ"Bring Your Difference"は、それぞれの特異な違いを持ち寄って、それぞれの文化アイデンティティを互いに理解しようということではなかった。
 
なぜなら、八雲学園の5人の高2生は、互いに関心があるから、友達になる入り口があるが、それだけでは、その絆は深まらない。自然体験や奉仕活動など共通体験の中でいろいろなことがあるから、それを乗り越えながら友達になっていく。
 
最初関心がなくても、関心をこちらが持とうという意識も大切だ。そこから友達になり、やはり共通体験を通して絆を深め、今もメールでやり取りしているぐらいになる。
 
1つの文化の中にだけいると、そこにいれば興味が合う者どうし、あまり努力しなくてもすぐに友達になれるし、分かれても別の友達がすぐにできてしまう。
 
しかし、異文化で、友達になろうとする互いのアプローチやコミュニケーションを積み重ね、共通体験などしたときに、新しい共通アイデンティティがたしかに互いに生まれているのだ。
 
クルト・ハーンは、あなたのアイデンティティが社会を動かすというのは危険なのだ。そのアイデンティティに同調するのが危険なことは、ハーンにとって、ファシズムの中から自分自身が亡命しなければならなかった体験から、身に染みて了解していることなのであろう。
 
そのつど、互いに努力して創り上げる新しいアイデンティティ。その友達の絆を創るアクションが、あるとき世界自身が自らナチュラルに動かざるを得ないウネリと共鳴共振共感する旋律を生み出すのかもしれない。
 
軍事力でも、経済力でも、政治力でも世界の痛みを解決することはできなかったし、できないでいる。クルト・ハーンの理念としての夢は、教育がつなぐ友達どうしの内面にできる新しいアイデンティティの連鎖にあるのかもしれない。結果的に世界が変わる。
 
"Bring Your Difference"。さて、その先あなたたがたはどうするのか?八雲生は確かに何かを感じ、考え、見つけてきたのではないだろうか。

八雲学園 ラウンドスクエアなグローバル教育(2)

§2 多様性の意味 バラザミーティング以外のアクティビティで見えた

国際会議は、バラザミーティングが中心で進行していくのかと思ったが、アクティビティも多くて驚いたという。Christie Lakeというキャンプ場に行き、火おこし体験、カヌー、鳥小屋つくり、キャンプファイヤー等の野外体験をした。楽しい部分もあったが、本格的なスリリングな自然の中での体験は、冒険と言った方がよいものだったようだ。
 
ラウンドスクエアスクールは、IDEALSという6つのテーマを理念として共有している。それは、 International Understanding, Democracy, Environmental Stewardship, Adventure, Leadership and Serviceである。
 
簡単に分けることはできないが、バラザミーティングが、International Understanding, Democracyの体現であり、山や海や湖畔での自然体験や奉仕活動などのアクティビティは、Environmental Stewardship, Adventure, Leadership and Serviceの精神が内生的に成長する機会だと言えるかもしれない。
 
 
とにかく、ラウンドスクエアスクールは、現実の問題に真摯に取り組むことを重視している。それは、実践的で冒険的な極限の体験こそが、個人の変容だけではなく、社会や世界が肯定的に変化をすることを促す真のリーダーシップを生み出せるというラウンドスクエア創設者クルト・ハーンの信念であり、それが今も脈々と継承されているのである。
 
自分が肯定感を持てるようになり、それで社会に貢献し、社会を動かすというイメージとは少し違うリーダーシップ観がここにはある。社会や世界自体がポジティブに変わるようにリーダーとして貢献するということ。そんなタフなリーダーシップのスキルや能力(とラウンドスクウェアは明快に表明している)を養う機会をこれほど頻繁に設けている学校は、日本にはあるだろうか。
 
今回国際会議に参加した5人の八雲生のトークを聞いていて、ネガティブな気持ちや思いをどうポジティブに変えるのか、自分が思ってもいない状況でも、それを乗り切るタフな精神力が重要であることをいろいろな場面で語っていたが、彼女たちが使っている「ことば」は、おそらくバラザミーティングやアクティビティで、ラウンドスクエアスクールのメンバーも頻繁に使っていたのだろう。
 
 
そのことについて尋ねたら、本や授業で学んだわけではないから、そうかもしれないけれど、自分たちにとって当たり前のことばになっているから、国際会議でそのことは意識しなかったという。
 
いすれにしても、バラザミーティングも必死に取り組んだが、このアクティビティやバラザチームから自由になって活動するときが、実は、なかなか辛かったのだという。
 
今回の国際会議のテーマは"Bring Your Difference"で、このテーマについて多くのキーノートスピカ―のプレゼンを聞いては、バラザミーティングをするわけだが、それはかなり抽象的な議論の展開で、たしかに難しい。しかし、なんとか自分の主張は論理的につくることはできた。
 
しかし、アクティビティの場面やバラザチームから自由になって新しいメンバーと多くのコミュニケーションをする場面では、完全に予想外の話で盛り上がり、ついていけなくて愕然となったときが多かった。
 
それでも、タフに取り残されないように、自分から進んで話に行くチャレンジはした。ところが、なかなか厳しかったのだと。なぜかというと、実は1000人の生徒たちは、八雲生と同年代の生徒である。だいたい、四六時中世界問題を語り合っているということはあるはずもなく、1週間毎日コミュニケーションしているのだから、この年代なりの趣味やサブカルチャーの話も大いにする。
 
八雲生は、彼らが話しているキャラクターやスターや、人気イベントやテレビ番組について知らないのは当然だ。いちいちそれは何?と聞くわけにもいかない。自然なコミュニケーションの文脈に、リサーチみたいな質問はさすがに場を乱す。社交性というより社会性を疑われると感じたという。
 
しかも、当然ではあるが、彼らは日々の教育活動は、すべて大学進学準備教育でもある。自分たちがどんな大学を目指し、そのためにどんな準備をしているかという話には、大学受験のシステムが日本と違い過ぎて、何を言っているのかわからないという。
 
国際バカロレアのスコアの話やSATのスコアの話も、センター試験と同じようなものかなと思って聞いていると、全く違う話の内容にやはり戸惑うばかりだったという。
 
 
カナダに来る前に立ち寄ったイエール大学やコロンビア大学の話題も、大学というよりアイビーリーグ全体の話の文脈ででてくるから、そもそもアイビーリーグって何なのかわからなかった。
 
異文化理解は大事であるが、文化は生活や政治や教育システム、経済、歴史など多様どころか多岐にわたる。海外の文化の膨大な知識ネットワークの海の前にただ佇むだけの自分たちに焦りを感じたという。
 
しかしながら、八雲生は、そこでハッと気づいたのである。これが"Bring Your Difference"だったのだと。日本にいたら、アイデンティティは、自分の個性に注目することに終始してしまう。しかし、その背景に、文化、歴史、政治、経済、教育、サブカルチャー、衣食住という生活などがある。それを日本の文化とひとくくりにすれば、日本人というアイデンティティと自分の個性というアイデンティティの両側面があることになる。そう気づいたという。
 
そして、戸惑っていたのは、海外の生徒の話だけではなく、自分たちが日本のアイデンティティを表面的にしか語れないということに原因があったのだと。日本文化の深いところをきちんと主張できないから、知っている知らないだけで、興味を持ってもらえない。
 
興味や関心を互いに持つことから対話は始まるのだということに。日本にいたら、知っている知らないだけの話でも、その背景は当たり前のようになっているから対話ができるが、海外に出ると、普段から深層まで意識していないと、共感を得られないのだと。
 
そして、1週間のプログラムも終盤に近付くにつれて、自分たちが日本人だけでかたまっていてはいけないとということにこだわりすぎていたことに気づいていく。たしかに、欧米の生徒が話し合っていると、同じ国の生徒同士だけでかたまっているようには見えないが、欧米の生徒の文化アイデンティティは、日本よりもかなり共通しているのではないかと。
 
となると、彼ら彼女たちも同じような悩みを抱えているかもしれないのだ。ポジティブでタフな精神がついに本領発揮する時がきた。
 

八雲学園 ラウンドスクエアなグローバル教育(1)

今年10月、高校2年の八雲生5人は、ラウンドスクエアの国際会議に参加した。先輩は3年前から、国際会議に参加。今年で三代目になる。ドイツ、南アフリカと行われ、今年は、カナダのオタワにあるAshbury Collegeで開催された。
 
国際会議となると全世界からラウンドスクエア約1000名の学生が集まる。今年八雲学園は候補校から正式の加盟校として認定され、ラウンドスクエア代表のコンスタンティーン元ギリシア国王も出席された開会式で、グローバルメンバーとして紹介。ラウンドスクエア旗を手にした。
 
 
今年参加した高2はある意味、八雲学園の歴史的な特別な瞬間に立ち会ったといえるかもしれない。意図することもなく、コンスタンティーン元国王夫妻ともいっしょに写真に納まった。この写真はこの一枚だというから、時というのは、一期一会だ。
 
高2生は、カナダに入る前にニューヨークのマンハッタンに立ち寄った。毎年国際音楽交流を行っているイエール大学に行き、来年の国際交流の打ち合わせをするのが目的だった。もちろん、コロンビア大学も訪問したし、美術館をはじめその他ニューヨークを堪能しただろう。
 
 
八雲学園での分厚い英語教育や多様な留学の機会に挑戦してきた彼女たち。世界の本物エリートとの交流も経て、準備万端で、国際会議に挑んだ。しかし、待っていたのは、彼女たちが思い描いていたのとは全く違う真剣でハイレベルなグローバルな舞台だった。
 
ラウンドスクエアの国際会議は、今まで積み上げてきた英語の力を試す中高時代の総仕上げの機会ではなかったのだ。これからが本当の始まりだったと気づいたときには、すでに世界を引き受けた未来のエリートたちとの対話の渦に巻き込まれてしまっていた。
 
彼女たちが何を見て、何を感じて、何を考えて、国際会議を乗り切ってきたのか、話を聞くことができた。by 本間勇人 私立学校研究家
 

§1 本場バラザミーティングの凄まじさ

 
国際会議に参加した高2生は、自分たちが3代目ということもあり、先輩から毎年、苦労話や乗り越え方も伝授されてきたし、そのための準備として3カ月留学にも取り組んできた。だから、緊張感というより、ワクワクして臨めたという。
 
ところが、Ashbury Collegeに到着して、国際会議が開催されるまでの間、すでに他国の生徒たちが、自由に対話して、まるで十年も前からの知り合いであるかのような英語での話しぶりに、はやくも自分たちは取り残されると思ったそうだ。
 
もちろん、後から振り返ると、日本人じゃないからといって、みんながみんな社交性を発揮していたわけではないということを了解できるのだが、そのときはそんな余裕はなかったという。
 
1週間続く国際会議は、バラザ(Baraza)というスワヒリ語で"集会・会議"を意味する言葉をランドスクエアは使っているが、基本単位はそのバラザというチームで活動する。そのチームは、できるだけ異なる国の生徒メンバーで構成されているから、当然八雲生はみな分散される。
 
その中で、互いに親しくなるのは、意外と難しい。そのため、八雲学園では、国際会議に参加した先輩が、ラウンドスクエア委員会を自発的に立ち上げ、BMYA(Baraza Meeting in Yakumo Academy)を中心に、活動をしている。
 
当然、今回の高2生も、そのBMYAに参加し、十分に準備を積んできたと思った。しかし、それはあっさり打ち砕かれた。
 
自分たちが、今まで受けてきた八雲学園の英語教育やサンタバーバラ研修旅行、3か月留学は、そのときにはかなりの試練だと思って頑張ってきたが、実は自分たちにかなり合わせて学ぶ場を作ってきてくれていたのだとすぐに感じたという。いかに見守らて来たのか感動している間もなく、必死に耳を傾け、頭をフル回転し、なんとかアウトプットした。
 
英語が母国語だったり、公用語だったりしている生徒、インターナショナルスクールで英語を使うのが当たり前になっている生徒ばかりなのである。日本人以外(自分たち以外に日本人はいないのだ)の英語は、あまりに自然で、彼らは国際会議に参加しているのだから、英語は母国語なみだと思っているわけで、八雲生に合わせることなく、話したり議論を仕掛けてくる。
 
バラザでは、自分の主張を必ず語らねばならないから、議論の文脈の中で、自分の主張を組み立てて語るということが、こんなに厄介なことかと感じたことは今までになかったという。
 
打ちひしがれそうになったが、そこは八雲生の素晴らしいところで、とにかく自分を主張したという。おそらくついていこうとしたら、壁にもろにぶつかったかもしれないが、彼女たちは自分らしさという軸を取り戻し、思い切り立ち上げて、対話に議論に応じたのだ。
 
それでも、中3の時にサンタバーバラ研修旅行に行ったときに、自分の言いたいことがきちんと話せず悔しい思いをしたことが蘇ってきたという。ここまでやってきたのに、まだ悔しい思いをするのかと。
 
しかし、一方で、ここまで続けてきたから、こんな凄い場所で新たに悔しい思いをしながら、何とか乗り切ようと挑戦できているのだという想いも立ち上がてきたと彼女たちは語る。
 
明治時代に単身米国に留学した津田梅子やオーストリアの伯爵に嫁いだ青山光子がそうだったのと同じような魂を震わせてきたに違いない。
 

Wayo Kudan Girls’ Innovative Breakthrough - STEAM-style PBL

Wayo Kudan Girls Junior and Senior High School (Wayo Kudan Girls’ hereafter) is now into their second year of implementing the 21st CEO method. They plan to make this innovation happen as soon as possible. According to Principal Nakagome (中込校長), the discovery of this innovation is due to the positive outcome of the PBL (problem based learning) challenge. Including the preparatory phase, it has been three years so far. 
 
The main feature of these 21st CEO schools is that all classes are implementing the PBL type of lessons where every student in Junior year 1 to Senior year 1 will have their own tablet to use. By 2020, all school years will have this kind of learning environment. The teachers have worked together as a group in this environment. As a result of this joint effort, the innovation has led to the idea that by only changing the trigger question in PBL, the power of rapid learning can be created.
 
However, there is no doubt that the update of this trigger question is a new obstacle but the teachers are prepared to overcome this challenge.
 
By Hayato Honma, Private School Expert Researcher

According to Headteacher Arai (新井教頭), “The teachers will manage this by designing a PBL style lesson that encourages each individual’s creativity and originality. Also, the students can experience this style of learning because the meta rubric has been shared and the standard flowchart for the PBL style lesson shows the different levels.”

When we think about how there isn’t one correct answer for this concept we call the trigger question, there won’t be a single student that attempts to study by simply memorizing because PBL will be used in all subjects. It is thought that they are are able to personally experience this fun style of learning because they are full of curiosity. 

Also, presentations took place during the lessons. Some of the students were a little embarrassed to present during the first few PBL lessons but their attitude improved once they realised it is for their benefit and that it is just part of the lesson.

This is true. It really is thanks to the teachers for attempting the PBL lessons. Now during these lessons, students can see how they will progress every day. Indeed, the approach to the presentation, the inflection of the voice, the richness of expressions, and the ability to edit on the tablet will improve as students progress through the school years.
 
Principal Nakagome explained in detail that as the curiosity to investigate increases, there will be a desire to create output. We would like them to understand that trial and error is necessary to be able to show how it is achieved rather than just offering an explanation. 

The thrill of the PBL lessons is that curiosity and excitement increases as students speak to each other with an open mind. This system has created a learning environment with a growth mindset that encourages students to question why something is the way it is. The teachers are embracing the belief that the students’ fundamental academic skills will develop considerably if this type of mindset becomes the foundation for lessons.

Curriculum management within the school is evolving to the point that a new theory will be created. Not only is this belief shared with empathy and confidence, they are working on putting the system into words using a visual diagram, just like the diagram above. As it is going to be presented this way, the standard format of PBL lesson content has been internalised by the teachers so that students can use and understand the concept of PBL effectively. 

The trigger questions won’t be thrown upon the students suddenly without warning during the PBL lessons at Wayo Kudan Girls’ School. Information about the environment and history surrounding the trigger question is offered by using the flipped classroom strategy and various lecture activities. The flipped classroom strategy is a type of blended learning that delivers educational content, usually online and outside of the classroom. Therefore, there will be plenty of opportunities to learn the fundamental academic skills to produce information, organise it, and bring it to a conclusion.

On top of this, the students can think individually, work in pairs, and discuss between themselves.
 
Within this, the use of existing information and knowledge can further improve their learning. Establishing knowledge is definitely achieved throughout this entire process. However, neither the students or teachers at Wayo Kudan Girls’ are satisfied yet. This is because they have already personally experienced the chemistry of existing knowledge and the creation of new knowledge many times before. 
 
The intellectual excitement at the time was emotionally moving. It is not an exaggeration to say that the students at Wayo Kudan Girls’ were filled with emotion during the development of these lessons.

From looking at the Wayo Kudan Girls’ situation, Principal Nakagome came to a realisation. PBL lessons are very effective at showing the strengths of humanities, such as global education and social studies, so there may be a way to make science lessons more powerful.
 
As it is a girls school, it may be assumed that global education and humanities lessons are a priority. Just as is stated in the Sustainable Development Goals (SDGs) that are to be achieved by 2030, to overcome gender barriers, the plan is to have even more powerful PBL lessons, particularly in the science / maths field. 

Of course, experiments and logical thinking have been developed continuously until now, so this isn’t a problem. The fact is that it is impossible to think of authentic maths and science PBL lessons that will be useful for the AI society immediately. 
 
As Mr. Nakagome published the textbook for chemistry, he had the opportunity to attend a meeting regarding the next course of government curriculum guidelines for 2030 that need to be taken into consideration. At this meeting, the new PBL lessons for science subjects was suggested. So, there is finally confidence that it will be possible to upgrade the PBL lessons for Senior High School students at Wayo Kudan Girls to a new higher standard.
 
Already knowing the results of the science experiments completed until now has been a vicarious experience. This is a pre-established agreement and PBL is second nature so it can’t be said that the trigger question has one correct answer. So, for example, during the experiment to identify metal ions, the students started by individually choosing which samples of reagent to provide first. This is different to what was determined in the textbook. 

If you compare it to previous textbooks, the algorithms from the systematic analysis of all metal ions had already been decided so it was fine to just memorise the algorithms without experimenting. However, from a choice of more than 100 options,  one is chosen to be used in the new experiment to identify metal ions by creating precipitation. This was completely different to the original hypothesis of the precipitation, so the method of trial and error needs to be repeated to correctly identify the metal ions. 

Neither the teachers or students know what will happen to the results because it changes depending on the sensitivity of the conditions. It was clear that from watching the practical attempt, both teachers and students immersed themselves in the thrilling thinking process. 
 
According to Headmaster Nakagome, this was a huge discovery. It was made possible because of the PBL that has been developed over the past two years. Even though the trigger question has been thrown at PBL simultaneously until now, teachers have been able to make an assumption from the given answers. It may not be a pre-established agreement but,it is understood students are able to solve problems to a certain extent. 
 
However, this time there was a hurdle. The end result was outside of the range of the hypothesis for both the teachers and the students. Rather than calling this a trigger question and keeping it separate to the black box, it may be appropriate to call it an enigma question.  
 
Teachers and students are able to learn this flat relationship perfectly.This is the real thrill of science. We do not need authority in science. Authority will only become a wall in objective scientific thinking. 
 
Principal Nakagome says, "We think this is the real thrill of STEAM education." 

(Raspberry Pi 3 Model B+)

However, this is not the only new innovative breakthrough. In the year 2040, the current elementary year 6 students will be 34 years old. At this time, we think that many will be senior leaders of various organisations and they will have to confront the AI society. Regardless of gender, high-technology is necessary. Countries, such as, England, Canada, Hong Kong, Singapore, Shanghai, India, and Korea, have passed the logical thinking learning stage of computer science. So, they are already working through the stage of learning practical techniques, which are beyond programming and app creation.
 
As Japan is lagging pretty far behind, Wayo Kudan Girls’ will proceed by implementing their own agenda. PBL lessons currently use computers but they want to become the creator during this innovative breakthrough. Principal Nakagome says this is the essence of the STEAM education. 
 
Depending on creativity and originality, it is possible to make anything, such as, laptops, smartphones, audio, games, apps. This is achieved by using a microcomputer known as Raspberry Pi, which learns the computer system, and connects various devices. IoT is also a possibility. Generally, computers themselves will make use of existing ones but Wayo Kudan Girls’ will personally experience the process of emerging innovation. They will begin with analysing the system and then integrating the various devices. 
 
Raspberry Pi itself can be bought for about 5000 yen so with the tablets, students can learn by using one tablet per person. A common practice has previously been to coordinate STEAM education with university lecturers and company staff. However, Wayo Kudan Girls’ can use the trigger question for computer science and programming themselves. 
 
It is a big achievement to challenge the development of PBL lessons throughout the school. As a girls’ school, there are very few places that are extremely focused on global education, PBL lessons and STEAM education. This is the beginning of a new type of Girls’ School. 

聖学院 最高の授業(了)

聖学院のPBL型授業の特徴は多様な要素、多角的な切り口で語ることができますが、なんといいても「マインドセット」と「信頼」がキーコンセプトなのかもしれません。マインドセットとは、毎時間の授業で行うのです。よく自己肯定感が高いとか低いとか話題になりますが、それはほとんど内面の状況の話で、成績が高いから自己肯定感が高いとか、内向的だから自己肯定感が低いというコトはありません。

ほとんどが、人と人との関係が開かれるか閉じられるかで、自己肯定感の高い低いが決まっていると思います。したがって、自己肯定感の高い低いは、一期一会ではないですが、人と出会う瞬間瞬間にあがるかさがるか激しいのです。特に思春期の時にはそうでしょう。一日の学園生活のなかで、毎時間の授業で出会う教師や仲間とのやりとりで、一喜一憂するものです。

ですから、聖学院では、毎時間の授業で、教師は互いに心を開示できるマインドセットをしていきます。

数学の佐藤先生の授業はPIL型授業です。生徒と生徒の対話の機会を設け、そこで生徒がどこで躓くのか、どんな新たな発想で解決するのかを見守りながら、それを講義の中でシェアしていきます。生徒たちは、このPIという対話を大切にしています。「数学のおもしろさは、多様な視点の発見。対話すると、自分とは違う発想を知ることができて、毎時間驚くのがいいですよ」と語ってくれます。

ここに、マインドセットと信頼関係が在るコトが了解できます。信頼関係は、教師と生徒の信頼と生徒と生徒の信頼がクロスしています。

美術の伊藤先生は、教師であると同時にアーティストです。生徒が何か世界に向き合って、それが何か表現していく時間と空間を創ります。この時空は、物理的なリニアーな時間ではなく、豊かな円環的で内的な世界です。生徒1人ひとりの内面に、物理的な時間を超えた世界が広がっていきます。この時空を共有できるマインドセットと信頼関係は、日常生活では得難いものです。

内田先生は、思考力入試では、レゴを活用して思考過程を創造物に仕立てていくプログラムを紡ぎ出す中心人物です。技術の時間で、レゴマインドストームを活用してプログラミングをすることもあります。他校の先生方とのワークショップでスーパーバイザーとして活躍をするときもあります。

しかし、見学しに行ったときは、木の椅子を制作している最中でした。レゴを触りながら創造的思考を養うプログラム同様、マテリアルがレゴではなく木になっただけですが、自然そのものと触れ合っているそのシーンは、また格別です。

伊藤先生の美術の時間もそうでしたが、内田先生の授業も、木という素材から、自分の世界と自然の質感をスクランブルさせて、ものを創っていく過程は、自然と社会と精神の好循環を生み出す泉として、身体に湧き出るようになるのかもしれません。美術や技術におけるこの自然という素材を通して自分を開示していく体験は、他の授業では直接経験することはできないでしょう。

それにしても、今回のシリーズで掲載した写真を通して、どの先生方の眼差しにも共通した質感があるのが了解できるのではないでしょうか。この眼差しこそマインドセットと信頼を生む泉なのです。

この泉が、デカルトではないですが、目に見えないエーテルとなって生徒の心を満たすのではないでしょうか。先生方の眼差しとシンクロするように生徒の眼差しも輝いています。

生徒が、自分の世界に没入しているのも、先生方の柔らかい眼差しに包まれているからです。この没入を、学習理論では、フロー状態と言いますが、先生方は児浦先生が主宰する学びのデザイン勉強会で、きちんと研究しています。ですから、先生方が意識して、この柔らかい雰囲気をつくろうとしているのです。この先生方の一体感あってこその眼差しです。他の学校ではなかなかないというのが、日本の教育現場の課題ですが、聖学院はそこを一丸となって解決しているのです。

こうして写真を通して、生徒の様子をみていくと、毎時間、内的な世界を広げ、そこに向かって真剣にのめりこんでいるのがわかります。その向こうに世界が広がります。決して閉じられているのではありません。PBLというのは、自分と世界の接点を見出す授業のなのかもしれません。その接点は、生徒1人ひとり違います。まさにオンリ・ワン・フォー・アザーズです。これが、プロジェクトの真理であり、その真理が生徒の才能を自由にする聖学院のプロジェクト型授業(PIL×PBL)なのかもしれません。

聖学院 最高の授業(3)

日野田先生の高2の社会の授業。はじめは、PIL(生徒同士の対話を活用しながら講義をしていく)手法。たとえば、国民総生産に関連する知識の整理をしつつ、成長の概念など、ものの見方考え方の基準に関するものについては、PIL手法で展開していきます。
 
基礎知識は教えるが、ものの見方考え方の基準については対話という機会を設定。また、講義や対話のトリガーは、図、グラフ、写真・・・など多様なドキュメントやデータを活用。講義、問応法、PILのコンビネーションは巧みで、これだけで50分授業が成立しても構わないぐらいです。
 
 
しかしながら、日野田先生は、知識・理解の思考レベルで授業を終わらせません。だから、国民総生産、インフレ、デフレ、国の借金、通貨価値などの関係を、国レベルだけでなく、生活レベルに置き換えて考えていきます。この置き換えは、大人にとってはすぐに了解できますが、生徒にとっては、大転換視点となります。
 
この転換ストーリーがあって、グループワークに移行しますから、移行時の内面的な段差に、知的マインドセットがきちんと行われているということが生徒自身にもわかります。PBL型授業の醍醐味は、丁寧なマインドセトに実はあるのです。とかくグループワークは、おしゃべりになりがちだと他校の先生方から懸念されますが、Growth Mindsetがなされているからこそ、多角的に分析して、創造的解決の足がかりを探す議論が深まっていくのです。

 
そして、このようなグループワークで「家を買うべきか借りるべきか」という問いに対し、自分の立場が決まった段階で、あの有名なディベートがスタートします。見学した時、生徒たちは、インフレやデフレの見通し、政府の金利政策、土地問題、過疎化、管理組合問題、人口動態、災害リスクなど多様な経済的視点を闘わせていました。
 
そして、資産価値としての経済合理性と人間存在の価値論との相克や未来予測の視点は、結局生活レベルの話から、再び社会構造を見抜く俯瞰視点に結晶していくことになります。最終的には、自分の主張を論述としてまとめるところまでいきます。生徒の思考力の飛翔は、教師の思考の環境や土台作りがあれば、どんどん進化していくのだと実感しました。
 
この50分の授業の中で行われるディべーㇳは、いわゆるディベートではなく、多様な視点や多角的根拠を明快にし、しかもシェアするという思考の拡充が目的です。このようなエンリッチメント思考のスキルが搭載されることによって、生徒は、人生を生き抜くコンピテンシーを豊かにしていきます。このような生徒の成長に関しては、多くの卒業生を見送っている日野田先生にとっては授業の当然の帰結です。教育効果のエビデンスは、最終的には卒業生の人間力にあらわれるといっても過言ではありません。
 
 
井上先生の中2の英語の授業は、実におもしろい。はじめからグループに分かれ、リーディングも英会話もライティングも、グループで助け合ったり、ロールプレイをするのです。
 
オールイングリッシュで行っているから、4技能の英語がフルにいかされる授業になっています。しかも、ある英文スキットを読んだら、そのテキストのシチュエーションとは違う場を想定して、英文をつくり、スピーチする応用もしていきます。一般に、中2の段階だと、与えられた英文ででてくる英単語を覚え、訳読型のリーディングをするのでせいいっぱいという授業が多い中、時間を切ってグループで進んでいきますから、知識・理解で躓くことがありません。
 
その分、応用として自分たちで文章を考え、スピーチができます。聖学院から最寄りの駅に行くまでの長い道のりを、道を尋ねる外国の方に英語で教えるロールプレイは、英語で冗談も言いながら爆笑するシーンもありました。柔らかい思考と対話です。
 
テキストを別のシチュエーションに置き換えるという「応用」作業は、思考も交えながら学ぶことになります。したがって、英語のスキルにみならず、思考力・表現力が養われていきます。
 
 
また、テキストを読む行為を逆転させるゲームは、大いに盛り上がりました。写真を見せて、それを説明する英文を推理するゲーム。ラテラルシンキングという手法です。しかも、生徒の表現を使って、正しい表現に目の前で変えていく。生徒にとって、どのように考えていけばよいのか、自分なりの思考の軌跡に沿って進めることができるのです。多様な表現が可能で、試行錯誤ができる安心安全の信頼関係が井上先生と生徒との間にしっかりとあるのが伝わってきました。
 
それに、考えてばかりいると、身体がこわばってしまう。そこで、DJ英語。リズムにのって英文のシャドーイングを行う。あるいは、マインドマップを使って英文の整理をしたり。集中と拡散の学びの物語が展開していくのです。
 
そんな様子を見ているうちに、英語の授業なのか、思考力をトレーニングする授業なのか、いつの間にかその境界線は溶解していました。自由な発想を鍛える英語の授業。21世紀型教育を推進する聖学院の面目躍如といった授業でした。

聖学院 最高の授業(2)

伊藤大輔先生の高2の英語の授業。この学年は、最後のセンター試験世代。それゆえ、ミニテストをまず返却して、スコアの分布などデータ分析をきちんとして、それぞれの生徒のポジショニングを明快にしていきます。受験に向けてのマインドセットがきっちりしているのです。
 
しかしながら、同校が推進している21世紀型教育の新たな改革の波は、最後のセンター試験世代にも及んでいました。グーグルクラスルームを活用して、反転学習が導入されていたのす。だから、きっちりデータベース戦術で知識のマネジメントができていたのは新鮮でした。
 
 
たんたんと文法問題の解説を行っているように見えたのですが、言語の一般化と具体化の適応という思考過程を生徒とシェアしていく深い分析的な授業でした。それは、すでに自宅で生徒が問題を解き終わっている、あるいは通学電車の中でスマホで入力し終わっているからたっぷり時間がとれたということと関係があるかもしれません。
 
人と物の気持ちの関係や自動詞と他動詞の差異は、英文法の問題レベルを超えて、コミュニケーション能力というコンピテンシーを支える重要な言語感覚。
 
入試問題を通して、言語分析の視点を標準搭載していくのです。文法の授業ですが、授業を通して言語分析というクリティカルシンキングが身に着くようにデザインされています。現在、2020年大学入試改革に向けて4技能の英語が重視されていますが、言語分析、言語適用、言語創造という言語的思考のベースは、4技能英語においても必要。しかも、この言語的思考はクリティカルシンキングがベース。4技能を相互につなげ、深い学びを展開していけるかどうかは、やはり、この思考スキルを身につけているかどうかにかかっています。

 
伊藤先生が、説明の時、レファレンスデータも自在に活用できるのも、ICTを巧みに利用しているからです。Imaginary imaginable imagined imaginativeのような接頭語や接尾語の違いを分析する問題も、類似問題がテータベース化されているから、どんどん生徒に投げかけられていきます。伊藤先生はは、反転授業において、優れたコーチの役割を演じているのです。
 
選択肢の問題は、すべてデータで正答率がでるようになっていて、エンパワーメント評価として授業で活用されています。これができるのは、先述したように、反転授業が行われているからであり、グーグルクラスルームでホームワークが出されているからです。つまり、実はセンター試験世代の受験生だけれど、21世紀型教育を意識した戦略的な受験指導になっていたのです。データ英語トレーニングとでもいいましょうか。
 
そんなことを思っていたら、今度はグループワークにすみやかにシフト。、議論しながら問題を考えていきます。その議論で生徒が使う言語の用法は、単語や文の構造をクリティカルシンキングしながら論点を明らかにする言語活用です。
 
 
グループワークで議論を明快にでき、深めていくことができるには、クリティカルな視点を標準搭載されている必要があります。反転授業は、この思考環境を生徒の内面に創り出すことだったのです。この環境を活用して生徒の学びは展開していきます。このとき伊藤先生は共感的コミュニケーションによるファシリテーターになっていました。
 
伊藤先生は、現高2生が、最後センター試験世代の生徒だからこそ、受験指導という枠内で、21世紀型教育を戦略的合理的プログラムとして創意工夫していたのです。

聖学院 最高の授業(1)

21世紀型教育機構は、グローバル教育3.0のステージに向かって、学内外のネットワークを広げ、グローバルイマージョンの環境を学校でつくっています。聖学院も、タイ研修という生徒が自己開示し、他者の痛みを感じ世界精神を自ら生み出す規格外の教育を実施しています。また、都市デザインや東京パラリンピック支援、はちみつをつくりその利益を寄付する起業プロジェクトなど、多様な実践的教育を行っています。

入試においては、生徒の才能に応じた多様な思考力入試を開発・実施し、NHKや静岡放送など多くのメディアでも取りあげられています。

しかし、他の学校と大きく違うのは、このような規格外の教育活動が、日々の授業と結びついているというコトです。ふだんの授業がPBL形式で進行するため、一時間一時間の授業が、生徒自身にとって特別で新鮮です。いつも自分にとって特別な時間が待っている最高の授業が聖学院では行われています。by 本間勇人 私立学校研究家

(聖学院は2カ月に1度くらいの割合で、有志の先生が集まって、授業デザインの勉強会を行っています。PBL型のワークショップ形式で進み、静岡聖光学院の先生方や東大の研究者も参加しています。仕掛け人は、21教育企画部長児浦先生。)

児浦先生の数学の授業は、PBL(プロジェクト学習)型授業。空間図形の切り口を学ぶ授業は、ポリドロンで立体図形を組み立て、切り口のそれぞれの頂点をひもで結んでいきます。ポリドロンにひもを結び付けて、切り口の図形をイメージする創意工夫は、児浦先生自身のアイデアです。

二次元のポリドロンを三次元に変換し、点を結んで立体を切るから、三次元と一次元を結合して、二次元に変換するというトランスフォーメーションの連続が、触る感覚を通してイメージされていくのです。

児浦先生は、指は第二の脳であるという信念をもっていて、まずは指で触りモノをつくりながら、脳内にイメージを転写していく学びのプロセスを大切にしています。感覚と脳のコミュニケーションが生まれる数学の授業なのです。

そして、アプリを使って、サイバー上で空間図形の切り口をイメージを確認していくような授業展開。また、その思考過程を言語化することも忘れません。Yチャートという思考ツールを使うため、生徒は言語化するときにそのツールでサポートされます。

児浦先生は、PBLの最後は、きちんと講義をします。グループワークでは、様々な学びのツールや思考ツールを、生徒の考えるサポートメディアとするファシリテーターをやり、最後は教師のロールプレイもするのです。

この授業で、生徒たちは、数式を図式化、言語化、立体化など相互に変換し合います。一次元、二次元、三次元を自在に変換転換する作業もします。体験と定義の相互関係も発見していきます。数学的思考の醍醐味が1時間の中につまっているわけです。

生田先生の理科の授業。水素の化学的性質や生活の中でどう使われるかなど、トリガーになる対話からはじまります。また、水素を使った実験のリスクマネージメントの話も。クリエイティブテンションのマインドセットから始まるのです。この体験という実験は、危険も伴うスリリングな体験。知的な精神だけではなく、自律する精神も同時に養います。

そして、生徒の知的好奇心は、水素と火によってでる音を聞いたり、美しく水素が燃える様子を見たり、運動エネルギーに転換してプラカップロケットを飛ばしたり、多角的な視点で、水素の性質のアイデンティティを組み立てていく思考として成長していきます。

条件を変えての仮説実験。五感と思考と物質のアイデンティティの関係を結合する実験の過程。そして、水素の特徴をまとめ、気体という物質の概念へ駆け上っていく生徒たち。さらに、リフレクションとシェア。実験を通して科学的思考を生徒は標準搭載することになるのです。

 

聖徳学園 グローバル × PBL × ICT

聖徳学園は「国際協力プロジェクト」という授業を高2生全員が年間を通じて行っています。グローバル教育センター長の山名和樹先生がJICA職員や大学の先生など外部の専門家と協力しながら育ててきた聖徳学園独自のPBLです。今年もその中間報告会があるというので見学してきました。 by 鈴木裕之:海外帰国生教育研究家

聖徳学園の国際協力プロジェクトでは、実現可能な課題解決案を考え、それを実際に実行することがゴールとして設定されています。各国の課題をただリサーチして終わりにするのではなく、課題解決に向けた一歩を踏み出すところにこのプロジェクトの意味があります。

私が見学した日は、インドネシア担当のクラスとミクロネシア連邦担当のクラスによるプレゼンテーションが行われていたのですが、各国の課題の捉え方やその解決案、また生徒のプレゼンテーションスキルも格段に進化していました。

課題が深く掘り下げて捉えられているのは、先輩が行うポスターセッションにオーディエンスとして参加していることが大きく関係しているのでしょう。国際協力プロジェクトはすでに4年目を迎えているため、定例イベントのように聖徳学園の生徒の身近な問題意識となって根付いているのかもしれません。

情報の授業と協働することでICTをフル活用していることも特徴的で、動画を組み込んでプレゼンしているチームも目立ちました。SNSを利用した情報の拡散や啓蒙活動を解決案として提唱しているチームも多く、ICTの活用スキルが年々向上していることがよく分かります。

各チームが特定の国の課題をリサーチする中で、個々の課題が同じ根っこから出ていることに気付いていくというのも興味深い学びのプロセスです。水質汚染やゴミの大量廃棄などの環境問題、また肥満や伝染病など健康に関する問題など、いずれもグローバル経済によって引き起こされた影の部分です。そのマクロな構造的逆説を見据えつつ、ローカルな現実に心を寄せて課題解決への行動を起こしていくこと。そこに聖徳学園のPBLの真髄があるのでしょう。

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