東京女子学園の21世紀型教育(2)グローバル教育

東京女子学園の21世紀型教育は、学校とグローバルIT企業がコラボする21世紀スキルの世界的な運動が起こる前に、ユネスコという世界の子どもたちの未来に備える「新しい教養」から生まれている。

もちろん、タブレットは生徒全員が活用しているから、後発の21世紀スキルの運動と重なるところもあるが、視野の広さと奥行きの深さが、違う。21世紀スキル運動がともすれば、グローバル経済に偏りがちなのに対し、東京女子学園は、グローバリゼーションの光と影の両方を前提として、より善い社会を作るキャリアデザインの教育を積み上げてきた。

知ることを学ぶ(learning to know)

東京女子学園はには、オリジナルのテキストで行う授業がたくさん創意工夫されているが、“WORLD SYUDY”という授業もその1つ。英語の授業だから、グローバル教育であることは間違いないが、ただの英語の授業ではない。

まず、授業がはじまって5分間くらいは、覚える時間。といっても英単語を暗記するわけではない。トピックセンテンスを記憶するのである。しかし、ただ丸憶えするのではない。ネイティブスピーカーの先生から正しい発音を聴いたあと、ペアになって対話するのである。対話ということは、トピックセンテンスが、Q&A形式になっていることを示唆している。

“WORLD STUDY”は、中1から高3まで行う授業で、優れているのは、季節によってトピックセンテンスのテーマが決まっているということ。「あいさつ」「自己紹介」「旅行」「昨日したこと」「休みの予定」などなど、学年が違っても同じ時期には同じトピックについて英語で対話する。

トッピクは同じでも、学年が上がるにつれて、ボキャブラリーや文法は難度があがっていく。らせん状に英語の力の発達に合わせてテキストは構成されている。そして高3になると、トッピクの中に労働や福祉、女性問題、環境問題、自己実現などキャリアに関する内容が織り込まれるようになっている。

21世紀教育国際委員会の一つ目の柱である「知ることを学ぶ」が具体化されているわけである。コミュニケーションのスタートは、トピックを共有すること。そしてそのトピックが文になり、対照的な文や理由を表す文とリンクしていく。知ることを学ぶとは知識が実際の生活の中で、ものや情報、人のアイデアと結びついていくトレーニングだったのである。

なすことを学ぶ(learning to do)

“WORLD STUDY”の残りの時間は、テーマをトピックで終わらせずに、パラグラフライティングの手法で、説明するレポートにし、プレゼンするという編集の時間になっている。もちろん、中1の段階で、いきなり文章を書くということはしない。まずは、英語の文化に慣れるために、上記の写真のように、各国の基礎データを英語で語れるようにする。

首相や大統領、食事、国旗、地図上の位置、人口などをリンクしていく。最初はトピックセンテンスを憶える時間と同じレベルだし、ゲームも交え英語の時間が楽しいというモチベーションづくりに時間は費やされるが、身近な問題から時事的な問題へと説明文を編集するトレーニングになっていく。

その際、大切なことは調べるということ、最近ではタブレットを活用して、サーチしながら調べたり、関連する絵や図、音楽なども見出して、タブレット上にストーリーを作っていく。プレゼンは、プロジェクターを活用したり、フリップボードを使ったり、模造紙を使ったり、プレゼンの内容によって選択するようになっている。

講義を聴いてノートを取っている授業ではなく、自分で課題を見出し、解決していく過程を、調べる活動から始めていく「なすことを学ぶ」授業でもある。

共に生きることを学ぶ(learning to live together)

そしておもしろいのは、1人で調べたり、編集するのではない。

互いにアイデアを出し合う対話を通して、プレゼン内容を編集していくのである。もちろん、生徒同士だけではなく、生徒と教師も頻繁に問答を繰り返している。

共に生きることを学ぶ基礎は、対話であり、パートナーの話に耳を傾けるところからスタートする。そして大事な問題をしっかりと共有すること。先輩のプレゼンの模造紙が紹介されたとき、生徒たちの感動のどよめきのセンスの良さは、まさに共に生きることを学んでいる証だった。

 

人間として生きることを学ぶ(learning to be)

授業が終了した休み時間の間に、インタビューに応えてくれた生徒がいた。

左から落合裕子先生、高2Kさん、高2Mさん

Mさんは、東京女子学園の英語教育を通して、受験英語を超えて、実際に外国人と語り合え、意見を交換したり、議論ができるようになる土台を作ることができた。それで、オーストラリアにホームステイして、実際に海外の人々とコミュケーションすることに挑戦したという。

もちろん、はじめからうまくはいかなかったが、臆することなく勇気をもって乗り切れたのは、先生方がe-mailでサポートしてくれたからだという。今では自分の英語力やコミュニケーション力に自信が持てているという。

Kさんも同じで、シアトルにホームステイに行った。“WORLD SUTADY”で行っているように、あいさつしてトピックについて対話するやコミュニケーションが開けたという。また、今年の夏は、港区立高輪区民センターで開催された、港区平和都市宣言 「平和を考える集い」に港区平和青年団の一員として参加した。英語であれ日本語であれ、意見を交わすコミュニケーション力が自分の想いを支えてくれたという。

2人の共通点は、未来に対し危機意識を持っていることである。Mさんは、オーストラリアでたくさんの同じアジアの友人ができた。しかし、政治経済の状況は、自分たち友人同士のような関係ではない。どうしたら友人たちのような関係を国同士でも築けるのか。東京女子学園の学びをそこで役立てたいと。

またKさんは、自分たちの世代が、戦争を知っている方々の話を直接聞くことができる最後の世代であるから、戦争の悲惨さと平和をどうやってつくっていくことができるのか、次の世代に伝わる活動をしたいと。東京女子学園における学びは、そのとき役に立つというのである。

彼女たちのコミットメントは、論より証拠、東京女子学園に、「人間として生きることを学ぶ」21世紀型教育があることを表している。

 

 

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