戸板の入試改革「思考力問題」(3)

英語の思考力問題

斎藤先生:英語科も、スーパーイングリッシュコース(SEC)で迎え入れる受験生に向けて思考力のサンプル問題を作成しました。本科との共通問題もありますが、それも文法のための文法の問題にはならないようにしました。

その両方のコースで共通して大切にしているのは、英文の文脈をたどったり、状況を理解したりする力です。これも考える力なのですが、この段階では、まだあくまでもテキストという形で情報を提供し、その与えられた情報の文脈を分析する次元の思考力です。リスニングの問題にしても同じことが言えます。

もちろん目から入ってくる情報の整理と耳から入ってくる情報の整理は、同じ言語でも国語とは違い、英語の場合は中学生段階では、差があるのは当然ですが、情報を整理する思考のプロセスは同じだと思います。

ところが、SECの場合は、英作文をたっぷり出題します。もちろん、自由作文ではなく、文脈や状況に適合するように書くという意味では、ある程度の正解に行きつくのですが、それでも自由度はあります。

これによって、文法や語法を単に知っているという次元を超えて、文脈把握の力、構文の力、usage(使用法)などツールとしての英語の基礎を自分の思考にどう結び付けるかという次元まで考えてもらいたいと思います。

原田先生:大問4番と大問5番は英作文ですが、大問5番のほうが自由度が高いわけです。思考というのはやはり文脈拘束とそこからの自由というせめぎ合いで生まれてくるのでしょうか。先ほど国語の長谷川先生から、自由な発想と論理的に考えるという一見矛盾した内容をどう統合していくかという話がでていましたが、英語にも共通していますね。

理科の思考力問題

川口先生:理科の場合も、中学入試でも、将来スーパーサイエンスコースにつながる思考力を想定してサンプル問題を作成しました。

データを読み取りながら、どのデータがどの野菜を示しているかをマッチングする問題です。入試問題では、この手の形式はよく出題されると思います。グラフを読み取っていくわけですから。

たとえば、じゃがいもとさつもいもの水分量を比べて、どちらがじゃがいもですかというデータの読み取り問題はよく出題されます。

今回は比べる野菜の数を倍にすることによって、情報を分析して推理するには多角的に考える必要がでてくるという点でも、実際には今までとは違う思考力問題なのですが、さらに、与えられたデータが何のデータであるのか仮説を立てるところからはじめているのが、特徴的だと思います。

入試の条件として、知っている知識と知らない知識の差を見るというより、同質の知識という条件・状況から思考のプロセスの違いをみたいというのが前提になっています。生物は水からなっているというのは、1つの素朴概念で、そこをヒントに科学的な概念に導いていく仮説を立ててもらい、そして自分の力で仮説が立てることができるぞという自信を持ってもらいたいと期待しています。

理科においても好奇心は大切な思考の出発点ですが、それは仮説を立てることができたとか、検証できたとか、その考える過程の中で自信につながるからだと思っています。

大橋先生:とても良い考え方ですね。理科と言えば実験ですが、入試では実験はやれない。にもかかわらず、実験をやっているのと同じ感覚が味わえるというのがおもしろい。それは、気づきを重ねていくと、1つの法則の仮説を立てられたり、推理をしていけたりという理科的な思考力そのものが楽しいということだと改めて気づきました。

座談会を通して

今井先生:グローバルな社会の中にあって、いろんな国で全然自分の知らない人に出会ったり、違う価値観に遭遇したりしときに、生徒が彼らとやりとりしながら、あるときは相手の考えを崩しながら、逆に崩されながら、自分の考えを相手に伝えていく力を育成したい、そういう可能性のある生徒を発掘して磨き上げて送り出したい、その入り口としてこういう問題を通ってきてほしいというわたしたちの意思がはっきり見えたことに感動しました。

大橋先生:先生方の話をお聞きして本当に感慨深いですね。ものすごく画一的な価値観でずっと教育界は続けてきていて、そこで競争してパスポート試験を通過して、燃え尽きてきたけれど、これからはパスポートなき時代です。そこで生きていける可能性ある人材をどう発掘するかが重要で、ともすれば中学入試で燃え尽き症候群をつくってしまうような入試問題はつくってはいけません。戸板の思考力問題のように、これから伸びるぞという生徒を発掘することが大切だという今井先生の考えはその通りだと思います。

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