先月、東京女子学園の英語教育“World Study”を見学したとき、ワークショップが行われていた。それは、生徒1人ひとりが自分の選んだトピックについて、調べて編集しプレゼンする活動。そのプレゼンが授業で行われると聞き及んだので、再び見学しに訪れた。一味も二味も違う東京女子学園の英語教育についてご紹介したい。 by 本間勇人:私立学校研究家
トータルなことば力の育成
東京女子学園の英語教育といえば、ICTの活用、使える英語、留学、研修旅行など受験英語を超えて幅広く高い質のグローバル教育の実践で有名である。しかし、それだけでは、同学園の英語教育を語ることはできないと気づいた。
自分のお気に入りのトピックをプレゼンするという何気ないアクティビティの中に、密度の濃い同学園ならではの英語教育が織り込まれていた。
以前、タブレットを自在に使って調べ、友人と協調していくワークショップを見て、それだけで、2015年のPISAの調査で予定されている協調学習の調査の先駆けだし、オーストラリア、イギリス、カナダ、アメリカ、インテル、マイクロソフトなどがコラボしている組織「ATC21s」が標榜している21世紀型スキルをすでに実現していると感動していた。
しかし、今回のプレゼンを見て、もっと大切な教育が行われていることに気づいた。
それは、1分間のプレゼンの間に、BGMあり、動画あり、写真あり、生徒自身が描いたり作ったりした作品あり、パフォーマンスありだったのである。もちろん、言語は英語であるのは言うまでもない。
それが、総合学習とか特別講座ではなく、英語の「授業」で行われていることに改めて驚いた。1分間のスクリプトを作成するのは、それだけでも大変だ。
英文を書くわけであるから、高2といえども難関である。そもそも大学入試で400語、日本語で800字の小論文を出題している大学は実はそう多くないのだ。
そのことを想起しただけで、パラグラフライティングのトレーニングでも大変なのに、あらゆる表現のスキルを加えるとは、何事だろうと驚愕しないではいられなかった。
しかも生徒によって、表現の道具が違うのである。写真や立体の創作作品がある。従来型のパソコンルームや電子黒板では、デジタルプレゼンに限られ、アナログのプレゼンができない。
そこで、OHPを活用した。1人1台タブレットを持っているから、それをそのままOHPに置く。絵画などの作品の時には、タブレットと絵画を差し替えるだけ。1分間のプレゼンがスムーズにいくし、デジタルもアナログも電子機器のストレスなく活用できる。
それにタブレットは動画も音もでるわけだ。OHPを活用せず、タブレットを音専用の役割として使い、プレゼンは自分で描いたフリップを活用するというシーンもあった。
もちろん、タブレットやWebは調べるところまでで、プレゼンはエプロンシアターよろしくパワフルなパフォーマンスを演じた生徒もいた。
つまり、東京女子学園の英語教育は、英語力である以上に「ことば力」だったのである。コミュニケーションで、論理的な文だけを相手に伝えるならば、タブレットを互いに持参し、メールでやりとりをしていればよい。しかし、そんなSF的人間関係は、現状では荒唐無稽だ。
コミュニケーションは聴覚も視覚も触覚も臭覚も味覚もすべて表出される。ことばは辞書的な意味を伝えるのみならず、感情誘引も行動喚起も意思決定も生み出す。
英語であれ、日本語であれ、そのようなトータルなことば力を育成するのがリベラルアーツである。新しい教養を実践している東京女子学園ならではの英語教育であり、先述した国々が行おうとしている21世紀型スキル・ベースのグローバル教育(彼らは“Global Learning”と呼ぶ。日本の文科省は「グローバル教育」と翻訳する)をすでに乗り越えているといえよう。