東京女子学園の英語教育 トータルなことば力(2)

トータルなことぼの力は思考力でもある

1分間のスクリプトを編集するというのは、実はものすごい思考力を要する。ものごとを組み立てたり創り出す思考力とは、調べることだけではない。調べることはIB(国際バカロレア)のディプロマやPISA、CEFR、次回の学習指導要領の思想的参考書であるマルザーノ・タキソノミーによれば、思考の6次元のうちのレベル2。

そこから整理をするわけだが、何せ1分である。調べた量を全部盛り込めば、30分は超えるだろう。それを30分の1に圧縮する。となると、優先順位、削除、選択という思考力が稼働する。そのとき比較、矛盾、差異、インパクト、因果関係などの関係を調べた内容に結び付けていく。もはや調べた内容1つひとつを理解するという思考レベル2を超えて、どの例に何を結びつけるか思考のレベル3「応用」の次元に踏み込む。

(先生に手作りの地図を持たせてプレゼン。教師と生徒の距離の近さが象徴されているシーン。先生お疲れさま!)

そして、出来上がったスクリプトを分析する思考レベル4にも踏み込むことになる。というのも今度は、プレゼンの説得力を強化するために、どのような図や写真、グラフ、動画を「挿入」するかということになる。削除してきたのに、今度は「挿入」である。OECD/PISAのリテラシーでは、スクリプトのような素材を「連続型テキスト」と呼び、図やグラフなど文章以外の素材を「非連続型テキスト」としている。

つまり、思考レベル4では、連続型テキストと非連続型テキストの分析をして、スクリプトの再編集をするのである。

これで、連続型テキスト(トピック+トピックセンテンス+ディテールセンテンス)×非連続型テキスト(図+動画+写真+BGM・・・)というスクリプトが完成する。と思いきや、実際のプレゼンではこの思考レベル4では、収まらなかった。大学受験勉強はここまで十分。東大でさえも、ここまでの思考力が育成されていれば、あとは膨大な知識を関連付けて記憶して自在に引き出せるようにしていればよい。

ところが、いくつかのプレゼンは思考レベル4を超えていた。たとえば、紅茶について歴史や種類について詳しく調べたプレゼンに感心していると、パーンと不思議の国アリスの、あのディズニーランドのマッド・ティーパーティーにジャンプした。たしかに紅茶の文化を語るのに、このシーンは格好のエピソードではないか。

もちろん、1分間のスピーチであるから、このシーンの歴史的、宗教的、経済的などなどの深さには入り込んでいないが、視野の広さを印象付けるには十分すぎるではないか。紅茶という物質に集中していた思考の方向性を急回転させ、その背景に迫るダイナミックな思考の反照作用(リフレクション)を、21世紀型スキルや認知科学では「メタ認知」と呼んでいる。

この次元が思考レベルの5である。次回の学習指導要領では、このレベルも盛り込む予定で、文科省は考えているが、この“World Study”はそれを先取りしている。

そしてまた、こういうプレゼンもあった。たいていのプレゼンは、だから私は〇〇が好きなんですで終わる。しかし、タイタニックの映画について調べたプレゼンでは、if文で置き換えた。つまり、もしまだタイタニックの映画をみていないとしたら、それは見なきゃ後悔するよという締めくくり。そのぐらい好きだということを強調したレトリックであると同時に、自分の意思決定をみんなと共有したいという社会性や公共性への誘いのレトリック。

この自己と他者を鳥瞰する視野は思考レベル6である。つまり、彼女は、将来、世界でネットワークを作りながら、あるいは巻き込みながら、共に生きる世界を作っていく意思決定者としての素質が拓かれていたのである。

このように東京女子学園の英語教育は、トータルなことば力を育成している。置き換えれば思考の次元レベル6までをトレーニングする教育だったのである。

 

 

 

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