「桜丘ラーニングコモンズ」が21会型学びを見える化する

桜丘の品田副校長から、≪第1回21会Webソクラテスセミナー「21世紀型学習をめぐって」≫の記事を読んで、来年度以降の「MRCからSLCへ」という桜丘のパラダイムシフトに重なり合う発想だと思うと感想が寄せられた。そのパラダイムシフトと21会型学びの共通発想を聞いた。by 本間勇人:私立学校研究家

来年度から「桜丘ラーニングコモンズ」にデザインされる図書館(MRC)で

MRCからSLCへ

桜丘は、来年度から中1全員がiPadを活用できる環境になる。タブレッド導入型学習を推進していく。昨今タブレット導入型学習は大変盛り上がっていて、多様なケースが公開されシェアされ始めた。

品田先生は、ICTを活用した学びの研究の第一人者で、その研究の過程で、タブレットが生徒自ら未知の領域を探索するときのコンパスであり、自らの発想にジャンプする翼であると確信したという。

そして、そこに到ったとき、≪第1回21会Webソクラテスセミナー「21世紀型学習をめぐって」≫の記事に出逢い、さらにこれだと確信を深めたと語る。

そのセミナーでは、学びというのは、教師が課題を与え、探究・議論・プレゼンという過程の段階では、まだ生半であるという結論に到っている。

課題そのものも、生徒自らが立ち上げるというステージが必要だろうと。しかし、いかにして立ち上げるのか?問いを立ち上げる前に、問いを探し出す場(トポス)が必要であろうということになった。問いを立ち上げるには、好奇心・興味・関心がなければならないからである。

品田先生は、この問いを探し出す場(トポス)は、授業や体験の対話の中にもあるが、なかなかそこをトポスにする実感を抱けないのが実情。だからセミナーでのアイデアには大いに共鳴するも、その場は、中高時代はシミュレーションできるように仕掛けることが必要なのではないかと考えている。

そして、それは、今のMRC(メディア・リソース・センター)という図書館機能をSLC(桜丘ラーニングコモンズ)というアクティブラーニングができる場にシフトすることによって可能になるという構想をたてた。

今までの図書館機能は、文献や情報を生徒が1人で静かに検索し、読み込むというリサーチ部分の機能が前面に出ていた。しかし、アクティブラーニングのコモンズ(共有の場)をデザインすることで、自分が調べた情報だけではなく、協調学習によって、仲間が調べた情報も結合できるようになる。

(一人で学ぶ空間もある)

一人黙々と学ぶときもあるが、ワイガヤでコンヴィヴィあるに議論する学びの瞬間もでてくる。MRCからSLCへシフトすることは、生徒の学び方にも変化が生まれるのである。

これによって、知のネットワークは一気呵成に広がる。多様なノードがフラクタルに生み出されると、そこからまた新たな情報や知識がつながっていく。

すると、生徒それぞれが、関心の拠点としてノードを選択する。どのノードを選択するかは生徒の関心によって違うから、協調しながらそれでいて個性的な問いが立ち上がる。コモンズという共有空間にふさわしい学びの活動だ。

品田先生は、こう確信をこめて語る。

「このように自分で問いを立ち上げるコモンズ(場)を、哲学授業のように対話という目に見えないトポス(場)で思考作業を行う前に、中高生段階、特に中学段階で設定することは、ある意味コモンズとして思考の作業を可視化する空間を作ってしまうことになると思います。

ある意味暗黙知だった思考や探究の作業を見える化することになるのです。しかし、そうするには、教師も考え方をチェンジする必要があります。そのために、今は頻繁に教師による学び合いを行っています。タブレットを活用する授業のモデルケースをお互いにデモンストレーションして、振り返りながら情報共有・改善しています。

この学び合いを通して、MRCからCLCへの考え方のシフトの手ごたえを感じているところです。」

(学びの仕掛けは図書だけではない)

すでにある図書機能をなくすのではなく、この空間の質感を損なうことなく、アクティブラーニングの空間にするために、スクリーンの設置や新プロジェクターの活用、iPadの有効活用を工夫してSLCをデザインするということだから、来年度が楽しみである。

タブレットが発想ジャンプの翼に

問いを探し出すコモンズをデザインし、そこでタブレットをコンパスにしながら知の探索をし、やがて問いを立ち上げる。自ら関心をもった問いである。そこから先は探求のモチベーションが内燃する。

その様子がSLCで繰り広げられることになるのだから、こんなワクワクすることはないが、探究や学びの方法がわからないと、闇雲に探索しているうちに、論点は拡散し、冗長になり、いつしか内燃していた火は消えてしまうとも限らない。

そこで、探究や学びの方法として、セミナーでは、カテゴライズの手法、比較、因果関係などの学びの道具を活用しようということになった。

しかし、この学びの道具は、またしても目に見えない。脳内で活用されるから、実際には生徒がどのように活用しているのかわからない。対話しながらその都度確認していく以外にないが、物理的な時間と空間の制約が多すぎる。

時空を超えるのはICTの得意とするところだし、多くの生徒の考える作業のトレースを調べることも得意とすることだ。

だから、品田先生はこう語る。

「教師がチェックするだけではなく、生徒自身も自ら考えている軌跡をたどることができるし、タブレットを操作すること自体が思考作業であるから、思考のトレーニングもできる。そしてなんといっても、教師と生徒、生徒と生徒が思考作業を共有でき、今までブラックボックスだった発想が生まれる過程を実感できるのです。

すでに、たとえば体育の授業で、次の時間までにダンスの振りを練習してくるのにクローズドなYou Tubeに動画を流しています。閉じられていますから、メンバーの数は決まっています。どのくらいの数が閲覧しているかがわかります。

事前に練習してきてくださいというだけではなく、動画を準備し、その閲覧数によって進捗状況を共有することで、学びの促進を協調しておこなっていくことができるという成果がでています。

学びというのは、アウトプットの段階での結果評価のみならず、過程の評価によって、学びの可能性に自らチャレンジしてけるようにエンパワーすることでもあります。タブレットが発想の翼であるゆえんはそこにあります。」

「問のトポス」「問いの立ち上げ」「関心拡張と探究深化の方法」という一連の21会型学びを、桜丘ラーニングコモンズとiPad導入型学びによって可視化する構想。桜丘ドリームの実現が今から楽しみである。

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