私学人から見た大学入試改革の道(2)

§2 第4次提言の「論点」と「私立学校にとっての意義」

吉田先生:第4次提言の基本的な論点は幾つかあるが、4つほど挙げてみよう。一つは、世界のグローバル化が急速に進展し、人や物、情報等が国境を越えて行き交う大競争の中にあるという認識。

このグローバルな大競争時代に耐えられる人材を創るために、大学の教育機能の強化が決定的に重要だと認識しているということ。

そうすると、このような高等教育機関の教育機能強化に適切につながる義務教育の基礎の上に成り立つ高等学校の教育の質の向上が大切になるが、そこがうまくつながっていないという現状認識がある。

そこで、二つめに、新たな試験の仕組み「基礎レベルの達成度テスト」を創設することによって、基礎的・共通的な学習達成度を把握して、高校の指導改善にいかすという提言がなされている。

そして三つめの論点として、おそらくこれがもっとも話題になっていると思うが、「発展レベルの達成度テスト」がある。大学教育に必要な能力判定のための新たな試験で、その評価は知識偏重の1点刻みの選抜にならないように、レベルに応じて段階別に表示するものだといわれている。

この1点刻みの選抜にならないというのが大いに議論を呼でんいるところだろう。

さらに四つめの論点が、この「発展レベルの達成度テスト」を「基礎レベル」と一体的に運営して、入学者選抜の基礎資格としての利用を促進しながら、各大学は、能力・意欲・適性を多面的・総合的に評価・判定する選抜に転換していくことが重要だと提言されている。

資料にあるように「養成する人材像を明確化し、教育を再構築、アドミッションポリシーを具体化。学力の判定は達成度テスト(発展レベル)を活用し、教科・科目等の弾力的活用を促進。面接、論文、活動歴等の丁寧な評価で選抜」とある

このような論点の具体的な実施方法等は中教審等で検討していくとあり、具体的なことはこれから。いずれにしても、この論点のうち、四つ目の論点は、結局全体にかかわるもので、大学が、能力・意欲・適性を多面的・総合的に評価・判定する選抜に転換していくことは良いことだし、そういう教育を私立学校は積み上げてきた。むしろ、そのような私立学校の教育の質を今までの一般入試では評価されてこなかったところに問題がある。

その意味では、第4次提言は、そこに注目したという点では評価できる。また、達成度テストを基礎レベルと発展レベルの2つにするというのも私のアイデアと重なるところもある。ただ、それぞれの論点の内容や実現方法については、何が有効な内容なのか、どうやったら実現できるのかについては、私立学校の積み上げてきたものを伝えていきたい。

平方先生:つまり、第4次提言の私立学校における意義は、吉田先生が長い間かけて、そして今回中教審の委員の一人として、提案し議論し働きかけてきた実績が決定的に反映したということなのである。

今まで教育改革というと公立学校の現状分析と改善の話ばかりだったが、今回の第4次提言は、時代の要請を読み取って、グローバル教育も射程に積み上げてきた私立学校の先進的教育に、国も目を向けた提言になっている。そういう認識を、私たち私立学校はしなくてはならない。

高橋先生:日本私立中学高等学校連合会の会長というお立場からも、吉田先生が私立学校を代表して中教審で発言されていることが大きな影響を与えていると確信している。私立学校の一員として、今回の提言を重く受けとめ、実行可能で有益な教育改革につなげたいものである。

吉田先生:私の働きが影響しているかどうかはともかく、大事なことは、第4次提言とそれまでの提言とは主語が違うということである。

第1次提言から第3次提言までは、たしかに第3次提言には初等中等教育のグローバル化に対応した教育の提言もされているが、それらも含め、基本的には教育政策・制度を作る側や運営側の在り方や組織についての提言が中心。

ところが、第4次提言は、ダイレクトに子どもたち、高校生たちの学習環境に影響を与える提言で、子どもたちの声に耳を傾け、現場の実態に身を置いて議論しなければならない提言。

私は、ポストモダンな時代における教育の時代なのだから、教師と生徒はフラットな関係で、もっと自由な学びを行うべきだ、極端に生徒の主体を重視するなどの考えには決して与しないが、生徒の声や現場を度外視して議論が進むのは危険だと思っている。

その生徒の声を実際に聴き、教育現場に身を置いている私は、もっと現場の状況をきっちり伝えていく使命を持っていると思っている。

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