東京女子学園 21世紀型授業(3)

東京女子学園の21世紀型授業のプロトタイプは、学園史的な流れから言って、ワールドスタディという同校独自の英語の学びのプログラム制作過程で生まれたと思う。それがキャリアガイダンスのプログラムや留学プログラム、大学受験指導プログラムに転移したのではないだろうか。

もちろん、その転移の段階で、相乗作用が生まれ、ワールドスタディそのものも強化されて、システムができたのだし、これからもまだまだ発展する。iPadの導入などは、進化し続けるワールドスタディを象徴している。

今回は、大久保素子先生の中2のワールドスタディの授業を見学した。ワールドスタディに埋め込まれたプロジェクト型学習(PBL)の基礎を理解できると思ったからである。

ワールドスタディーの授業の一大特色は、大久保先生がネイティブスピーカーの英語教師とコラボしながら行うということで、当然イマージョン率は高い。つまりほぼオールイングリッシュで展開される。

このコラボの輪は、教師だけではなく、教師と生徒、生徒と生徒という輪になっていく。(教師―教師)―生徒→生徒―生徒/(教師―教師)というシフトがPBLにおけるコミュニケーションで最も重要なところなのである。20世紀型授業が、教師―生徒の関係だけで構築されてきたのとはだいぶ違う。この違いが意味するのは、多様なものの見方考え方が展開するかどうかという違い及び寛容性の生成があるや否やの違いであることは、最近多方面で語られている。

第一ステージは、日常会話のスクリプトやリスニングのスクリプトのやりとり。(教師―教師)と生徒の関係で、ここは一見20世紀型だが、テーマを互いにシェアするのは、20世紀も21世紀も違いはない。情報を伝達するコミュニケーションは、インターネット時代でも変わらない。

しかし、ここでも21世紀型授業PBLのエッセンスがある。それは質問する側と応える側のロールのチェンジ。つまり、Q&Aのロールプレイが行われている。“learning by doing”はやはり基本である。

第2ステージは、ペアワーク。自分の行きたい国とその理由を英語でコミュニケーション。I think・・・because・・・はたんに文型を憶えることが目的ではなく、思考の基礎でもある。1つの問題を考えるコトが、別の伏線になっているという「頭のフェイント」もPBLのエッセンスで大事にしている気づきを生み出す重要な仕掛けなのである。

第2ステージは、次のグループワークに行く前に、ペアとグループの中間のゲームも行う。ペアでやっていた情報交換をグループ対抗にするのでるが、これもPBLのスタイルの1つジグソー法である。大事なことはアクティブ、インタラクティブ、インタレスティングの雰囲気が巻き起こること。プレイフルラーニングに移行していくために。

第3ステージは、グループワーク。すごろくをやりながら、<Dialogue>という英語の対話を行っていく。もちろん、中2の段階では、対話のスクリプトは決まっている。ある一定の文型や文法を楽しく使っていく実用的な作業。PBLのエッセンスの1つはプラグマティックであること、2007年からヨーロッパのCEFRに基づいた語学学習で取り入れられているアクション・パースペクティブという手法はその一種。

中2の第3ステージでは、明らかにある準備が仕掛けられている。それは、生徒どうしだけでプロジェクトチームになっていく準備である。高2になると、iPadも使いながら、自分で興味のあるテーマについて調べて、英語でプレゼンする。それこそプロジェクト学習が行われるのである。チームワークやプレゼンができるための対話の方法のトレーニングは、中2では一見すると構文を使えるようにしているようにみえるが、徹底した言語記号論的手法が活用されている。

20世紀型の英語の授業で、文法と呼ばれるものは、構文論(統語論)だけの話だった。しかし、東京女子学園のワールドスタディで学ぶ文法は、PBL型のシステムを生徒が通過することによって、言語の総合力を身につけていく過程なのである。ステージ1からステージ3のサイクルは6年間同じである。

しかし、当然、テーマやコンテンツや生徒の自立的学習度はアップテンポに加速していく。英語に限らず、言語を活用する場合、感情も意志も思想もアクションもみなつながっていくのは、考えてみれば当然であるが、そのつながりを捨象して、文法=構文としてしまったところに日本人の英語能力が伸びなかった原因があるのだろう。

東京女子学園は、そのことに20世紀末にすでに気づいていた。生徒の未来を見据えたとき、使える英語、議論できる英語、表現できる英語、思考できる英語・・・を生徒がいかに身につけることができるのか、それは試行錯誤、共同作業の歴史だった。そして今も進化し続けているのである。

 

 

 

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