富士見丘 LINEと静岡大学とコラボ

富士見丘学園は、21世紀型教育を実現する1つの足がかりとして、SGH構想にチャレンジしている。このチャレンジの中で、起こっている教育イノベーションは、多様であるが、1つはPBL(プロジェクト型学習)を活用したグローバル教育。

吉田晋校長は、グローバル教育というからには、教師は、生徒とともに世界に直接つながるリスクテイカーでなければならない。そしてPIL×PBLというのは、そもそもIT企業のイノベーションを生み出す時の手法として大いに発展してきたのであるから、私たちはそのようなIT企業と連携しなければならない。

しかもそのようなIT企業はネットワーカーだから、教育とコラボしようとすると、必ずその道の達人にアクセスし協力を仰ぐ。今回もLINE株式会社という4億7千万人のインフラになっているSNS企業と静岡大学は協力している。

それだけの会員がいるということは、市場として健全であることをすでに証明している。ただ、インフラは自動車も上下水道もそうだが、使い方を間違えると交通事故や交通渋滞はおこるし、上下水道汚染などもおこってしまう。LINEというツールを正しく使い、世界とつながり、視野を広め、問題意識を深めて探究活動を行っていくのは富士見丘の教育活動と共鳴するところである。

かくして、富士見丘の教育理念とLINE株式会社と静岡大学の教育工学の塩田先生の想いがシンクロして、SNSを活用して楽しくコミュニケーションする方法をめぐるワークショップが始まった。

IT企業はブレイクスルーための会議はお手の物だから、「トリガークエスチョン→個人ワーク→PIL→PBL→プレゼン」という小さいサイクルを何回も回転させていくワークショップは、実にシームレスに自然に展開した。

トリガークエスチョンは、複数枚のカードを並べ替える個人ワークから始まる。まずは、自分が言われたら嫌だと感じるフレーズを嫌な順に並べるという投げかけ。

与えられたカードには、「まじめだね」「個性的だね」「おとなしいね」・・・など一見するとネガティブフレーズではない。しかし、「個性的だね」というフレーズなどは、場合によっては言われたくないと生徒は反応。

個人ワークの後、みんなはどう思ったか情報交換がはじまる(PIL×PBL)。そして、どんな話し合いになったかプレゼンする。このサイクルが何回も繰り返されていく。そのたびに、トリガークエスチョンは少しずつ複雑になっていく。

このトリガークエスチョンのシナリオは、おそらく塩田先生のアドバイスがあったと推察する。というのも、ことばが、辞書的な意味のみならず、感情や行動を喚起したり連想に思いはせたりするきっかけであり、それゆえ誤解や理解のギャップが生まれるという発想は、エスノグラフィーやエスノメソドロジーという文化人類学的・社会学的成果であるからである。これは教育工学的には「最近接発達領域」ということになる。

こうした学問的見識とIT企業のネットワークインフラスキルを統合することによって、はじめて教育において情報倫理の無危害原則が実感できる。

吉田校長は、生徒にこう語る。

「リスクテイカー、挑戦するというのがグローバル人材ということだ。グローバリゼーションとITは今ではどちらも欠かせない社会的条件。正しく使えば、恐れることはない。すでに携帯やスマホの持参も認めている。学校では、特別なことが無い限り、朝集めるというルールはあるけれど、正しく使えば、自分の身を互いに守るネットワークにつながっているということだ。

世界につながるコミュニケーションがみなさん1人ひとりの才能を開花するリソースになる。そのチャンスを手に取ろう」と。

かくして、グローバル教育は、グローバル企業であるIT企業とそれをサポートする大学と連携することによって、生徒のソフトパワーを強化する象徴的ケースが富士見丘で展がっているのである。(本間勇人:私立学校研究家)

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