文化学園大学杉並(以降「文杉」)は、いよいよ今年4月高校1年生からダブルディプロマコースを開設する。この開設には、カナダのブリティシュ・コロンビア州(以降「BC」)の教育省との契約によって成り立つグローバルな連携が前提となる。それゆえ、契約が成立し、カナダの教師陣が文杉で教鞭をとれる状況になるまで、公開されなかった。
しかし、今そのすべての条件が揃い、いよいよダブルディプロマ・プログラムが開設されることとなった。今回4月スタートの準備のために、教職員や在校生とミーティングや学びのワークショップを行うために、すでに文杉で仕事を開始しているカール博士(BC教育省のプログラムコンサルタント)とMakiさん(BCプログラムアシスタント)、そしてこのプログラム成立のためのコーディネートに先頭に立って尽力した青井教頭に話を聞いた。by 本間勇人:私立学校研究家
§1 ダブルディプロマ・プログラムの意義とインパクト
国際バカロレアのディプロマが、スイスにあるIB機構によって運営されているように、BCプログラムも、カナダのブリティッシュコロンビア州政府教育省によって運営されている。このことは大変重要で、国単位ではなく、市民社会やNGO単位でハイレベルな教育ネットワークを結んでいることを示唆する。
日本の文科省もグローバル社会において、グローバルな人材を輩出する動きに転じているが、グローバルな人材は、経済において活躍するだけではなく、世界の痛みや問題を解決するグローバルシチズンとしても活躍することを意味しているから、州という市民社会やIB機構というNGO的な組織とネットワークを結び連携することは、グローバルシチズンを育成するモデルの一つになる。
その意味で、文杉のBCプログラムとの連携の試みは、グローバルリーダーやグローバルシチズンという21世紀社会が最も価値ある人材として必要としている人間力を育成するグローバルモデルを日本の教育の中でつくる大きなインパクトがある。
§2 BCカリキュラムと連携する文杉のグローバル教育の歴史的な意味
BC州のディプロマはドッグウッドとも呼ばれ、これはBCカリキュラムを修了の認定を意味をする。この感覚は、欧米の高校の卒業システムに共通する感覚。
日本は高校を卒業するというのは、所属していた学校を卒業することを意味する。もし日本の教育改革が本当にグローバル教育を行うとしたら、このグローバルな卒業の感覚を取り入れる必要がある。
グローバル教育は、たんにハイレベル英語や授業スタイルが21世紀型教育であるばかりでなく、進路指導もグローバルな世界に結びつけるチャンネルを拓いたとき、はじめて本物のグローバル教育となるからだ。
そういう意味では、大学入試改革一体型のグローバル学習指導要領改訂作業は、まだまだ国内の領域の範囲内の出来事で、グローバル教育として世界大学ランキング100位以内の大学に拓かれるパスポートが取得されるわけではない。
文杉の今回のチャレンジは、まさにそこに焦点をあてているわけである。だがしかし、このようなBCカリキュラムとの連携ができるには、やろうと思っただけではできない。1989年ベルリンの壁が崩壊して、世界の政治経済が、国際政治経済からグローバル政治経済に舵を切ったとき、英語中心の国際理解教育ではなく、学びや文化もグローバルな交流ができるように積み上げてきた文杉と同様にグローバルな教育を模索していたBC州が出会ったからこそ、今回成立したのだろう。
明治維新のころから国際交流はあるわけだが、今回のグローバルな交流は、1989年以降の世界の大きな変化の波が発端である。そしてBCカリキュラムが最初に中国の大連でオフショア校の契約を成立させた1995年は、その前後にEUが成立したり、香港返還に象徴されるように中国が世界市場に参入するようになったり、世界の政治経済単位が大きく変わった節目でもある。
もちろん、同時に起こったIT革命の波も見逃せない。当時の合言葉は、フェアー、フリー、フラットという3Fだった。この3Fが、さらにグローバリゼーションの波を、超国家化、超個人化、越境化、多様化として大きなうねりにしていった。そして、教育も、この世界とのネットワークの中でグローバルシチズンとして多様な人々といかに共生していけるのか改革が必要となった。
BCカリキュラムは、IB(国際バカロレア)同様、グローバルプログラム修了認定を発行するものであるために、世界というステージでオフショア校を開設していくことができたのである。
もちろん、カール博士が語るように、このグローバルな世界にマッチングする教育や新しい学びを模索するために実施されるようになったOECD/PISAでカナダの各州はトップレベルを証明した。中でもオンタリオ州、アルバータ州、そしてBC州は優れた結果を出した。
実際、BCプログラムのディプロマであるドッグウッドを取得することは、ハーバード大学やブラウン大学、スタンフォード大学、トロント大学、ブリッティッシュコロンビア大学などに進学するパスポートを取得することを意味している。
このシステムをBC州が積極的に世界に広げることになったのは、グローバルな時代それ自体の要請でもあり、文杉もまたこの要請にどこよりも速く動いたのである。大航海時代に開国を迫られたときに吉田松陰らが敏感に行動し、明治維新を開いた人材を輩出していったように、今またグローバルな知識基盤社会に教育を開く挑戦に文杉はいち早く立ち臨んでいるといえよう。