第5回 21会カンファレンス「教育セミナー」レポート

10月25日(日)東京女子学園で第5回21会カンファレンスが開催され、保護者や教育関係者対象の教育セミナーと、子どもたちが体験する思考力体験ワークショップが同時に行われました。5時間半に及んだ教育セミナーの内容をレポートします。  by 鈴木裕之:海外帰国生教育研究家

 

「グローバルリーダーと新テスト」 吉田晋先生(富士見丘理事長校長)

吉田先生は、2020年に予定されている大学入試改革における新テストの意味について語られました。真のグローバルリーダーを育成するためには、従来の大学センター試験のような1点刻みのものから、思考力テストに変わることは必然的な流れである一方で、中等教育の中身についても、従来の知識暗記型から思考力の育成に向かう改革が同時に求められることを強調されました。学校の教育が変わるという点においては、教員全員が改革に取り組む体制が整った私立学校に優位性があり、21世紀型教育を推進できる学校かどうかの分かれ目はそこにかかっているという未来が読み解かれました。

 

「21世紀型教育の哲学」實吉幹夫先生(東京女子学園理事長校長)

實吉先生は、学習指導要領の改訂の歴史を振り返りつつ、未来に向かう中では常に歴史に学ぶことが大切であるとお話されました。私立学校にはそれぞれ設立の理念があり、その理念は哲学的思考の結集であることと指摘されました。21世紀型教育のような新しい動きの底流には、過去の哲学者たちの叡智があるということを強調されました。

 

「新テスト対応の21世紀型教育」伊藤正徳先生(聖徳学園校長)

伊藤先生は、PISAや高大接続会議の流れの中で、21世紀スキルについて解説され、実際に聖徳学園でどのような授業改革に取り組んでいるかについての事例を紹介されました。iPadを利用することで学び合いの効果が発揮され、多様な答えがある授業によって子どもたちの主体性が育まれていることが語られました。

 

「新テストを突破する思考力テスト」清水広幸先生(聖学院副校長)

清水先生は、思考力テストと思考力セミナーを実施することで、学校の授業改革も同時に行ってきた聖学院の事例を紹介されました。動画を再生しながら、生徒の表情が生き生きしていることの背景に、教師がファシリテーターの役割を担っていることに注目されていました。そこでは、アイスブレークから発見思考タイム、そしてシェア体験から新たな問いの探求が生まれるプロセスについて解説されました。また、思考力テストの評価となるルーブリックの一例を紹介し、思考力テストが新しい評価と密接に関係していることを語りました。

パネルディスカッション「4技能の英語教育の最前線と新テスト」

白鶯訓彦先生(富士見丘教頭)×青井静男先生(文化学園大学杉並教頭)×高橋一也先生(工学院英語教諭・21会教育総合研究所所長)×菅原久平先生(八雲学園高等部部長)

高橋一也先生

モデレーターの高橋先生からは、TOEFLやIELTSなどの英語テストで求められている力と、従来文法に重点を置いてきた日本人の英語力とのギャップについて問題提起がありました。それを受けて、英語の授業時間数を多く取っている私立中高で、どのような英語教育の特色を出しているのかという観点から各校の取り組みが紹介されました。また、海外の高校との連携や、海外大学進学のサポートなどについての事例も豊富に紹介されました。

白鶯訓彦先生

青井静男先生

菅原久平先生

 

「ICT教育で新テストを突破する」品田健先生(桜丘副校長)

品田先生は、ICT教育というのが、単にiPadやタブレットを使うということに限らず、創造的な学びの機会を増やすためのコンピューター利用もまた、ICT教育になり得ると指摘されました。子どもたちが活躍する未来は、AIが人間の多くの技能をやってしまうような時代。そんな予想もつかない未来を考えるためには人間の存在意義まで考えていく必要があります。そのためのツールが例えば iPadなのだと語りました。

 

パネルディスカッション「教育改革のモデルとしてのSGH指定校」

長塚篤夫先生(順天校長・高大接続システム改革会議メンバー)×江川昭夫先生(佼成学園女子教頭)×大島規男先生(富士見丘参与・SGH推進リーダー)

大島規男先生

モデレーターの大島先生が、プロジェクターに写真を投影するところから、ディスカッションは開始されました。最初に示された写真はSGHの活動として順天の生徒がフィリピンの貧困地帯に行って撮ったもの。昨年撮ったという1枚目の写真では記念撮影のようになっていたものが、今年撮った2枚目では、現地の言葉を使って、現地の子どもたちとともに活動をしている様子が示されていました。その2枚の写真に生徒たちの成長の跡が見られると長塚先生が解説をされました。

長塚篤夫先生

続いて示された写真では、佼成女子の生徒がスリランカでイスラム教徒の女子生徒とともに撮った写真を江川先生が読み解きました。キリスト教教会、イスラム教のモスク、ヒンズー教寺院、仏教寺院、と4つの宗教の施設を回り、宗教に対する見方を深めようとする佼成女子のSGHプログラムが紹介されました。

江川昭夫先生

 

さらに、国内の事例として、富士見丘の生徒が慶應義塾大学理工学部の研究室と共同研究している写真を大島先生が読み解きました。そこには大学生と富士見丘の生徒が写っていますが、大学の先生は写っていません。探求型の学びを生徒にしてもらうためには、教師が教えるという役割から脱却する必要があることが強調され、今後の入試改革における多面的な評価において、子どもたちの成果物が評価対象になることで、教師の役割が変わるであろうことが示唆されました。

 
 

「SGTとは」佐野和之先生(かえつ有明教育統括部長)

 

佐野先生は、SGT(スーパーグローバルティーチャー)の一つのモデルとして、1枚の写真をプロジェクターに映し出しました。そこにはアクティブラーニングを行っている同僚の金井先生の姿があり、その手法を一例として紹介されました。何かを教え込もうとするのではなく、関心や好奇心が育つための「安心・安全の環境」を作り出すこと、また、思考力を発揮するベースには共感的コミュニケーションがあることを強調し、教員が自らの存在に磨きをかけ続ける必要があると語りました。

 

「21世紀型教育の"Soul"」大橋清貫先生(三田国際学園学園長)

大橋先生は、これからの社会の変化とそのインバクトが非常に広範なものになることを指摘した上で、21世紀型教育への流れは当然で、むしろ、同じ志を持つ21会校でも、21世紀型スキルのどこに重点を置くかということについてそれぞれの特色を打ち出していく段階に入っていることを強調されました。そして、三田国際ではそのようなスキルを「共創」などといった12のキーワードにまとめ、各授業で実践できるように教師全体が研修に取り組んでいるとお話されました。また、日本語の授業でも英語の授業でも、本物のアクティブラーニングがいかに生徒たちに活発な議論を誘発しているかということが動画で紹介されました。

 

「学校改革としての21世紀型教育」高橋博先生(聖パウロ学園理事長学園長)

高橋先生は、かつて世界に誇れるものだった日本の教育が最近ではあまり精彩がないことに触れ、その要因として、国の教育費負担が先進国の中で低い位置になっていることや、現在の受験制度の結果として学びが知識偏重になっていたことを指摘しました。朝から放課後までずっと発言せずに机の前に座っているだけでも、テストで点数を取れば良い成績を取れるなどということは諸外国ではあり得ない。21世紀型教育の根幹には、物を覚えさせることではなく、「人を育てる」という基本が据えられるべきであると強調されました。

 

「新テストそして2045年を見据えて」平方邦行先生(工学院校長)

平方先生は、子どもたちが大人になる頃に人間を脅かす存在になると予想されている人工知能の未来、AI革命の実現可能性に触れました。人間の存在そのものが問われるような時代を生きていく子どもたちにどのような教育が必要なのかといった問題提起をされました。世界ランキングにおける日本の大学の位置が取り沙汰されているが、先進国における教育の動きでは、ブルームのタキソノミーやヴィゴツキーの教育理論がベースにあることを指摘し、従来の学習指導要領の枠内で考えていては、世界のスタンダードに届かないこと、だからこそ私立学校に可能性があるということを強調されました。

 

「3つの改革に対応する新模擬テスト」山下一氏(首都圏模試センター取締役)

首都圏模試の山下氏は、偏差値だけでは子どもの力を測ることはできず、多様な指標が必要であると強調されました。すでに中学入試では、思考力テスト、PISA型入試や適性検査型、英語入試など、多様な選抜方式が数多く出てきており、首都圏模試でも偏差値とは別の指標を開発中であることを発表されました。かえつ有明と工学院、それに聖学院が公表している評価コードをベースにした思考コードを作られたということです。この思考コードを応用して、子どもたちの未知の可能性や才能を見つけることに役立てたいという思いを語りました。

 

「未来から出現する教育」渡辺眞人先生(共立女子前校長・21会顧問)

渡辺先生は、これからの子どもたちに必要な力とは、いかなる状況においても、自分の持っている力を置き換えて問題を解決していく力であると指摘しました。諸外国と協調しながら進んでいくことがますます求められる社会においては、歴史に学びながら情報リテラシーを磨き、様々なリスクに備えつつグランドデザインを描くリーダーが求められること、そしてそれを可能にする教育のヒントが21世紀型教育にあると力強く語られました。

 

 

 

 

 

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