「第2回 21会中学入試セミナー」レポート

2016年2月21日(日)聖学院にて、21会中学入試セミナーが実施されました。教育関係者や中学受験生の保護者など150名以上のご参加があり、本セミナーのテーマである、思考力等を問う新テストへの関心の高さがうかがえました。
各校の入試や教育の取り組みについて、多くのデータや写真を用いて紹介されており、学生である私にも具体的にイメージしやすいセミナーでありました。この記事では、3時間半に及んだセミナーの概要をお伝えします。   by 山田花:21会リサーチャー(早稲田大学教育学部2年)
 
セミナー開始に先立ち、会場校である聖学院の戸邉校長先生がご挨拶をされました。
タイの貧しい村で暮らしているとき、欧米の人たちが大勢その村に立ち寄るのに対して、日本人がほとんど訪れてこないことを残念に感じていたということです。そこには人と人とのネットワークという何にも代えられない貴重なものがあるのに、多くの日本人がそれに気づかずにいる。そういう危機意識のもと、教育が変わらなければいけないという強い思いを語ってくださいました。その気持ちが会場に静かに広がり、21会中学入試セミナーは始まりました。
 
 
 ①14:00~14:45「激動の2016年中学入試から2017年を見通す」
北一成(首都圏模試センター 取締役 教育情報部長)

まずは首都圏センター取締役の北氏より、2016年度入試の傾向を踏まえ、今後の入試傾向についてご講演をいただきました。
 
2016年度入試で受験生が増加した学校の多くが、推薦や適性検査型、帰国生や思考力、ポテンシャルテストなどの新タイプのテストを導入しています。これは、2020年度の大学入試改革を見据え、そこで問われるであろう「思考力」「判断力」「表現力」「英語力」を育めるような学校が注目されているからだということです。また、偏差値の高さだけでなく、それまで身につけてきた個性的な能力や意欲を評価する学校を、保護者や生徒は選ぶ傾向にあるということでした。
音楽や芸術、スポーツといった分野でも国際的に活躍できる人材が注目されるにつれ、教育も21世紀型へと変化し、入試も多様化していきます。子どもが楽しく学べ、そうした才能を育ててくれる学校がますます選ばれるようになるだろうと、北氏は強調されました。
 
②14:50~15:20「2020年を想定する合科型論述テストの手ごたえ」
 児島博之(共立女子校長)×金井圭太郎(共立女子広報部副主任)

次に、2016年度入試で「合科型論述テスト」を実施した共立女子学園の児玉校長、金井広報副主任のトークセッションがありました。「合科型論述テスト」とは、理科や社会に関する資料や文章を読み取り、知識や思考と結び付けて表現したり自ら問題を作ったりといった、アウトプットをより重視した共立女子学園独自のテストのことです。

このテストは、2020年の教育の変化を見据え、知識や技能が少し不足していても「思考力・判断力・表現力」に富む受験生、あるいはその「伸びしろ」のある受験生にチャンスを与えることを目的としています。「特別教養講座」という、教科横断的な講義やフィールドワークが自主的に行われている伝統を持つ共立女子学園だからこその取り組みでもあるといえます。こうした思いに共感した生徒や保護者の受験が非常に多かったことが、「合科型論述テスト」の合格者のうちほとんどの生徒が実際に入学をしたことからわかります。「大学入試に必要な教科だけではない学びを目指す」とおっしゃる児玉校長と、そのために新テストの考案や採点の苦労を厭わない金井先生の情熱が、強く伝わってくるトークセッションでした。

③15:25~16:25 パネルディスカッション

        「2020年大学入試を突破する新女子校モデル」 

 コーディネーター:山下一(首都圏模試センター取締役統括マネージャー)

 パネリスト:大島規男(富士見丘教育参与・SGH推進リーダー)、辰巳順子(東京女子学園校長補佐)、菅原久平(八雲学園高等部部長)、窪田 淳(文化学園大学杉並英語科主任)

続いては、21会校であり、新たな取り組みを進める四校の女子校の先生方によるパネルディスカッションでした。

四校に共通するのは、共創型社会の理想と、C1レベルの英語を習得することを目指すということです。共創型社会とは、従来の縦割り式頭括型の社会とは違い、個人が自身のスキルや感性を生かして、コラボレーションしあう形の社会のことです。こうした社会では、必要に応じてメンバーは入れ代り、ネットワークでつながっていれば、世界中の人と仕事ができることになります。

この共創型社会において必要なのが、C1レベルの英語です。これは、適切な言葉とタイミングで議論に参加することができる程度の英語力を指します。ディスカッションでは、C1レベルの英語力を身に着けるために各校が6年間かけて行うそれぞれの実践が紹介されました。

またそうした社会の中で自分を表現するためには、従来の知識暗記だけでなく、さらに上の、知識同士をつなげたり、自己の内面を表現したりする力が必要だという見解でも一致、そのためのアクティブラーニングを中心とした取り組みを紹介しました。

④16:30~16:50「これからの男子校のカタチ」

 清水広幸(聖学院副校長)

 続いては、「ホスピタリティーNO.1」と紹介された聖学院の清水副校長がお話しされました。内容は主に、学校改革、ものづくり思考力テスト、目指す男子教育についてです。学校改革では特にアクティブラーニングを取り上げ、「授業は生徒のもの」「教員はファシリテーター」「教室は安心と信頼感のある場所にする」という視点のもとに、応用・分析・評価・創造力を求める授業実践を紹介されました。

また、聖学院独自の入試である「ものづくり思考力入試」については、その狙いを表現力・工夫・クオリティ・言語表現力・分析力・解決能力を見て、能動的に学ぼうとする力を評価することだと説明されました。

 

プライドがあったり、時に頑固で言語表現が苦手な傾向にあったりする男子生徒たちを相手に、自己肯定感を与え、他者のために自分らしさを生かしていく教育を目指すことが聖学院のオンリーワン教育の在り方です。清水副校長は生徒たちに多くの体験学習をさせることで、自発的な学びへとつなげていくという方針も力強く話されていました。

 

⑤16:50~17:10「21世紀型教育の根っこ」石川一郎(かえつ有明校長)

最後に、『2020年の大学入試問題』という著書を出したばかりのかえつ有明石川校長がお話しされました。自分の学校でも全校生徒を相手にアクティブラーニングをしてしまうという石川先生は、早速会場にいる保護者と教育関係者にアクティブラーニングの体験をしてもらうことから講演を始めました。

 

思考のプロセスを評価するという思考力入試についての話では、その入試プロジェクトの牽引者で、会場にいた教育統括部長の佐野先生を壇上へと招き、佐野先生からも説明がありました。実際にどのように入試問題や評価が作成され、どんな議論があったのかという貴重なお話を具体的に聞くことができました。そもそも思考力を育むためには、話し、聞き、まとめ、表現し、考え直すというプロセスを繰り返すことが必要だと石川校長はおっしゃいます。よってかえつ有明では、普段の授業でも、芸術を題材にしたり、答えのない哲学的な問いを用いたりして、アクティブラーニングを実践します。

また、共感的な姿勢で相手の話を聞いたりすることで、話しやすい聞きやすい環境を作っています。入試でも、最終的な表現だけを問うのではなくて、そこに至る過程、アクティブラーニングの中で、どのように変容するかということも問いたいということでした。

 

入試は、大学に入るためのものから、大学で学ぶための準備をするものになります。そのとき必要なのが、C1英語やクリティカルシンキング、哲学を用いたアクティブラーニングです。社会の変化に合わせて、必要なところは教育も変わり、入試も変わっていきます。従来の入試の序列を崩していくチャンスが、今なのだと石川校長は穏やかに、しかし熱く語られました。

 

 

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