今年の夏、東京女子学園は、キャンパスの一部の空間をリフォームしました。学内で進んでいる「地球思考ルーブリック」の作成とそれに基づいた「深いアクティブラーニング」を実現する学びの空間をデザインするためです。
PBL型の「深いアクティブラーニング」は、知識・理解・応用を中心とする≪lower order thinking≫を超えて、創造的思考に向かう≪higher order thinking≫をフルに展開します。そうなると、脳だけではなく、末梢神経にいたるすべての脳神経系の循環が起こります。知性・感性・身体性という総合力をアウトプットする空間が必要になるのです。(by 本間 勇人 私立学校研究家)
OJスペースはマルチプルスペースで、まだ虚空間ができたばかりですが、近い将来、教師も生徒もいっしょになって、議論したり、ランチをつくって対話をしたり、もちろんアクティブラーニングなどの学びの空間になります。
なぜOJスペースと呼ぶのかというと、これは生徒たちが名づけました。TOKYO JOSHIのoとJからとって、open とjointの意味を付加しました。また、東京女子学園は東京エリアの中心にあるから座標の「0」の意味も重ねているということです。そして、多様な関数関係を結び付けていくという数学的発想が広がる場でもあるわけです。
今後どのように具体的に展開していくのか楽しみです。
訪れたときは、梅香祭準備のシーズンで、図書館≪PLUM≫(梅は同校のシンボルです)では、図書委員がかいがいしく準備をしていました。この図書館は一面ガラスの壁で囲まれていて、インサイドとアウトサイドの相互浸透性がコンセプトになっています。
つまり、空間とは壁や屋根のような物質ではなく、そこに住まう人間の精神という虚数空間であるという岡倉天心の発想があります。明治以来ずっと欧米の建築家や芸術家に影響を与えた≪私学の系譜≫の発想です。
(オープンな空間の中に静かに読書する精神がやわらかく生成されます)
図書館を一歩外に出ると、これもまた不思議な空間が広がります。
上記の写真のような空間は、オシャレな雰囲気ですが、実はそれだけではありません。ここにはアフォーダンスという、空間のアクティブな働きかけが仕掛けられています。この場所に生徒が集まると次のようになります。
親密な対話空間をデザインする仕掛けが埋め込まれているのです。アクティブラーニングの空間デザインの真骨頂です。
職員室の前の廊下の空間は、床に仕掛けがあります。木目の学びのスペースと歩く廊下の部分には、柔らかい境界線があります。これによって、学ぶ側のインサイドとアウトサイドでスイッチの切りかえができるようになります。このスイッチの切り替えが没頭状況(フロー体験)を作るわけです。
それでいて、教師との対話もオープンにジョイントできるわけです。
そして、なんといってもキャンパスの空間は、生徒自身の作品を展示するギャラリーでもあります。創造的思考の成果を互いにリスペクトしながら振り返ることができるのです。
リフォームは不易流行の流行の部分ですが、不易の空間があってこそです。不易の空間とは、上記写真のような空間をつなぐ入口出口の空間です。茶室の躙り口さながらのスペースで、ここを通るたびに視界がいったん狭くなり、通り過ぎると空間が広がります。つまり、世界の変化を感じる仕掛けになっています。
世界を変える、創るという生徒1人ひとりの創造的精神を豊かにすることが、未来を描いて貢献をする女性を輩出することになるのです。