Created on 10月 24, 2016
和洋九段女子のPBL型アクティブラーニングは、3つのscaffoldingがしっかりと形成され、その上に≪higher order thinking≫が展開されていきます。そしてその高次思考の重要なポイントは、「コペルニクス的転回」の仕掛けだったのです。
<コペルニクス的転回>
1) イメージ
宿題などで創造的思考ができる「足場」をつくって、授業が始まるや「30年後の社会はどうなっているのか」まずは1人ブレストとなるわけですが、ここは、生徒一人ひとりが、イメージを膨らませる重要な段階。勝手気ままな想像のように思えるかもしれないが、イメージを膨らませる足場がしっかり準備されているから、論理的な思考とイマジネーションは交差している。生徒がすぐにフロー(没入)状態になるには、考え込むのではなくイマジネーションの広がりがポイントなのです。
2) 事実
次に30年前の社会を振り返る対話が、水野先生と生徒の間で行われます。社会を支えるルールに焦点が与えられますが、それは現在ではすっかりなくなっているものもあります。つまり、制度設計は社会の変化によって変わります。
3) コペルニクス的転回
過去の事実にしろ、未来社会のイメージにしろ、実は現在のいまこで生活している自分の目で見ているものばかりです。グループでディスカッションをしているうちに、その見方が変わります。
しかし、自分が変わるだけではなく、社会のルールも変わることを認識するのです。1人ブレストとかグループブレストとか、「ブレスト」という言葉をキーワードにしていることからも、コペルニクス的転回=クリティカルシンキングが埋め込まれていることは了解できます。
今回は、自分が変わることと、時代が変わることの相関性についてはディスカッションしませんでしたが、いずれ、このようなPBL型授業が進行していけば、多様なものの見方をするようになった「自分軸」と時代の変化の関わりに気づくはずです。
天動説から地動説にパラダイムシフトすることによって、政治経済、自然科学、価値意識など大きな転換を果たしたように、自分と社会の変化の関わりは、大きな価値の転換に導くでしょう。
和洋九段女子のPBL型アクティブラーニングは、キャリアデザインも行われているということだと思います。
<学びの空間>
このように、≪higher order thinking≫のトレーニングのみならず、成長思考と訳されるGrowth Mindsetやものの見方を180度転回させてしまう価値の大転換まで生まれるPBL型アクティブラーニングを可能にしているものは、実は学びの空間のデザインによるところが大きいのです。
1) リアルスペースとサイバースペース
1人ブレストやディスカッションのシーンは、自問自答や対話を通して考えるシーンですが、同時にiPadでサイバースペースに入り込むし、フュ―チャールームの複数枚の大画面に投影されたサイイバースペースは、不思議な空間です。リアルな空間とサイバーな空間が交錯して、非日常空間が構成されているかのようです。
ここで重要な生徒たちの気づきは「可視化」ということです。自問自答をアウトプットして大画面に投影して可視化することによって、シェアができるのです。実はこのシェアは、フュ―チャールームだからこそ一瞬のうちにできます。一人ひとりが自分の考えをiPadに打ち込むと、全員の表現が一斉に投影されます。
まるで、リアルスペースとサイバースペースの交差が、時間をショートカットするかのような錯覚に陥りますが、それは錯覚ではなく事実です。今まで答案を集めて、印刷して共有するまでにどれだけ時間がかかったか計り知れません。それに、面倒だから、代表者の表現を共有するだけのケースが多かったのではないでしょうか。これでは、一人ひとりの才能を開花できません。
2) スタジオ
プレゼンする時は、スタジオに早変わりです。大画面に投影されたものを背景にスピーチする雰囲気は、あのTEDさながらです。プレゼンテータ―も凛として話します。聴く側も真剣です。話すとは考えることです。聴くとは考えることです。でも、それはそのような脳の働きを刺激する空間がデザインされているから可能なのです。
3) アフォーダンス
フュ―チャールームは、ICTの環境が先進的であるばかりか、机も可動式で、チームを作るときも個人で作業する時も、自由自在です。あるときは、1人集中して自問自答し、あるときは友人と対話をして、多角的に考えます。あるときは、大画面が映画館のように度迫力の映像を流します。あるときは、スタジオに切り替わり、TEDよろしくプレゼンに燃えます。そして聴く側は賞賛します。
これらは、普通教室ではなかなかできません。なぜでしょう。空間がファシリテーションしてくれないからです。PBL型アクティブラーニングは、教師やスタッフがファシリテーターになるだけではなく、時空もファシリテーションするのです。
空間や時間が思考を促し深めていくという技術が、実は建築の世界やアートの世界ではよく使われます。心理学では、この時空に埋め込まれた仕掛けの作用を「アフォーダンス」と呼んでいます。
水野先生のPBL型授業はかなり緻密に計算されて作られています。たいへんな作業ですが、実はこれは空間をスタジオと見立てれば、リハーサルということになります。リハーサルのないコンサート活動はありません。リハーサルのないメディア芸術祭もありません。教室は学びのアート空間です。であれば、リハーサルがあるのは当然です。
リハーサルの出来が、本番の学びを成功に導くカギです。リベラルアーツ・ルネサンスとはどうやらバックヤードとか舞台裏が極めて重要だということでしょう。
そして、どんなパフォーマンスも終了したら振り返りをします。水野先生は、授業終了後、中込校長と新井教頭と3人で、リフレクションをしていました。PBL型授業への挑戦は、教師どうしの同僚力が欠かせません。教職員一丸となって21世紀型教育改革に取り組む熱い意気込みが伝わってきました。