聖学院のSGTは知のアーティスト。

聖学院は、21教育企画部(部長は児浦先生)を中心に、21世紀型教育を推進している。特にPBL(プロジェクト学習)の授業への応用を進める教師(SGT:スーパーグローバルティーチャー)は、どんどん増えている。

聖学院のSGTは、メディアでも頻繁に取り上げられる「思考力入試」を開発しているが、そこにはふだんのPBL型授業のエッセンスがあり、言うまでもなく、そのエッセンスを普段の授業に活かしている。今回は、普段のPBL型授業のブラッシュアップの研修の取材者及びアドバイザーとして参加した。by 本間勇人 私立学校研究家

(聖学院のSGTは、高校の体育祭終了後、疲れているにもかかわらず、自主的に研修を行うほどパワフル。)

聖学院SGTは、PBL型授業の質向上のために、3つの方法をとっている。

1つは、創造会議。アイデアを出し合ったり、データエビデンスで戦略をたてたり。2つ目は、プロトタイプデザイン会議。思考力セミナーの実施に向け、思考力テストの対策講座として、PBL型の授業で行うセミナーを企画。ふだんの授業では、1人で授業をデザインすることが多いが、チームでセミナーをデザインすることで、互いの考え方やスキルをシェアでき、自分の授業に持ち帰ることができる。そして、3つ目は実践即理論構築研修。ケースメソッドで教育理論と結びつける研修。実践と理論が結合しなければ世界標準は絵に描いた餅になるからである。今回の研修はこれにあたる。

まず、アイスブレイクから始まった。21教育企画部では、随分前からメタルーブリック&ローカルルーブリックが作成されていて、教師及び生徒の学びの構造が緻密にできあがっている。だから、その中で自分が大切にしている学びの項目は何かリフレクションして、まずは3つに絞る。そのための簡易ジグソー法的なペアワークが行われた。

最終的には、3枚のポストイットに、それぞれに気になる学びの項目を1つずつ書き込んだ。とりあえず、各人持っていて、次のプログラムに進んだ。

次は、数学科の本橋先生(数学科主任)が、在りし日の1時間の授業について<7分間>で語り、その場で即興的に波部先生(数学科)が、同時にフローチャート化していく。本橋先生は、授業について語ることは予め決められていたが、そこから先はすべて即興。

ある意味無茶ぶりにも近いスクライブ(転写)を波部先生は担ったわけだが、柔軟に対応し、そのフローチャートに従って、本橋先生の話を再現プレゼンをした。本橋先生自身が自分の1時間の授業を<7分間>に圧縮して語る。そして、それをフローチャート化して、再び波部先生が語る。<置換操作>の中の<変換スキル>を活用するリフレクション。変換の連続がリフレクションループを生み出す。

そして、リフレクションループは止まらない。今度は、伊藤豊先生(国語・高等部長)、伊藤大輔先生(英語)、宮先生(理科)のチームが、そのフローチャートに従って、生徒の学びのスタイルや空間のフローチャートを抽出していく。個人ワークだったり、PILだったり、PBL手法だったり、またそれらがリニアで流れれていくのではなく、そこにもループが生まれていることを発見する。

ポイントは数学の先生以外が、数学の先生の授業を分析していくという協働ワーク。<変換スキル>によるリフレクションループはまだまだ続く。

今度は、伊藤隆之先生(美術科主任)、日野田先生(社会科主任)、内田先生(技術科主任)が、授業フローチャート、学びのスタイルと空間のフローチャートにしたがって、コンピテンシーのフローチャートを創っていく。2分で話し合いながら転記していくインプロ手法。脳内神経伝達物質が溢れ出る。これもまたアクティブブレインベースのPBL。やはり、数学科の先生以外がデザインしていくところがポイント。

これらのリフレクションループ=7分間ナラティブアプローチ×授業のフローチャート×学びのスタイルと空間フローチャート×コンピテンシーフローチャート>のあとにアイスブレイクで行った各人3枚のポストイットをホワイトボードに貼っていく。今回の授業では、自分が最も興味のある学びの項目のうちどれが使われていたか、使われていなかったかを検証するためだ。

なんと、本橋先生の数学授業は、参加している先生方が重要だと思っている学びの項目(メタルーブリックの項目)の71%が埋め込まれているということがシェアできた。児浦先生(数学科:21教育企画部長)による全体俯瞰のリフレクションループがさらに進行した。これでリフレクションループは6回循環したことになる。そして、ループは拡散思考から収束思考へと上昇気流に乗る。

今度は、今回の授業の中に含まれていると判断した<自己開示>と含まれないとされた<創造性>の関係について、3つのチームに分かれて、ディスカッションすることになった。なぜこの2つか?それは、ポストイットを貼っている時に、その2つのキーワードのポジショニングに、アレッ?という声がいくつかでたからである。このアレっ?とかアアーとかの<気づきの声>こそ伊藤豊先生が大事にしている<最近接発達領域>を開くサインの可能性が高い。

2分間ディスカッションの後、プレゼン。<自己開示>と<創造性>の関係性が確認され、今回の授業では、行為としての<自己開示>と潜在的可能性としての<創造性>が存在していたことが語られた。7つ目のリフレクションループが行われたわけだ。

しかし、ループはまだまだ止まらない。「ところで、これまでみんなで表現したり議論したり分析したりしてきた行為は何を意味するのか?」折り返してさらに俯瞰してみることにした。こまめにモニタリングは必要だ。リアリスティックリフレクションアプローチということ。

まさにリフレクションは、歩いてきた道のりを振り返って眺める行為であるからだ。8つ目のリフレクションループは、ワイガヤとなった。<置換操作>は、<変換スキル>から<転換スキル>にジャンプした。

授業の構造とその構造を通してのさらなる構造。構造を構造化する構造の可能性を見える化するワークだったのではないかと。ここまできたところで、このような授業の効果はいかなるものかさらに振り返った。9つ目のリフレクションループは、理想を現実化できるか、理想即現実はいかにして可能かというシビアな議論を軽やかに語り合う瞬間を迎えたのである。

そして10番目のリフレクションループは、全体メンバーでの<対話>となった。それぞれの教科において、20世紀から21世紀にかけて、言語観、美学観、建築観、ナノレベルの発見、価格決定の方法、無限の概念の重要性などどんな歴史的転換がなされたのかシェアされていった。

各教科の独自性、聖学院の学びの独自性。それでいて教科越境型の世界標準の学びの構造。これらを、日々の実践を通しながら理論としてデザインしていく聖学院のSGTは学習する組織を形成する知のアーティストチームだったのである。

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