Created on 6月 4, 2018
2018年5月27日、21世紀型教育機構は富士見丘学園において、プレ「グローバル教育カウンシル(GEC)」と称した加盟校の評議会を開催しました。この会は、教育にかかる根源的な問いを参加者が追求し、新たな教育を創発・発信・実現しようという目的で実施しています。したがって、技術や情報、ノウハウを伝えることを目的とした受動的なセミナーではなく、参加者のディスカッションワークショップ形式で実施しています。(株式会社カンザキメソッド代表であり、21世紀型教育機構リサーチフェローでもある神崎史彦氏に取材記事として寄稿して頂きました。)
特に注目すべきは、加盟校の先生方だけでなく、生徒も参加していることです。21世紀型教育機構加盟校での学びをもって未来を切り開くのは、生徒にほかなりません。つまり学びの恩恵の所有権は生徒にあり、先生方のものではありません。この会は生徒には学びの主体者として議論に参加してもらい、教育をともに創ろうという21st CEOの意志表示でもあります。
(写真左上:平方邦行先生、右上:吉田晋先生、左下:大橋清貫先生、右下:石川一郎先生)
会の冒頭で、全体コーディネーターを務める平方邦行副理事長(工学院大学附属)は、生徒とともに教師たちも変容することの重要性を語りました。私立学校はその学びの先進性と独自性を意識し、スピードをもって時代の変化に対応することが必要だと述べ、GECの意義を参加者と共有しました。
第Ⅰ部は吉田晋理事長(富士見丘)、大橋清貫副理事長(三田国際学園)、石川一郎理事(香里ヌヴェール学院)によるキーノートスピーチ(全大会)でした。
吉田理事長は、正解がない問いを自ら導く力を育むことが21世紀型教育の大きな目的だといいます。日本の国力にかかわるゆえに、暗記力に頼る教育に疑問を抱くとのこと。よって、世界で活躍する日本人を輩出するためには高大接続改革や教育課程の改訂が欠かせませんが、特に英語4技能や多面的評価においては国内の議論が混迷を極めている状況であることを懸念していました。こうした中で、21st CEOの加盟校では、生徒たちの夢や希望が広げられるよう、満足が行く社会を創っていこうと、決意を熱く語りました。21世紀は、生徒の皆さんの時代であるからと。
大橋副理事長(三田国際学園学園長)は、高大接続教育の未来を語りかけました。世界や実社会の問題に向き合うためには、分析・仮説・実証・説得とともに、批判的思考から創造性を発揮するという「創造的破壊」のマインドを養うのが21st CEO加盟校であると述べました。
また、大学選択についても、各種模試の偏差値ではなく、イノベーティブな学び、コンピテンシー、PBL/PIL、アカデミズム、充実したICT環境、思考力入試の実施といった、21st CEOが実践している教育が行われている大学を選んでほしいとのことでした。
石川理事(香里ヌヴェール学院学院長)は、「PBL(Project Baced Learning)100%」を宣言しました。PBLにはProblem Baced Learning とProject Baced Learningがあるが、どちらと捉えるかが鍵だといいます。AIやグローバル化によって大変になるというとらえ方なら前者、それによってワクワクしたり社会をよくしたいと捉えるなら後者。
石川先生は、不安を煽るのではなく、新たな力を獲得して何かを生み出そうといいます。そのさいにC1言語、つまり単なる会話を超え、複雑な関係性の中で問題を言語的に解決できるところまで成長してほしいと述べました。
第Ⅱ部では、分科会として、ディスカッションワークショップを行いました。テーマは「世界を変える学び」「世界を変える思考力」の2種類。ともに学びにかかる根源的な問いであり、21st CEOがこれからも追い続けるものです。
(上:「学びの再定義」ユースプロジェクト、中:「学びの再定義」教師部会、下:「思考力の再定義」教師部会)
「学びの再定義~世界を変える学びとは?」のワークショップは、教師部会とユースプロジェクト(21st CEO加盟校の生徒)の二手にわかれました。
教師部会は田中歩先生(工学院大学附属)、児浦良裕先生(聖学院)、大久保圭佑先生(聖パウロ)がファシリテーターとして会をコーディネートしました。世界や教育を取り巻く課題、その壁は何かを言語化し、発散したうえで、どういう学びが硬直化した世界を変えるのか。先生方が付箋とホワイトボードシートを前にして、議論を重ねていました。
課題観は現状の学校教育が抱える課題、特にガラパゴスと化した日本の教育に対する疑念や、時代による教育観の変遷や葛藤、未来を支える生徒たちに向けた教育ができているのかどうか、既存の教育が本当に問題なのか、などと、さまざまな議論を展開していました。
しかも、会場では活発な意見交換がなされ、笑い声が絶えません。「これが日常の職員室になると、幸せだ」という声も聞こえ、創発的な思考が満ち溢れる場であったことは言うまでもありません。学びの場には、こうしたコンフォートゾーンを創り、クリエイティブテンションを上げることが欠かせません。
また、学びの主導権を参加者に委ねるといった勇気も大切です。教師はついその主導権を握り続けてしまうものですが、それでは自らが問い続ける学び手は生まれません。その塩梅を熟知しているファシリテーターと、相互の信頼を確信して創発する先生方の関係性が心地よく感じました。
一方、ユースプロジェクトでは、石坂雪江先生(工学院大学附属)の支援のもと、工学院大学附属高校の3名がファシリテーター役として会を運営しました。多種多様な国籍の持ち主が一堂に会し、英語と日本語での対話が行われていました。教師部会と異なるのは、生徒目線で21世紀型教育を見つめている点。これからの未来を見据えたうえで、現状の教育に潜む問題や課題を共有し、それをメンバーが弁証法的にまとめ上げていきます。最初は日常の学校生活に対する疑問から思考が始まりますが、その意義を自分たちで見出し、よりよい教育の在り方を模索する姿が印象的でした。
また、興味深かったのが知性の変容がわかったということです。ハーバード大学院教授のロバート・キーガン氏は、「知性」を順応主義的で指示待ちの「環境順応型知性」、課題を設定し、自分なりの価値観で自律的に行動する「自己主導型知性」、1つの価値観のみならず複数の視点や矛盾を受け入れるリーダーとしての「自己変容型知性」の3種類に分類しています。
会の当初は、環境順応型知性が作動し絵ちましたが、3名の若きファシリテーターと異文化交流を経るうちに、自己主導型知性、自己変容型知性へと知性の段階を駆け上る姿を目の当たりにし、高校生の可能性を感じる2時間でした。