工学院 メディアリテラシーは自分と世界と未来を創る(3)

工学院の図書館は、教科横断的な知の拠点であると思ってきたが、それはまったく表層的な理解であると思うに至った。学校図書館は、日向先生の語るように、独自の情報総合発信基地であり、司書教諭は、この基地を図書委員とコラボして運営する。

さらに、彼らといっしょに、学内のみならず地域の子どもたち1人ひとりにワクワクするような情報をシェアしていくのである。それは有山先生のように専任の司書教諭だから思う存分できるという工学院の教育ビジョンでもあるが、たしかに有山先生は同校の思考システムのプロデューサーの1人なのであると実感。

POPは未来の入り口の空間デザイン

図書委員は、読んで欲しいオススメ本の紹介をいろいろな形で行う。新刊オススメ本コーナーをアレンジもするし、読書感想文風の書評も書くし、POPをつくって、好奇心の覚醒サポートもする。特に、この図書委員のPOPは、人気があり、隣の工学院大学の生協では、新刊書のPOPを借りに来るほどである。

有山先生にとって、このPOP作りは大切な時間である。紹介者である図書委員は当然その本を読んでいるし、感動している。すると、この感動を共有したいという気持ちが自然に生まれてくる。

そして、この気持ちをどう表現するか創意工夫するときに、どうしたらよいのかという「問い」がまた生まれる。次には、この創意工夫を聴いてもらえるにはどうしたらよいのかという「問い」が生まれる。

問いは、学びのアルファでありオメガである。この意味での問いが自分から生まれてくるからこそ、他者とコラボできるのである。

有山先生の図書委員とのコミュニケーションは、このような問かけが彼らから発せられるのを待つやり方である。そして、先生は、問いが生まれる学校図書館のプロデュースもするのである。

もちろん、これは図書委員のためだけでも、教え子の学生のためだけでも、在校生のためだけでもない。彼らが発信した情報を受信するまだ見ぬ人々のためでもある。

それにしてもPOPは、表現スキルの結晶である。有山先生と学生、図書委員の対話を聴いていると、「インパクト」「感動」「わかりやすい」「かわいい」などなどのキーワードが飛び交う。

また、描かれる絵は、シンプルだけれど、それらの情報を凝集していたり、ハッと気づかせるトリガーだったり、いろいろな機能が埋め込まれる。

マインドマップは、情報を広げるだけ広げるが、POPはその逆である。世界をつくるインスピレーション、未来を見通すビジョンの学びの方法としては、そうそう、忘れてはいけない、瞬間的に理解し合える方法としても、とても有効な方法である。しかし、意外にもわたしたちはこの方法を取り入れていない。挿入はするが削除はしない(エコでない。環境工学の発想にもつながる)。

ここに到って、削除という涙をのんでの排架こそ、編集プロデュースの極意であると、腑に落ちた。

(今回のワークショップで、都留文科大の学生のみなさんが制作したPOP。シンボル、メタファ、シネクドキなど各自それぞれのレトリックを活用)

開け「憧れの発達の最近接領域」

有山先生は、「働きかけ」という言葉をよく使う。生徒に指示命令をするのではなく、ファシリテートするという意味で使われているのだと思う。

今回も、都留文科大の学生とのセッションの間に、図書委員もときどきいっしょに参加しているけれど、決していっしょにやろうよという指示命令はしない。ただ、学生にPOPづくりの名人であることを伝えるだけである。すると、自然とPOPに対する自分の想いを語りだす。コミュニケーションが自然発生的に生まれている。

また、セッション横では、OBたち2人がやってきて、なにやら静かに盛り上がっている。軽く会釈し、自分の家という感じでくつろいでいる姿は、トニオ・クレーガーの青春の1ページそのものだった。トマス・マンと萩尾望都をつなぐギムナジウムの雰囲気。なるほど、純文学コードとYAコードがリンクするシーンである。

さらに、有山先生は、都留文科大学のオープンキャンパスに参加して興味を持ったという生徒に、日向先生も来るよとだけ伝えてあった。来たければ来るだろうぐらいの「働きかけ」。果たしてやってきた。清涼な自習室のスペース(お盆休みでいつものように生徒は来ていない)で、たっぷり語り合ったようである。生徒も日向先生も満足度は相当高かったようだ。

 

公共図書館でもよく行っているという「エプロンシアター」を有山先生は工学院に持ち込んだ。今ではすっかり工学院オリジナルのものではないかと思えるぐらい大切な活動。これもPOPと同じように、一着のエプロンとそのポケットから繰り広げられるストーリーは、コンパクトで豊かである。

演じる図書委員と目を輝かせて見入っている子どもたち。この様子に有山先生は、たしかに「憧れの発達の最近接領域」の扉が開く音を聴いているのだろう。

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