戸板中学校戸板女子高等学校(以降戸板)は、2014年に、高校でスーパーサイエンスコースを開設する。そのために理科の先生方は、コンセプトデザイン、科学的発想を生み出す授業デザイン、実験とICTを結合した新しい理科のシラバスの開発など議論している。さらに、ロールモデルもつくり、試行錯誤の準備に余念がない。その画期的理科教育のイノベーションの一端をご紹介しよう。(by 本間勇人:私立学校研究家)
ロールモデルづくり
戸板の理科教育は、もともと実験ベース。それゆえ体験を通して試行錯誤しながら、生徒が好奇心をもち、なぜなにという疑問をいだき、科学的思考を身につけてゆく土壌がある。来年の高校からスーパーサイエンスコースを開設するに当たり、この土壌の初期値を見直し、バージョンアップをしようと、中学の段階の実験から再構築している。
この理科教育の進化の最終目標は、教えない授業。生徒がみずからテーマを見つけ、そのテーマの中から仮説を組み立て、実験と考察を繰り返し、検証していく科学的方法と実践ができるようになること。
となれば、戸板の新しい理科の実験のロールモデルをつくる段階から、生徒に参加してもらう機会があってもよいということになった。2015年からOECD/PISAでもコラボレーション学習の調査が行われる。21世紀型スキルの4Cとは、コミュニケーション、クリティカルシンキング、クリエイティビティ、そしてコラボレーション。
シラバスやカリキュラム、実験プログラムをつくる段階でステークホルダーとの協働リサーチをする戸板の理科の先生方の試みは、まさに21世紀型教育そのものである。
気づき
理科主任の川口亮先生は、「モデルをつくるワークショップの過程で、気づいたことがあります。それは実験のときに、ICTを実験道具と同じように活用する意味があるということです」と。鈴木朋美先生も「タブレットなどのICTツールは、調べたり、データを整理したりするのに便利というだけではないということに気づいたのです」と。
それは一体何か?実際に生徒といっしょにデモンストレーションを行って見せてくれた。
水素を集気びんに集めるところからはじめ、集まったらローソクを出し入れてして、どういう現象がおこるか実験するのだが、その過程をiPadで撮影する。
撮影し終わったら、ビデオをいっしょに再生してみるという一連のパフォーマンス。
そして、リアルな実験体験とICTによるデジタルデータの照合を行った。すると、生徒たちは、リアルな体験のときは、見過ごしている現象を、デジタルデータの再生によって発見して、「あっ!」と気づく瞬間があったのである。
川口先生は「長嶋と王の違いですね(笑)。つまり記憶と記録の違いがはっきりあることがわかります。この違いがあると気づいたからには、今までのように実験の過程の記憶だけに拠って、生徒に何を理解したのか問うても、そもそも見過ごしている現象があったのですから、因果関係を実験から見いだすというのには無理があったところもあったはずです。ICTを現象を記録する実験道具として活用することは今後の戸板の新しい理科教育には重要な役割を果たしていくと思います」と説明してくれた。