富士見丘中学校高等学校(以降「富士見丘」)の破格なグローバル教育の評判は、かなり広まってきている。帰国生からの問い合わせも多い。ロンドン大学キングズカレッジとの提携により、同大学のジョーンズ先生からは、富士見丘学園のグローバル教育の基礎がしっかりあるから、進学してから大いに探究し才能を伸ばしていけるだろうというメッセージが届いてもいる。
この富士見丘のグローバル教育の基礎は、ハイレベルな英語教育のみならず、グローバル社会が必要とする人間力も育成するところに特徴がある。グローバル教育の根っこについて、教頭大島則男先生と副教頭白鶯訓彦先生に聞いた。(by 本間勇人:私立学校研究家)
左から 大島教頭、白鶯副教頭
富士見丘のグローバル教育の真骨頂
――富士見丘のグローバル教育は、ロンドン大学キングズカレッジなどの東大・京大レベル以上の海外大学に進学する教育が行われていることはすでに有名ですが、国内の大学に進学する生徒にはグローバル教育はどのように行われるのでしょうか。
大島先生:国内の大学進学を選択するにしても海外の大学進学をするにしても、同じようにグローバル教育を行っています。グローバル教育は、日本から外に出る教育という意味ではありません。日本人だけがグローバル時代に対応するのではなく、世界の人々も同時に対応しているわけですから。
たとえば、米国から日本にやってくることもグローバルな動きの1つです。つまり、グローバル時代は、いまここでも、いまあちらでも、リアルタイムにひと・もの・経済・政治・情報などが動いていることですから、場所にこだわる必要はありません。
白鶯先生:大学自身もグローバル時代に対応しなければなりません。実際にはなかなか改革は進んでいませんが、年々グローバルスタンダードを入学試験の資格の中に組み込んでいるのも確かです。ですから、本校のアカデミック・イングリッシュでは、IELTSやTOEFLに向けた授業もしていますが、このスコアは、国内のAO入試や公募推薦の入試でも、有効です。
しかし、グローバル教育というと、このような特別な英語の取り組みとすぐに結びつけてしまう昨今の風潮は、少々強引というか短絡的ですね。
大島先生:たしかに仮に国内の一般受験の英語の勉強をしていたとしても、海外の大学に行ってみたいと思ったら、シフトすればよいのですが、そのときに英語の力以上に重要なある基礎力、バックボーンが必要になります。ここを丁寧に教育しているのが富士見丘ですね。
白鶯先生:グローバル教育の一環として、国際教養大学(AIU)の研修があります。参加する生徒は、海外留学の準備として中3から高2までの希望者が多いのですが、必ずしも留学準備のためばかりではありません。
というのも、AIUのアドミッションオフィサーのお話では、「はっきりいって本格的英語力は、うちに入学してからなんとかなります。もっと幅広い視野や深く考える経験を積んできてもらいたいのです」と。ですから、AIUのグローバルスタディーキャンプでは、英語力以外に人間力のベースも学びます。
――グローバル教育における人間力というのは、今までの日本の教育でも、十分ではなかったかもしれませんが、人間力は無視されてこなかったと思います。同じ「人間力」でも、グローバル時代と今までの時代とでは違うのですか。
白鶯先生:違います。わかりやすいので、最近話題になっているIB(国際バカロレア)が想定している学習者像を例にとります。IBでは、次の10の学習者像を挙げています。
Inquirers 探究する人
Knowledgeable 知識のある人
Thinkers 考える人
Communicators コミュニケーションができる人
Principled 信念のある人
Open-minded 心を開く人
Caring 思いやりのある人
Risk-takers 挑戦する人
Balanced バランスのとれた人
Reflective 振り返りができる人
従来の20世紀型教育では、「知識のある人」「信念のある人」「思いやりのある人」「バランスのとれた人」は前面にでていましたが、「探究する人」「考える人」「コミュニケーションができる人」「心を開く人」「挑戦する人」「振り返りができる人」は、大学や企業でも求められている通り、21世紀型、つまりグローバル教育で大切にしたい「人間力」を反映していると思います。
大島先生:20世紀後半は、日本の場合、異質な価値観と遭遇しないから、同質な価値観を持った人間関係を築くスキルに偏っていたのかもしれません。「知識のある人」「信念のある人」「思いやりのある人」「バランスのとれた人」というのは、国内外関係なく必要なのですが、国内だけでも通用してしまう。
しかし、「探究する人」「考える人」「コミュニケーションができる人」「心を開く人」「挑戦する人」「振り返りができる人」という人間力は、同質の価値観の人間関係の中では、突出してしまい、出る杭になってしまう可能性が高かった。そういう才能を潰さないように女子教育を積み上げてきた本校は、結果的に21世紀型教育を先取りしていたと自負しています。