桜丘の副校長品田先生のインタビューの中(『「桜丘ラーニングコモンズ」が21会型学びを見える化する』参照)で、教師がiPadを活用する授業にチャレンジし、その試行錯誤を互いに交換しあうミーティングを行っていると聞いた。ということは、多くの先生方がタブレット導入授業を試みているということであるから、同校で夕刻21会の定例会がある日、少し早めに訪問し、5、6時間目の授業を見学させていただいた。その浸透力に驚いた。by 本間勇人:私立学校研究家
(短焦点プロジェクターとiPadがさり気なく使われている。コンパクトなセッティング)
インプットの段階で情報収集・整理の仕方を学ぶ
高校生の倫理の授業。イメージが全く違った。古今東西の哲学者が教科書に詰まっているが、実際に原典を読むわけではないから、教科書に書いてある二次情報や板書をインプットして暗記する科目だという先入観をもっていた。しかし、それは全く違っていたのだ。
生徒は、プロジェクターに流されている情報を書き写す作業をしない。映し出された情報を、ワークシートに、収集、整理していくという作業をする。従来は板書をノートに写し、それを丸暗記するか、自分で工夫をして整理してきた。
しかし、自分で工夫する生徒は少ないから、多くは丸暗記をする結果になっていた。ところが、プロジェクターは、教師が板書する時間は0だから、情報がどんどん生徒に提供される。それを書き写してインプットするということ自体が物理的に不可能。
その代わり、ワークシートを教師が準備し、生徒は情報をインプットするときに、ワークシートに従って、情報を整理していく。情報をインプットする段階で思考が始まっているのである。
出来る生徒だけではなく、すべての生徒が情報の収集・整理の仕方を学ぶ機会が増えているのが、従来の授業と大きく違うところだろう。
ズームアップとズームバックはモニタリング(振り返り)の学びの見える化
生徒が持っている資料集は、pdfでiPadに取り込んでおき映し出す。だから、教師は何ページの何行目を見なさいという「指示」を何度も言う必要はない。生徒が自分の持っている資料集とマッチングさせながら、教師の解説をインプットしていく。そのとき、注意をしたい画像などは、ズームアップされること。このズームアップとズームバックの滑らかな繰り返しが実に効果的なのだ。
というのも、従来は頭の中で、教師の話を聞きながら行ってきたわけだが、途中で集中力がきれて、どこの箇所をフォーカスしているのかわからなくなることもしばしばだっただろう。
しかし、タブレット導入授業は、そういうことがない。何よりも、ズームアップとズームバックとは、情報を俯瞰したりフォーカスするモニタリング(振り返り、メタ認知)の思考作業の見える化である。
既存のテキストに未知のテキストを挿入する
生徒があらかじめ持っているテキストや資料、ワークシート、ノート以外に未知の情報も挿入される。今回の授業で取り上げられたモンテニューとパスカルの語録を映し出す。ブラックユーモアのような表現に笑いがあふれたり、自分たちが背負う問題を突きつけられてうなったりするシーンが立ちあがる。
新しい情報の挿入は、実は非日常を創り出す大事な仕掛け。開放的な精神こそ知的好奇心を膨らます。
そして授業終了後、廊下に出れば、本を読んでみようかと誘引する空間もある。
リアルな空間とサイバーな空間のコントラストの差異が、気づきや好奇心を触発する。既存の学校空間を有効な学びのコモンズに変容する大きな役割もタブレット導入授業は果たしている。
今年は、教師が全員iPadを持っていて、授業イノベーションの準備をしているわけだが、来年から中1と高1は、生徒が全員iPadを持つことになる。校内はwifiが完備しているから、教師が使うテキストはすべて生徒1人ひとりのiPadに取り込まれることになる。
いつでもどこでも、授業それ自体をモニターすることができるのである。ということは、生徒自身の「情報リテラシー」の土台が極めて重要になる。21世紀型の思考力は「情報リテラシー」として可視化されるのかもしれない。