Created on December 19, 2016
富士見丘の教育改革には格別の意志が働いている。一般に中等教育段階の改革とは、自校の入試改革や授業システム、進路指導システムの改革を指し示す。
しかし、富士見丘の教育改革は、もちろんSGH(スーパーグローバルハイスクール)として、自校の教育のバージョンアップも大いに進めているが、大学付属校ではない有利な拠点であることを活かし、多様な高大連携プログラムを企画実行することによって、高大接続システムの改革モデルも射程に入れている。
つまり、中等教育の新しいモデル、高大接続システムのスーパーモデルを実現しようという格別な意志が同校に存在しているのである。by 本間勇人 私立学校研究家
12月18日(日)、爽やかな冬晴れの新浦安の地に、富士見丘生は集合し、明海大学に向かった。同校の校長補佐であり明海大学の専任講師である吉田成利先生や慶応大学や上智大学、シンガポールの高校などとの多様な連携プログラムを実施している先生方もいっしょだった。
今回の目的は、来春から始まる明海大学のホスピタリティ・ツーリズム学部ホスピタリティ・ツーリズム学科のオールイングリッシュの特別レクチャーに参加すること。吉田成利先生は法学や憲法を講義するのだが、もちろん英語をつかった講義を実施する。つまり、この新しい挑戦のために同大学に招聘された。
同時に、吉田成利先生は、ロンドン大学キングス・ カレッジで法学博士を取得しているが、シカゴ大学大学院をはじめとする豊富な海外研究生活を活かし、富士見丘学園の多様な(イギリス、UAE、オーストラリア、米国西海岸など)留学や研修システムづくりのサポートもしてきた。
(今回のイベント体験を通して気づいたことを、生徒と対話する吉田成利先生)
おそらくその流れを明海大学でも広げるのだろう。ご自身の経験からも、これからの日本の中高生や学生にとって、英語で海外の大学の授業を受けられる力が必要だと確信しているのだと思う。
実際、明海大学のホスピタリティ・ツーリズム学部でも、語学留学ではなく、海外大学の1年間必須の交換留学制度が実施される。当然海外では議論やエッセイライティングができなければならないから、たんなる英語技術の取得レベルや日本の大学受験レベルの英語力を身につけただけでは有用ではない。
(明海大学には、随所にホスピタリティの雰囲気が立ち上がるアフォーダンスの仕掛けの空間がある)
それ以上の英語を武器に探究活動や議論ができるレベルに中等教育と高等教育の接続システムを大幅に改革しなければならない。吉田成利先生は、そのような強い意志を持っているのである。
今回の明海大学における特別レクチャーは、その一環である。講義は、ハワイ大学のラッセル・ウエノ教授とセントラルフロリダ大学の原忠之准教授によって行われた。中2のグループと高1・高2のグループに分かれ、ローテーションして、2つの講義に参加した。
(富士見丘の生徒と英語で対話するハワイ大学のラッセル・ウエノ教授)
テーマは、それぞれ、ブランド・マネジメントとホスピタリティ・リーダーシップ。オールイングリッシュで講義がなされたし、問答も英語。質疑応答も英語。
驚いたことに、英語の力以上に、なぜ今観光業なのか、マネジメントとしてクリエイティビティが必要なのか、ホスピタリティが必要なのか、政治経済や産業構造、人口問題の変わり目という世界や時代認識が求められる大学の講義に、富士見丘の生徒が真剣に参加し、考え、質問をしていた。
そして、中高時代の授業とは明快に異なるのは、ホスピタリティー・リーダーの経験とサラリーの関係にまで踏み込む話題があること。大学に入ると、高大接続から産学接続の話になるのかと実感したことだろう。ところで、大学の先生のサラリーはどうなのだろう。富士見丘生の質問に、ユーモアを交えて応える先生のトークに、対話の柔らかさも感じるシーンもあった。
(軽快なリズムで講義をするセントラルフロリダ大学の原忠之准教授)
このようなイベントは、明海大学の英語で講義をする挑戦とCEFR基準でC1英語力を身につける英語の環境のみならずSTEAM×デザイン思考教育やアクティブラーニングの環境など良質教育を形成している富士見丘の挑戦とが出会ったからこそ実現されたのであろう。
実際、富士見丘の吉田理事長・校長、明海大学の宮田理事長、安井学長、草野学部長など多くの方がかかわり、今回の学びの機会を創出した。
吉田理事長・校長は、前回の中教審のメンバーでもあり、今回の文科省の高大接続改革システム会議のメンバーでもある。
(今、未来をいっしょに創っていく具体的イメージを生徒と共有する吉田晋理事長校長)
審議会などで助言したり各メディアで発言したりするだけではなく、実際に中等教育と高等教育の新しいあり方を実現しようとしている。なぜなら、改革が実現するまで、目の前の生徒の未来は待ってはくれないからだ。いまここに未来があるのだ。富士見丘の教師陣と明海大学の教授陣のコラボレーションが新たな日本の教育モデルを実現することに期待したい。