Created on June 4, 2018
「思考力の再定義~世界を変える思考力とは?」のワークショップは、本橋真紀子先生(聖学院)、内田真哉先生(聖学院)、田代正樹先生(静岡聖光学院)のファシリテーションによって行われました。リフレクションカードやLEGOといったさまざまなツールを用いながら、参加者の内に湧き上がる思考を表現・共有・再構成をしていきます。
ファシリテーターの先生方が課題とツールをなぜ用い、どういう思考力を見ようとしているのかを述べつつ、参加した先生方がその影響を受けて進めた内的対話の様子をグループで共有し、思考力の再定義を行う。これは、よくある技能習得の教員向けセミナーとは全く異なります。
思考力とは何か、生徒たちにどのような思考を促すべきか、といった内省を深め、知を共有する「サイクル」を生むことが最も重要であると理解しました。
この分科会で特徴的だったのは、リフレクションカードやLEGOといった補助的な道具を用いて対話を促すことです。創発的な思考を促すために、さまざまなやり方を用い、新たな気づきや手法を生み出す。そのプロセスを経て、思考力とは何かという命題と向き合ってきた3名のファシリテーターの姿とともに、その価値に共感し創発する先生方の様子が印象に残りました。
(「学びの再定義」ユースプロジェクトの発表の様子)
第Ⅲ部は、各分科会の様子を各グループの代表者がプレゼンテーションをしました。
まずは「学びの再定義」ユースプロジェクトの発表です。参加者は英語と日本語の両方で発表しました。生徒たちは、学び手として率直に感じた事柄を起点に、世界を変える教育について論じていました。エッセンスは以下の通り。
成果より過程を大事にすること、そのために先生方の思考力を高める必要があること、STEAMやIB教育を参考に多角的な学びを得ること、ツールとしての英語教育、日本語で学び考えることの重要性、学びのコンフォートゾーンが作られないことによる教育の不全、人間の内面的な部分の深堀ができていない、「なぜ」と問い続けること、色々なことに興味を持つこと、海外の人々との交流、生徒たちの自信を鍛える教育、保護者の過干渉、話し合い伝える能力と柔軟性の重要性…
生徒たちの「学び」の定義や提案は、多くの教育関係者の心に突き刺さるものばかりでした。学びの主役である生徒たちの思考の深さと、その問題の本質を掘り下げていく姿勢、教育者の前でも問題点を指摘する潔さ。21st CEO加盟校の生徒たちのクリティカルかつクリエイティブマインドに驚くばかりでした。
(「学びの再定義」教師部会のプレゼンテーションの様子)
次は「学びの再定義」教師部会のプレゼンテーションです。
これからの未来に向けて教師が変わる必要があること、いわゆる詰め込み教育の時代にも学びの本質を追求する教員が多くいたこと、現場の教員は実は知識を詰め込もうと意識しているわけではないこと、どのような種類の学びが世界を変えるのか、幸せな人生とは何か、クリエイティブな学びとは何か、日常生活から学べることは何か、多種多様な質問を持ってきて投げかける場が授業であること…
教師部会では、学びの根源を探る問いを探究してきた様子がわかりました。このワークショップでは、進学実績重視・偏差値主義が闊歩するガラパゴスした日本の教育界をクリティカルな視点をもって再考察し、学びを再定義してきた様子がうかがえました。そして、これまでの教育の在り方をすべて否定的に捉えがちな中で、それまで積み上げてきた教育実践者の姿を振り返りながら、よき伝統は引き継ぎつつ、新たな教育を生み出していこうという気概を感じました。
「学び」や教育の定義は多種多様で、自ら受けてきた教育を再生産すれば子どもたちは幸せになると信じがちです。しかし、21st CEOの先生方はその点を一度批判的に捉えてみようと試みました。学びの再定義、つまり学びを創発するためには不可欠なプロセスだったといえます。
(「思考力の再定義」教師部会の発表の様子)
「思考力の再定義」教師部会では、「創造性とは何か」を問うたり、学びの場のデザインについて考察したりする流れとなったようです。
組み合わせの面白さ、日々生まれる創造として組み合わせを無限にする方法はないか、バラバラに散らばっているものを時間と空間という軸で共有する場が必要、互いの知識をシェアする場づくり、肯定感の育成、何かとの出会いによって学びは起こる、知識を得るための集中力や訓練の必要性、自己変容することの重要性、創造性により社会問題の解決と貢献という21世紀型のゴールを目指すこと、その土台にはコミュニケーションが必要なこと、よりよく生きるための学び…
ワークショップの様子を見ると、ユースプロジェクトも2つの教師部会も、同じベクトルを向いて議論していたことがわかります。石川先生のPBL100%宣言にもあったように、このカウンシルでは、参加者がプロブレムから始まる学びから、プロジェクトによる学びへの変遷を感じていたのではないでしょうか。
「学び」「思考力」について、日本では様々な議論がなされています。その多くはプロブレムベースでのものです。AIに仕事を奪われる、グローバル化によって競争社会が激化する、学校教育には大きな問題がある、という問題を起点に教育を変えようと声高に叫び続けます。
しかし、今回カウンシルに参加したメンバーはもっと幸せな世界を創り上げてもよいのではないか、という思いのもとで、思考を巡らせた様子がわかりました。
(左上:本間先生、右上および下:全体会の様子)
最後に、「明日に向かって」と題し、本間勇人理事よりカウンシルのまとめがありました。
今回の分科会で行ったディスカッションワークショップは、量子力学の物理学者デヴィット・ボームの「ダイアローグ」と、ZENの「十字図」を参考に創り上げてきたということです。ここでいう「ダイアローグ(対話)」というのは、私たちが一般的に理解する対話の意義とは異なります。
対話は2人の間ではなく、何人の間でも可能だし、一人でも自分自身と対話できます。対話を通して、グループ全体で一つの意味の流れが生じ、そこから新たな理解が産まれ、創造的なものが産まれます。
それを具現化したのが、今回のディスカッションワークショップとのこと。一人が情報を提供し、互いの考え方・感じ方を承認し、自己を変容させながら柔らかな雰囲気のもとにプロトタイプを創発する。これは、一般的に行われるような、互いの意見に同意させるディスカッションとは異なります。メンバーで意味を共有し、互いに関係を密にしながら、協調的な態度で次の行動を促します。
21st CEOでは、ダイアローグを核とし、思考力と学びを創発し、それを加盟校でそれぞれ仕組みとして取り入れる活動をしています。こうして、世界を変えていく次世代を輩出し、最高善を生み続けられるようなトルネードを生み出したいと決意を共有し、会は終了しました。
日本の中高教育現場は大学入試合格による進学実績や教科書内容の習得を主軸に据えることが多く、本来の学びのあるべき姿である「未来をつくる」「世界を変える」ための教育とはかけ離れた様子をしばしば見かけます。まるで、良心を育むよりも、自己の損得勘定を優先するかのような、強欲資本主義に則った教育が平然と行われています。
しかし、21st CEOが描こうとする教育の世界は異なります。自他を認め、異なる価値観を有することを前提に、どう対話しながら、さまざまなプロトタイプを創発し、世に発信するか。加盟校に所属する全員が、社会の構成員としての立ち居振る舞いを明確にし、どう協調しながら行動するのかを意識しようという、学びの根源を追求する姿があります。
今回のプレ「グローバル教育カウンシル(GEC)」を通し、「学び」「思考力」とはダイアローグ(対話)から生まれること、外的・内的対話がこれからの世界を生む心を育むことを体感できました。今回は加盟校のみの開催でしたが、今後は公開イベントを目指しているそうです。開催の暁には、多くの保護者やお子様、教育関係者に、対話から生む世界をご体感いただきたいです。